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 後日談にはラスボスが潜んでいる。

♢29♢


 現実でのバレンタインの翌々日。今日は2月16日です。ボクはいつもより早起きし、一本早い電車に乗るつもりです。

 ただ健康的に生きることにしただけだよ。他意はないんだよ。


「れーと、じゃまー。でるなら早くいなくなって」


 ……今の言葉。何か悪意があるよね?


 ここは玄関だし、俺は靴を履くのに座り込んでいる。横は通れないだろうし、外に出るには俺が先に出なくてはいけない。邪魔といえば邪魔だろう。


 しかしだね……。


一愛(いちか)。今のさ、悪意があるよね。朝からいったいなんなのかな?」


 俺の背後にいるのは一愛。妹である。ひらがなが多いのはご愛嬌だ。許してやってくれ。

 俺より1つ歳下で……まあ、普通の子だとしておこう。


 背格好はお姫様とジャストくらいだな。服のサイズも靴のサイズも同じだったし。

 つまり、妹も残念なスタイルをしているということだ。可哀想に……。


 両者の明確な違いは、髪の毛の色と長さくらいだろう。お姫様が長く、妹が半分くらい。

 あと、妹は若干丸顔である。ばあちゃんとかママンに似たらしい。可哀想に……。


「なんでもなにも、ダメれーとには大概のことを言っても許されるとおもう」


「よし、朝からケンカを売ってるのはわかった。で、いったい俺の何が駄目だって言うんだい」


「──ぜんぶ!」


「──全部!?」


 全部と言ったのか、この妹は……。

 妹から尊敬されるべき兄に向かって、全部が駄目だと。


「おいおい、妹よ。いくら俺が優しくても、許せることと許せないことがあるぞ。ごめんなさいしなさい」


「ふーん。お姉ちゃんに許してもらって、おまえちょーしにのってるな」


 何故、一愛がそんなことを知っているんだろう。

 俺は最近、こいつと顔を合わせた記憶すらないんだけど。どうなってんの。怖いんだけど。


「一愛ちゃん。何でそんなこと知ってるの?」


「お姉ちゃんとは毎日ラ○ンしてるし。れーとのダメさ加減はちくいち聞いてます。ダメれーと」


「いやいや、妹よ。嘘は良くないぜ」


 嘘よ嘘。ラ○ンしてるとか嘘だね。だって、妹は携帯持ってないからね。

 中学生が携帯電話を持つとか早すぎるから。俺だって、高校に入ってようやく買ってもらったわけだし。


「一愛ちゃんや。自分も携帯電話が欲しいというのなら、まずは高校に合格して、パパンなりママンなりに、土下座覚悟で頼まないとだね。わかったかい。 ──って、携帯持ってる!? お前、いつのまにそんなものを……」


 一愛がコートのポケットをゴソゴソしたと思ったら、効果音がつきそうな感じで、ポケットから携帯電話が出てきた。

 お子様携帯とかではない。スマホだ。しかも、リンゴの新しいやつ。


「1月の最初に買ってもらった! ほら、塾のむかえとかあるじゃん?」


「つまり携帯を買って2ヶ月以上経ってるのに、どうして俺は何も知らないのかな?」


「えっ、なんでれーとに教えなくちゃいけないの?」


「「えっ?」」


 家族が携帯電話を買ったとする。それを知らないのはおかしくないか。普通は番号を知らせるよね?

 だが、俺は番号どころかその存在すら知らないとか。まったく笑えないんだが。


「しかし、あれだな。お姉ちゃんにあやまりにいったのは評価している。いまさら感と、クズさ加減は拭えないがな」


「いや、しかしじゃねーよ! 携帯の話は終わってないから、『お兄ちゃん、携帯電話買ってもらったよ。番号教えて』って言いにこいよ!」


 普通はそうだろ。それが妹のあるべき姿だろ!

 俺は何も間違っていないはず。そうだよな、全国のお兄ちゃんたちよ!


