材料調達。その2。カカオ豆。
♢16♢
ドラゴンの素材から最強の装備を作る! そしてドラゴン肉を食べる!
これぞ異世界! ザ・異世界転移! ようやくそういう流れになったらしい。
別に嬉しくはないが、見てる分には嫌いでもない。基本的には俺がやらなきゃ別にいい。
しかし、そんな俺だがドラゴン装備は欲しい。ドラゴン肉は食べたい。こればっかりは男の浪漫だから仕方ないのだ。
そのドラゴン装備だけど、10体分の素材があれば足りるかな? あっ、レア素材がない場合もあるか……。その時はどうしよう。
あのドラゴンは、そこら辺にもっといるのかな?
えっ……タイトルと違う? それは仕方ないよ。
だって欲しいんだもん。ドラゴン装備。
「次の目的地は竜の谷だ。ドラゴンの素材のために、しっかり全員装備を整えて、ドラゴンの討伐に臨んでくれ。俺からは以上だ」
「どこよそれ……。素材って豆でしょ? 場所も違うし」
「はい、次の目的地は密林地帯ですからね」
この空気の読めないやつらめ。真面目なこと言いやがって。こいつらには浪漫が分からないのか?
異世界人には、異世界転移するやつの気持ちは分からないというのか! 逆だったら、電車欲しいとか言うくせにさ!
「──お姫様もニクスも要らないの! ドラゴン装備。カッコいいし強いんだよ! ドラゴンバスターとかになりたくないの!?」
「バレンタイン。チョコレート。材料がない」
「──そうだった! ドラゴン装備は後回しだ。今はカカオ豆っぽいやつだった! ……ところで、密林には『トカゲ』はいないよな?」
またドラゴンがいてはたまらない。密林のドラゴン。ありそう。平原のドラゴンよりありそう。
二度とドラゴンとか遭遇したくないので、確認しないと。ドラゴン装備は欲しいが、ドラゴンとは関わりたくないんだ。普通だろ?
「いませんね。生き物も大していないと思います。毒のある植物が多い場所なので、それだけ気をつければ大丈夫かと」
「よし、すぐ行こう! カカオ豆を回収しに!」
「自由よね。驚くくらいに」
俺もカカオ豆を入手しにいきます。
ドラゴンもいないなら安全そうだし、プロデューサーの鼓舞が必要だから!
※
かなりジメジメしている、植物にまみれたジャングルが密林地帯らしい。日本にいてはまず見ない光景である。
俺個人としては森の中とか、虫捕りくらいしか経験がない。
そんな草とぬかるむところがある地面を、転ばないようにしながら、一歩一歩進んでいく。
「暑い。蒸し暑い。この服が長袖というか、季節は冬だよね? 冬なのにここは夏みた……い……」
探検隊の先頭は俺だ。俺より前には誰もいなかった。だが、前に誰かいる! その誰かは振り返ってきて、目が合った! 目はないが目が合った!
「……」
そいつの見た目は、あるキャラクターによく似ている。土管から出てくる植物と言えば、みんな分かるだろうか?
赤いやつ。踏んでも倒せない。逆にやられるやつだ。アレふうの、大変毒々しい色の植物が現れた。
一目で分かる。『これは毒を持ってる!』と。
「……おい、生き物はいないんじゃなかったのか?」
俺にそう尋ねられた兵士は、『あれは植物ですよ?』と言う。百歩譲って、地面に生えてるだけなら、植物だったと許してやろう。
だが、それが根っこを引き上げ立ち上がり襲い掛かってくる! しかも、あちこちからカサカサ音が聞こえるんだけど!?
「歩いてくる! やっぱり俺に来んのか? そうか。お前もそうなのか。なんなんだーーーーっ!」
横の方からも現れた新手も含めて、多数の毒い植物に追いかけられる。
しかも、俺だけだ! 俺にはターゲット集中効果があるらしい。そんなのいらないんだけど!?
「はぁ、はぁ、助けてく、──へぶっ!」
足元の悪いジャングルで走るのは辛い。このようにすっ転んだりするからな。ちなみに、今回はズボンの裾に引っかかったわけではない。
そこら中に伸びていた蔦が、足に絡まっ……蔦が動いてる。動いてる?! 蔦が動いてるんだけど!?
