材料調達。その1。砂糖。 ③
サトウキビっぽいものを全員で収穫していては、それだけで日が暮れる。日暮れまで残り時間は少ないのだ。バレンタインまでも同様に……。
そこで俺は、材料調達を効率よくしようと、半数をサトウキビっぽいのの収穫に残し、半数は次の目的地に向かうと決めた。今はその移動中だ。
移動中の今だから語れるが、サトウキビっぽいのの収穫に半数を残すのが、すごく大変だった……。
『よし、半分にわかれろ。俺は分からないから自分たちで決めて、上手いこと半分にわかれてくれ。こっが行く方。そっちが残る方。はい、移動して』
しかし、兵士がもれなく全員、お姫様にいいところを見せたいばかりに、収穫のために残るのを拒否するという、予期せぬ事態が発生したんだ。
『……こっちに全員来てどうする? そっちに誰もいないよ? 半分にって言ったよね?』
圧倒的にお姫様が人気者すぎる。
俺の言うことは聞かないのに、お姫様の言うことはすぐに聞くのがいい例だ。その模様をお届けしよう。
『ダメだ。あいつらは残る気がない。このままじゃ、明日になってしまう。で、俺に考えがある。耳を貸せ』
『なによ? ……はぁ?! なによ。それ』
俺は野郎たちの反応を見るからに、お姫様の言うことなら聞くと思っていた。だから、あるセリフを言うのをお願いした。
『いいから言って! お願いします!』
『あ、あたし、強い人も素敵だと思うけど、地味な作業を黙々とやる人も素敵だと思うの?』
地味な作業とは収穫業務を示している。これは、腕っ節だけでなく、地味なことも出来る男の方が好きだと匂わしているわけだ。
直接、サトウキビっぽいのを収穫しろと言わないのがミソだ。
『──よし、これでいい』
『なんで、あたしが……』
しかし、今度は全員が残ろうとする。1人もこっちにいなくなった。全員がそっちに移動している。
『お前ら、ふざけんなよ……──もう、じゃんけんだ! じゃんけん! なんなんだ。お前たちは! どんだけお姫様好きなんだ!?』
異世界には、じゃんけんも存在しなかったから、ルールから説明し、じゃんけんが伝わった。
その後、行く行かないじゃんけん大会が行われ、大分無駄な時間を消費してしまった。というわけだ。
そして現在、次なる材料を目指して移動している! ……さっきも言ったか? まあいいや。もうすぐ到着する!
「次はカカオ豆っぽいやつか。これさ、もうカカオ豆じゃダメなのかな? 『ぽいやつ』ってなんなの? 必要なのこれ。なんか法に触れんの?」
「知らないわよ。何かしらは違うんでしょ。同じものじゃないって、ニクスが言うんだから。あんたより正しいと思う。質の良し悪しとかじゃないの?」
「質の良い。カカオ豆。必要。でないと。作れない。俺。困る」
「さっきの事ね。悪かったわよ……」
「お姫様。の。せいじゃない」
質の良し悪し……。悪しには用はないんだ。良しでないとダメなんだ。
あー、サトウキビっぽいのはどうなのか。カカオ豆っぽいものはどうなのか。
品質が良いは最低条件なんだ。そうでなくては作れない。
※
悪魔のスキルによって過去を見てきた話には、語られていない部分がある。俺の『逆バレンタインだ!』発言の直後の話だ。
それは過去から今に戻る、直前のことだった。
幻のように溶けていく、過去の商店街。
過去にはあった商店が、今のとおりに無くなっていく様を、ただ見ていた時だ。
「えっ……」
本当に偶然なのか、セバスがわざとそうしたのかは分からないが、気づいたら目の前にルイがいた。
泣き腫らした目をした、いるはずのない昔のルイが。
「ルイ。本当に俺が悪かった。知らずに傷つけた。謝りもしないで、今日まで来てしまった。 ──本当にごめん!」
俺は謝った。本人ではないし聞こえもしない幻に。幻だろうと構わなかった。
決意した逆バレンタインがあるからか、今まさに見てきたからかは分からないけど。謝った。
「もういいよ。時間は掛かったけど謝りに来たんだから。私にも落ち度がある。どんなに待ち切れなかろうと、学校で渡すべきじゃなかったんだ。ああなる事が予想できなかった」
「えっ……喋った。いや、違うぞ! 幻だろうと違うもんは違う! あれは俺が悪い。謝っても謝り切れないくらいに……」
幻と変わらないはずのルイが口を開く。その言葉は、俺が考えていた通りのものだった。
ルイが悪いはずがないのにやっぱりこいつは、自分が悪いと思ってたんだ。
「小僧。それは現実だ。悪魔を見れんものには、起こる事象を正しく認識できない。それ故に、気づかれないはずなのだが、その娘は本当にそこにいる。姿は昔のものだが、確かに今の娘もそこにいる」
現実。さっきまでの過去じゃないってことか? このルイは本物? どうなってんだ?
「普通に振舞ってる時の方がマシだった。私たちの距離が開いてからは、もうどうしようもなかったから……。零斗が来なかったら、一生あのままだったはずだから……」
ルイも同じだったのか。話もしなくなり、どうやって、どうすればいいのかも、分からなかった。俺と同じで。
「それでも俺が悪い。ルイはチョコを渡しただけだ。受け取らなかったのは俺だし、傷つけたのも俺だ」
「……」
小さなルイの姿が歪む。同じようにして、歪みは辺りにも広がって、過去は残らず消えていく。
「時間が完全に戻る。姫様がいては展開が狂うだろうから、儂と共に隠す。その娘には見えない。上手くやれ」
今度こそ本当に戻ってきたようだ。何故かというと、さっきぶりのルイが目の前にいたから。
その顔は泣いておらず、いつも通りの幼馴染様だ。
「どうしたんだ急に。いや、さっきからか。ブラウニーも持って帰らないし。わざわざ、届けにきたんだからな」
「忘れてた」
「何をやってんだよ……。そんなにゲームで負けたのが悔しかったのか?」
おばちゃんから聞いた話にショックを受けた俺は、ブラウニーチョコレートが固まる前に、理由をつけて逃げ出したのだ。
そしてそのまま、お姫様のところにまで逃げ込んだ次第です。ダメなやつです。クソ野郎です。
「まあ、なんだ。しかし、あれだな……お前が私に、チョコレートを贈ろうと考えてたとは分からなかった」
──んっ?
「だから、豆から作りたいとか言ってたのか。こだわるのは零斗だもんな。なんでも形から入るし」
どうして逆バレンタインのことを、ルイは知ってるんだろう? そんなはずないのに。
(ごめん。なんか変なとこのボタン押したみたいで、『逆バレンタインだ!』くらいから聞こえてたみたい……。ごめん!)
お、お前かーーっ! つまり、あの直前の台詞とかも聞こえていた?
何それ。恥ずかしくて死にそうなんだけど……。つーか、リモコンはお姫様が持ってたのかよ! セバス、そんな素人に持たすなよ!
「全部、聞いちゃった。せっかくのサプライズだったのに、ごめんな。だから──」
「だから?」
「──半端なチョコレートだったら認めない。作るなら最高のやつを作って!」
なにそれ。チョコレートすら刻めない俺に、豆から最高のチョコレートを作ってこいと?
逆バレンタインどころじゃないじゃん。ハードル上がりすぎ。絶対ムリだと思うんだけど!?
「想いをこめるんだろ? 期待してるから……」
「やっぱり聞こえてたーー!」