「妄想はやめてください。通報しますよ」


「えぇ──、急に他人行儀!? そんなに俺に番号教えるのやなの!?」


「うん」


 マジのトーンなんだけど……。

 我が家の中での俺の地位とかどうなってるの。

 長男はどういう扱いなのよ。


「……もう携帯の話はいいや」


「お姉ちゃんの番号が知れたしいいじゃん。隅に置けないなー、このこのー」


「そうだねー」


「一愛の服を持ち出したときは警察に通報しよう思ったけど、お姉ちゃんのためならばしかたない」


 わ、忘れてた! 一愛に言われて思い出したが、そういえばそんなことあったね。

 あの服はお姫様が着ていったままだ。それにしても……。


「親に言うとかじゃなくて、直接警察に行っちゃうんだね。一愛ちゃんは」


「うん、当たり前だね。ただ、そういうのはちょっと控えたほうがいいと思うな」


「そういうのとは?」


「妹の服を着せるという特殊なプレイはだよ」


「──ブッ」


 思わずむせてしまった。口に何か入っていたら大変なところだった。

 そして、何てことを言うんだろう。この受験生は。

 俺は中3の妹の口から、特殊なプレイとか聞きたくなかった!


「きっぱり否定する。何もかも違うからな!」


「じゃあ通報しなくちゃ。妹の服を何にどう使ったのかを調べてもらわなくちゃ。ちょうど携帯あるし」


 俺の反応を見るや、一愛はスマホのロックを素早く解除し、1、1、0、と入力。

 あと1手順でいろいろ終わるところまでいってしまう。というか、この妹はやる!


「待って、掛けたら冗談じゃ済まなくなるから!」


「れーとの部屋にもなかった」


「お前、人の留守に部屋に忍び込んだのか! デリカシーとかないのか!」


 こいつ、いつの間にそんなことを……。

 男子高校生の部屋に忍び込み、家捜しするなんて。見られては困るものがあるというのに。

 ……クローゼットのことだよ。決まってんだろ? 他には何もナイヨ。


「おい、自分のことを棚に上げてなにいってんだ?」


「おっしゃる通りです。申し訳ありませんでした」


 自分の非を素直に認め、妹に深々と頭を下げました。大変お優しい妹様は快く許してくれました。



 ※



 俺は妹に、少なくとも『変態』と思われている。

 確かに、そんなやつに連絡先は教えたくない。ただ、──弁明できない!


『実は異世界があってー、そこのお姫様に一愛(いちか)の服を着せたんだー』


 何1つ嘘ではないが、口にしたらヤベェやつ認定される。番号を教えてくれないどころか、口も聞いてくれなくなりそう。そして通報される。

 ルイには悪いが、一愛の服は特殊なプレイに使ったとさせてもらおう。それで妹は納得してくれるんだし、いいよね。


「お姉ちゃんがボコったらしいから、一愛からはとくにない。あとは本人たちの問題だと思います。ただ、清い交際をしたほうがいいと思います」


「……はい」


「よろしい。バレンタインにチョコレートを貰ったからには、お返しはきちんとすること。妹の手をわずらわせないよーに」


「……はい」


「よろしい。それから、これは可愛い妹からです」


 もはや完全に立場は逆転し、妹に説教された兄である俺。もう立場とかはない。最初からなかったのかもしれないが、無い。

 俺はそんな妹様から、何かを手に握らされた。


「チ○ルチョコ。一愛ちゃん、これは?」


「バレンタインはすぎたけど、バレンタインのチョコレートだよ。お返しはちょーだいね」


「チ○ルチョコ1個で!? 別に用意したとかじゃないよねこれ。絶対にたまたま持ってただけだよね!?」


「ふーん、バレンタインが解禁されて、やっと妹からチョコレートを貰えたのに。そんなこと言っちゃうんだ」


 バレンタインが解禁とはいったい……。俺のバレンタインは禁止されていたとでも、この妹は言うつもりなのか。

 そんなわけないとは思うが、今の発言はとても気になる。


「どういう意味?」


「お姉ちゃんが、れーとにバレンタインチョコをあげない以上は、誰もれーとにチョコをくれないということだよ。知らなかったの?」


「そんなバカな──」


「バカはおまえだ。お姉ちゃんの変化にも気づかず、アホづらをさらして今年まできた。お姉ちゃんがとめなければ貴様は、お姉ちゃんをからかったヤツらのようになっていたところだ」


