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 ただ、菓子材料を買いに行く。

♢17♢


 俺の知らぬところで勝手に育った、お姫様からのバレンタインチョコのあれこれ。

 俺は単にお姫様からチョコレートを貰えると言っただけなのに、いろいろと尾ひれが付いていたんだ。

 好きだとか、キスだとか、ちょっと言えないこととかだ。


 その事でお姫様にアイアンクローされたり、みんなに嘘だとバレたらデスったりする。

 そんな事をミルクちゃんに相談しに行ったら、あえなく相談は失敗し、チョコレートを貰いたいやつが増えた……。


 それが昨日のことだ。だが、この昨日は異世界での昨日であり、実際はまだ今日なんだよ。

 そろそろ、こんがらがってきたぞ。

 明日……もう今日か。これもややこしい。


 今日は現実の世界では金曜日。今日は放課後、ルイとカカオマスを買いに行くことになっている。

 しかし、あまり顔を合わせたくないというのが本音だ。どんなふうにしていればいいのか分からない。


 まあ、これは俺の個人的な問題だ。ルイはいつもと同じだった。目が節穴だった俺が言っても、説得力はないと思うかもしれないがな。

 対して俺はどうするのがいいんだろう。だろう。


 しかし、バレンタインまで1週間を切った。いよいよ時間に追われ始める。

 異世界はギリギリだろうが、こっちはギリギリどころか、どうすればいいのかも思いつかない。


 チョコレートをルイに贈る。これに変更はないが、難易度は上がったし、ただ渡せばいいのかも分からない。

 手作りを、手渡しすればいいのか? ……なんか違うよな。



 ※



 1日モヤモヤしていたら放課後になり、学校をそそくさと出て、今日の待ち合わせ場所である、ルイの学校のあるところの駅までやって来た。

 駅をいつもより3つばかり先に来ただけだし、同じ市内ではあるが、俺はこっちの方に詳しくない。どこに何があるのかもよく知らない。


 その駅前に先に到着したわけで、探索がてらブラブラしようかとも思ったけど、どうせならルイに案内してもらおうと思いやめた。

 ルイから今のところ連絡はないんだ。待ち合わせに遅れはしないんだろう。


 学校が3駅前の俺が待つことになるのはしょうがない。今日の待ち合わせは、俺の移動も計算しての待ち合わせ時間だからだ。

 駅前の目立つところのベンチで待っていると、向こうからルイが歩いてくるのが見えた。

 手を上げる前にルイも、ベンチに座ってる俺に気がついたようで、こちらに歩いてくる。


「悪い、待たせたな」


「このくらいはしょうがない。というか、歩きなのか? おんなじ制服の子はみんな、バスで帰って来てたみたいだけど? てっきりバスなのかと思った」


「毎日ここまで来るのにだって、結構掛かるからな。学校まで歩いたって大した距離じゃないし、歩きだよ」


 定期代も安くはない。更にバスとなればより金がかかる。ルイはバイトしているわけでもないし、節約か。


「──俺はチャリだけどな!」


「……そういえば、あのパンクしてた自転車はどうしたんだ。買ったんじゃないよな?」


「最初の日に学校まで乗っていった。で、以降は駐輪場とバイト先に置いている」


「乗ってったって、あの駅まで家から1時間以上は掛かる距離だよな……」


「それでも乗っていったんだよ?」


 入学初日。学校の最寄り駅から、自転車で学校まで通うために、自転車で学校まで行ったんだ。

 軽く1時間以上は掛かったな。学校に着いたら帰ろうと思ったもん。疲れて。


 しかし、そのかいあって次の日からは、駅まで電車。そこから自転車で学校に通っております。

 ……何故、そんなことをするのかって? 寄り道するのにいいんだ。


 停めとくのには基本的にバイト先を使っております。あそこは駅前だし、駅から徒歩数分だから。

 まあ、今はどうでもいい話だな。


「で、製菓材料店ってのはどこにあるんだ。待ち合わせ場所から察するに駅前なのか?」


「いや、もっと学校に近い」


「それなら、お菓子学校を集合場所にしたら良かったじゃないか。わざわざ、駅まで歩いてくることなかっただろ。戻んなきゃじゃん。流石に迷子にはなんないよ?」


「何だよ、お菓子学校って。製菓学校って言うんだよ。それにな、学校に来てもらうなんて……そんなことできるわけないじゃん」


「……なんで?」


 本当になんで? そうすれば俺が待ってる時間もなかったし、ルイが歩いてくる必要もなかった。

 我ながら実に良い考えだと思うのだが?

 しかし、ルイの顔は何故だか赤い。これもなんで? なんか変なこと言ったのだろうか?


「校門でクラスのヤツとかに出くわしたらなんて言うの! 変な噂が立つだろうが!」


 他校の男子が自分を迎えに来ている……──確かにこれは噂になるね! 持ちきりだね!

 仮に自分の学校に同じことしてるヤツがいたら、俺はイラっとする。羨ましいとか、見せつけやがってとか。軽い殺意さえ覚えるかもしれない!


「配慮が足りませんでした。申し訳ありません」


「地元じゃないんだ。私たちのことなんて側から見たら……──何言わすんだ!」


「痛い!」


 いつもと変わらぬ、すぐに手が出るルイちゃんで良かったが、何にも言ってない。むしろ謝ったのに叩かれた。


「いくぞ、そんでさっさと帰る」


 そう言うルイの頬は赤いままだった。


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