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108 恋する淑女と近衛騎士(2)

「げえっ! ウィレム!!」


 メリアローズを抱き留めた青年――ハンフリーは、現れたウィレムを目にした途端、盛大に顔をひきつらせた。

 だがメリアローズはそんな彼の様子には気づかずに、ただ茫然とウィレムを見つめていた。


「あなた、別の場所にいるはずじゃ……」


 メリアローズがそう呟いた途端、ウィレムはすっと目を細め、冷たい視線でこちらを睨みつけてきた。

 メリアローズは思わずびくりと体を跳ねさせてしまったが、どうやらウィレムが睨みつけているのはメリアローズではなく……傍らのハンフリーであるらしい。

 彼の方を振り返ると、明らかに「しまった!」とでも言いたげな表情を浮かべていた。

 メリアローズはさっぱり状況が分からずに首をかしげる。


 呆れたようにため息をついたウィレムは、静かに口を開く。


「……ハンフリー、俺はずっとここで訓練の予定だが」

「あー! そういえばそうだったな! 悪い悪い、勘違いだよ勘違い!!」


 ハンフリーは慌てたようにメリアローズを支え、しっかりと立たせる。

 そして、ものすごい速さでその場に跪いたのだった。


「麗しのレディ、名残惜しい限りですが……私と貴女の運命の糸が繋がっていると信じて、今日は立ち去りましょう。それでは、また会える日まで!」


 一息にそれだけ告げて、彼はメリアローズの手の甲にうやうやしく口づける。

 そして次の瞬間には、脱兎のごとくその場を走り去っていった。

 その姿は勇敢な騎士などには見えず、まるで悪戯のばれた悪ガキのようですらあった。


「なんだったのかしら……」

「まったく、油断も隙もない」


 ぽかんとするメリアローズに近づいてきたウィレムが、ハンカチを取り出し、心底不快そうにメリアローズの手の甲を拭う。


「…………で、あなたはこんなところで何をやってるんですか」


 じとりとした視線を注がれ、メリアローズは不覚にもたじろいでしまう。


 ――べ、別に後ろめたいことなんて何もないんだもの、堂々とすればいいのよ!


「私は……あなたに会いに来たのよ」

「たった一人で? 何のために」

「だから、その…………交換日記を、渡そうと思って……」


 堂々とすればいい、と思っていても、どうしても声が小さくなってしまう。

 確かに王宮の敷地内とはいえ、供もつれずにやって来たのは不用心だったかもしれない。

 できればウィレムと二人っきりになりたい……という乙女心ゆえの行動だったが、メリアローズの言葉を聞いたウィレムは、驚いたように目を見張った。


「交換日記? そんなの、誰かに頼めばいいじゃないですか」

「……別にいいじゃない。私が自分で持ってきても」

「よくない! あなたは――」


 何故か怒り出したウィレムだったが、すぐにはっとしたようにあたりを見回し始めた。

 メリアローズもつられて周囲に視線をやる。

 すると訓練場付近にいる騎士たちが、興味深げにこちらを見ているのに気がついて、どきりとしてしまう。

 いつの間にか、随分と目立ってしまっていたようだ。


「……ここでは注目を浴びすぎる。場所を変えましょう」

「そうね……」


 語気は荒れているが、ウィレムのエスコートはいつもと変わらず丁重だった。

 彼にいざなわれるままに、メリアローズは足を進める。

 ウィレムは無言で、メリアローズも何を言っていいのかわからず押し黙っていた。

 二人の間を、嫌な沈黙が包んでいる。


 ――なによ、そんなに怒ることないじゃない……。


 メリアローズには、ウィレムがどうして怒っているのかわからなかった。

 だが、せっかく意気揚々とやって来たのにこんな対応をされてしまうとは……。

 どうしても、落ち込んでしまう。


 ――会いたいと思っていたのは、私だけなの……?


 彼ならば喜んでくれると思っていた。

 交換日記を渡して、近況などを話して、彼の元気な姿が確認できればそれでよかった。

 そうなるに違いないと期待して、メリアローズは今日ここにやって来たのだ。


 ――私……何か勘違いしてたのかしら……。


 メリアローズがウィレムを想うほど、彼はメリアローズのことを想ってはいなかったのかもしれない。

 そう考えるとどうしても悲しくなって、メリアローズは俯いてしまった。


 だから、気づかなかった。


 隣を歩くウィレムが、何度も心配そうにこちらに視線を向けていたことに。

コミックシーモア、がうがうモンスターにてコミカライズ3話が公開されました!

今回は釣り回です!

野生児全開のジュリアがとっても可愛いので是非見てください! み゛ゃー!!

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