 なんだろう。雲行きが怪しくなってきた。こう、ゲリラ豪雨的な感じになってきた感じ。

 これ以上は聞いてはいけない気がします……。


「ずいぶん詳しいみたいだけど、一愛ちゃんは何を知ってるのかな?」


 しかし、好奇心には勝てなかったよ。

 何より一愛は何かを知っているようだし。


「れーとが小5のバレンタインのときね。アホなれーとは気づかなくても、一愛とお姉ちゃんの周りの友達は、バレンタインの次の日には何かあったと気づいた。だから──」


「──だから?」


 怖い怖いと思っても、聞いてしまうのが人の性。

 まして俺の最大級のやらかしに関する、俺の知らないこと。聞くなと言うのは無理だ。


「からかったヤツらのクラスと名前を特定して、体育館裏に呼び出して──」


「──し、シメたのか!? 当時、小4のお前が!? 嘘だろ……」


 なんてこった。ここにも物理キャラがいたのか。知りたくなかった。

 のほほんとしてる妹だとばかり思ってたら、裏ではヤンキーさながらの悪事を働いていたというのか……。

 そんなこと、お兄ちゃんは知りたくなかったよ。


「違う! 問いただしただけだよ」


 あ、焦ったーーっ。妹がそんな、どこぞのヤンキーみたいなことをしていたらどうしようかと思った。

 そうだよな。我が妹に限ってそんなわけないよな。早とちりでした。


「よく1人でそんなことしたなー。はっはっはっ──」


「1人じゃないよ。クラスの女子全員と、お姉ちゃんの友達全員と、一愛が集められるだけの女子全員でだよ」


「こえーーーーっ! 想像だにしなかった! そんな体験トラウマだよ!」


 そ、想像してみようか……。呼び出された体育館裏に、大量の女子が待ち構えている状況を。

 きっと、呼び出された方は勘違いしていたことだろう。それが小学生男子であっても男は男。都合のいい勘違いをしていたことだろう。


 例えば、『バレンタインは過ぎたが、恥ずかしくて当日は渡せなかったシャイな子が!?』とか。『あえてバレンタインをずらしてきたか!』とか。『チョコレートが貰えなくても勝ちやんけ!』とか。


 それが、いざ行ってみれば真逆の展開。ちょっと多過ぎる女子たちが、自分を待っていると。いや、待ち構えていると。

 おそらく別々に呼び出され、行ったやつから確保され、きたやつから勘違いだったと後悔し、数の力で地面と同じ砂に変えられると。こ、こわい……。


「こわくて聞きたくないんだけど、その哀れな男子たちは今もちゃんと生きているのかい? 地面と同じ砂に変えられてしまったとかじゃないよね?」


「問いただして、お姉ちゃんに働いた無礼を心から謝罪させ、二度としないと誓わせただけだよ?」


「『だよ?』って最後を可愛く言っても誤魔化せないからな」


 そんなもんで誤魔化しきれない。どう想像しても怖すぎる。

 男子たちが行き着く先は、どう考えてもデスる結末だ。そうじゃなかったとしても、その後が心配すぎる。


「これ本当は、れーとがやらなくちゃいけないことだよね」


「……」


「それを、何も気づかずのほほんとしやがってー。当時は毎日、『こいつも同じようにしなくちゃいけないな』と思ってたんだよ」


「思ってたんだ……」


 俺にその刑が実行されなかったのは、ルイが止めたから。

 俺1人が大量の女子に囲まれる最悪のパターンもあったが、優しい幼馴染はそれを望まなかった。


 本当は哀れな男子たちも同様にだろう。

 一愛は無駄に行動力があるから、ルイが知ったのは男子たちがやられてしまった後のことなはずだ。


「で、結局その哀れな男子たちはどうなったんでしょうか?」


 俺には何も起きなかった。だが、犠牲者はいたのだ。

 救いようがないやつらだったが、今になったら可哀想だと思う。デスってしまったなんてさ。


「これは言ってもいいのかな?」


「やっぱり、実は全員生きてないとかってオチか」


「バカすぎる。あの男子たちが、どうしてお姉ちゃんをからかったのかわかる?」


 分からない。単に目についたからじゃないのか?

 分からないので首を横に振り、一愛の言葉を待つ。


「あの男子たちはねー、お姉ちゃんが好きだったんだよ。だから、そのお姉ちゃんがチョコを渡すのを見て魔がさした。好きな子が別の男にチョコを渡すシーンを偶然目撃してしまった。そんな気持ちもわからなくはない。だから、全員許されました」


 そうだったのか……。ルイに人気があったのも知らなかったし、そんな裏があるなんて思いもしなかった。

 俺は本当に何も分かってなかったというわけだ。しかし、そうなると疑問が残るよな?