「アレだけじゃないのか? なんなんだよ。どこまでが植物扱いなの? 植物ってなんなの!?」
ある兵士の言葉。『みんな植物です』。
「そんなわけあるかーー! 誰か助けて、もう燃やせ、火を放て! 燃やせば全部解決だ!」
しかし、この密林地帯は火なんぞ使えば、簡単に燃え広がるからダメらしい。
じゃあ、『どうすんのよ?』と聞いたところ、『1匹1匹。駆除する』とそう言われました。
その間に俺が毒にやられて死ぬよ? うん、死ぬ。
「やっぱりドラゴン装備必要だったじゃないか! 俺の戦闘力0に近いからね? 普通の人間だからね?」
ドラゴンと比べると強くはないのか、毒い植物たちは駆除されてはいる。
しかし、半数を収穫に置いて来たために兵力が足らず、植物の俺への進攻を止められない。ついでに言うと、蔦も絡まって身動きも取れない。
「なんなんだよ、異世界。俺を殺しに来てんのかよ。最後に、ドラゴンが食べてみたかったな……」
ふいに絡まる蔦が、嫌々というかのような動きを見せる。縛りが緩みスルッと脱出できた。
立ち上がって周りを見ると、毒い植物たちも同じような反応をしている。
「なんか熱くね?」
ジメジメした暑さとは違うタイプの、火の近くのような暑さを感じる気がする。
その考えは当たりだったようで、地面を炎が走ってくる。そして、あっという間に火の海になった……。
──チャララララー、パパー、ドドドドッ──
辺りが火の海になった。植物たちは燃えていく。
辺りには、何とも言えない匂いがしている。
「あつい、あついよ。だれだ! ひをつかったヤツは! これ、どうすんだ!」
れいとはおこった。
タイロがなく『にげる』がつかえないからだ。
だが、みんなはシラをきる。
「げんに、もえてるからな? かじだぞ! あーあ、オレしらないからな」
なかまたちのこうげき。
ムゴンノシセンが、れいとにあつまっていく。
れいとは、なかまたちにうたがわれた!
──トゥルトゥルトゥル、トゥルットゥ──
「──俺じゃないぞ! 火を使えとは言ったが、火なんて持ってないよ! みんな、植物にトドメ刺してないで、俺の話を聞いて? 俺じゃないんだって!」
このままでは本当に火事。すでに火の手は自分たちを囲んでいて、逃げ道などない。
これでは毒い植物はおろか、俺たちも燃えるよね。これ!?
「白夜さん、大丈夫でしたか。生き物と聞かれ、植物としかお伝えしなかったので」
何故だかそうイケメンの声がした。幻聴かと思ったら、炎の中からイケメンが姿を現わす。
その様はさらにイケメンに拍車をかけていて、正直言って死んでほしい。燃えてしまえ!
「ニクス、さてはお前が犯人だな! イかれてんのか! カカオ豆ごとジャングルを燃やすとか……いや、まさか俺ごと。なのか? まさか、このどさくさに紛れて俺を消しに。おそろしい子!」
「いえ、何も燃えてなどいませんよ。これは錯覚です。そう感じ、そう見えるだけです」
態度を変えないイケメンを見て、いつぞやの景色が変わるやつを思い出した。
この火事は、あの時のようにそう見えているだけ。それはつまり……。
「ニクスくん。キミは助けに来てくれたのかい?」
「はい、説明不足だったようでしたので。植物と言えば伝わるとばかり思っていました。申し訳なかったです」
「そんなキミを俺は疑ってしまった。許してくれたまへ。貴様は本当にいいやつだったんだね。ただ、本当に熱いんだけど?」
「止めるとまた動き出しますから、駆除が終わるまでは我慢をしてください」
「じゃあ、俺の周りだけ涼しくしてよ。暑いよ」
俺に言われた二クスはパチンと指を弾く。すると、俺の半径1メートルだけ吹雪になる。
蔦の植物が一瞬で冷たくなって動かなくなったが、この寒さは人間にも危ない!
「寒い、もう少し加減! おい、自分も植物ヤリにいかないで! 俺に春の気候をください!」
熱い! 寒い。熱い。寒い! を毒い植物がいなくなるまで続けました。
二クスが言うにはこの服の防御力は高いとのこと。
暑さにも寒さにも耐えられ、モンスターからの攻撃に対しても、防御に期待が持てるとのこと。
しかし、着ているのが普通の人間であることを失念しているな。このイケメンクソ野郎は。って思いました。
やっぱり、ボクはあのイケメンが嫌いです!
姿の見えなかったセバスが部屋に戻ってきた。
また、誰かを探しているふうに見える。
そして、その誰かは予想がつく。『植物とか余裕!』と豪語していたやつのことだろう。
「また、あの小僧は下に行ったのですか?」
「行ったわよ。なんで?」
「いえ、学ばない奴と思いまして……」
セバスの顔を見て、なんとなく分かってしまった。
そうか。またなのか。どうして、あいつはそうなんだろう……。
だけど、そうと決まったわけでもない。決めつけるのはやめよう!
下に行くの面倒だし。大丈夫なのに飛び降りたら怒られたし。それよりも……。
「セバスこそ、行ったり来たりしてどうしたの?」
「時間が必要になるでしょうから、必要になるであろう準備を。それを終えたと伝えに来たのですが、肝心の小僧はいない。なんとも懲りない奴」
「密林地帯には植物しかいないと思うのですが、セバス殿から見て危険があると?」
黙って話を聞いていた二クスが、見ていたひらがなの本を閉じ、セバスに尋ねる。
「植物しかいない。ちゃんと小僧に伝えましたかな」
植物は植物だ。他に言いようはない。
あたしも二クスと同じ意見だが、さっきも同じことがあった。トカゲをドラゴンと呼んでいた。
「ニクス。今度はあんたがいきなさいよ」
「えっ、私がですか?」