「じゃあ、俺のバレンタイン解禁とは? 今の話に関係ある?」


「1人だけ何の罰もないのもアレなんで。お姉ちゃんがバレンタインにチョコを渡さない限り、れーとにチョコをあげてはいけないという法が出来ただけだよ」


「……えっ」


「そのかいあって誰からも貰えなかったよね。義理チョコでさえ禁止されていたからね」


 そんなバカな! しかし、実際に義理チョコすら貰えてない!

 法。法ができていた!? 俺の知らないところで! 当然、女子だけが知ってる法なわけで。野郎は知らないわけで。そうなると誰も教えてくれないわけで!


「ああ、からかった方の男子たちは、義理ですがチョコをいただいて今も幸せに暮らしています。おしまい」


 一愛がラスボスだーー! こ、こんなところにラスボスがいた……。

 バレンタインを禁止する法を制定し、何も気づかせず、のほほんとしているフリをしていた。おそるべき妹だ。


「れーとも、きっと来年からは義理チョコをいただけるでしょう。よかったね」


「ラスボスだ……。一愛、お前がラスボスだーー!」




♢エピローグ♢


 結局、一愛(いちか)と2人で家を出た。こうして妹と一緒に登校するのは久しぶりだ。

 俺は1分前に教室につくように登校するが、妹はわりかし早く家を出ていくので、2人で登校するのは班登校だった小学生以来だ。


「ところで一愛ちゃんや」


「なにー」


「どうして俺は零斗(れいと)呼びなのに、ルイはお姉ちゃん呼びなんだい?」


 ずっと気になっていたことを聞いてみた。いつか聞こうと思っていたが、そのチャンスは中々なかった。

 2人だけで並んで歩いている今は、そのチャンスと見た!


 実は、俺は『お兄ちゃん』と呼ばれたことがない!

 お兄ちゃんと呼ばれるのは都市伝説。もしくは、人前でだけだと思っている。俺はそれすらないけど!


 みんなも、内々では呼び捨てにされているんだろ? 知ってる。知ってる。


「一愛はお姉ちゃんがほしかった。ダメなれーとじゃなくて。でも、こればかりはどうにもならないから……」


 そう、本当に思っているのが滲んでいる感じで言われた。諦めている人間の目をしている。

 すまない妹よ。それは俺にもどーしようもない。


「だから、早くお姉ちゃんをお姉ちゃんにしてね?」


「あん? それはどういう意味──」


「──ほら、間に合ったんだから早くいけよ!」


 一愛はそう言って、俺の背中を叩き、自分は中学校への曲がり角を曲がっていく。

 間に合ったの意味はわ、わからなかったけど、少し前を歩く後ろ姿は見覚えがあった。


 会ってしまったからには、チョコレートプリンの感想を言わなくてはいけない。

 そう考えながら俺は、良く知る後ろ姿に追いつくべく、歩く速度を上げる。


 この時、帰ったらチョコレートプリンが減っていることを俺はまだ知らない。おやつと称し食べたやつはついしかシラをきることもだ。


 これにてバレンタインを巡る物語は本当に終わりだ。次はホワイトデーらしいぞ。



 ──終わり──



 まず、ここまでお読みになってくれた方。ありがとうございます。


 当初は短編として書いたものを、書きたかったふうに書いたのが今の状態です。

 時期がちょうどバレンタインだったことと、バトルのないものを書きたかったことから、こんな感じになりました。


 異世界ものは数あれど、家に帰る主人公は中々いないでしょう。

 できるヤツなのに、基本的にはやらないヤツなのも彼くらいだと思います。

 その基本スタンスは作者によく似ています。


 なお、彼は勝手に喋っています。作者はほとんど彼を喋らせていません。

 逆に幼馴染様は何とか喋らせています。あの感じは難しいです。


 考えなくては喋ってくれないキャラクターと、勝手に喋っているキャラクター。どっちもどっちですが、少し彼は喋りすぎだと作者は思います。


 読んでいただいた方に、一瞬でも面白いと思ってもらえたら幸いです。


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