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 逆バレンタイン!

「俺はここから先なら覚えてる」


「そう」


 小学生ってのは学年毎に授業の数が違うから、帰宅時間は異なる。低学年、中学年、高学年でバラバラに帰ることになるんだ。

 高学年からは毎日6時間目が追加されていて、15時を過ぎないと帰宅とはならない。つまり、朝は班登校で学年がマチマチな班で登校するが、帰りは自由なメンバーで帰るというわけだ。


 俺は帰りも商店街のやつらと帰ることが多かった。家も近くだし、遊ぶにしても近いからな。

 団地のグループとか、逆の帰り道のやつとかと遊ぶ場合も、1回帰らないといけない決まりだから、結局は毎日同じようなメンバーで帰っていた。


 その帰り道。いつもは一緒のはずのルイはいない。

 からかわれて、恥ずかしくて、俺はルイを置き去りにして、先に行っていたやつらに合流したからだ。


「泣いてなかったとはいえ、幼馴染を置き去りにしてきて、何も感じなかったの?」


「逃げることでいっぱいいっぱいで、頭が回らなかったんだろう。脳みそ足りないんだ、こいつ」


「……それ、自分だけど?」


「いいんだよ。こんな奴。脳みそ足りないから、この後もやらかすんだからな」


 毎日一緒に帰るメンバーの中にモテるやつがいた。

 本屋と和菓子屋の隣にあった、角のところの商店の子。今はもう店はないし、そいつもそこに住んでない。クラスも隣だったけど仲は良かった。


 商店街の子供っていうのは学年はおろか、学校中でもどの店の子なのか分かるはずだ。前置きが長くなったが、家が分かるということだな。


「この角だ。曲がるとモテるくんが大変なことになる」


「大変なことって?」「見てれば分かる」


 バレンタインのチョコレートを学校で渡すより、直接家まで行って渡したい女子がいたわけだ。

 上級生を含む多数の女子が、モテるくんを家の前で待ち構えていた。


「本当ね。こんなに囲まれて……何者なのよ?」


「スポーツ万能のモテるくんだ。運動できるし、見た目も女子受けするしで、大人気だったんだ。小学生の頃は運動できるやつが一番人気だからな」


 バカな俺だが、ひとりひとりにお礼を言ってチョコを貰うそいつを『スゲェ!』と思った。

 自分はついさっき、からかわれてチョコをつき返してしまったからだろう。


 だろう言ったのは、このことを覚えていたのにルイのチョコの件を、恥ずかしかったこととして記憶から抹消したからだ。

 嫌なことは覚えてもいないのに、『スゲェ』と思ったこのことは覚えていた。


「……ねぇ、今どんな気持ち」


「複雑な気持ちだが、このクソガキは許さん。殺せるなら殺したい」


「だから、それは自分よ?」


 何があったのかと言うと、モテるくんにチョコを渡した女の子数人から、何故だか俺もチョコを貰った。

 本命のチョコとは違う、明らかに義理チョコといっていいものだったが、よくよく考えてみたら、ルイ以外から始めて貰ったチョコだった。

 嬉しかった。単にそれだけだったが、それが小5男子には重要だった。


「あー、こいつ! こいつを殺したい! なんとかならないか!?」


「落ち着きなさいよ! 殺したらあんたも死ぬのよ!」


「それでも構わない。このクソガキを殺して俺も死ぬ!」


「だから、それは自分だって言ってるでしょ!」


 女の子の1人が手作りしたから、食べて感想がほしい。モテるくんにそう言ったんだ。

 俺にじゃないが感想は多い方がいいと、俺も貰ったチョコを食べて感想を言った。


『──美味しかった!』


 感想といってもそんなところだったと思う。俺の覚えてる、この日の記憶はこれだけだ。

 この出来事を、俺たちの後ろを帰ってきていたルイは見ていたのだろう。


「……もうダメよね。貰ったチョコをつき返し、他の女の子から貰ったチョコを受け取り。美味しかったと言う。無理よ。あんたをフォローできないわ。悪意はなくても、これ以上ないくらい傷つけたでしょうね」


「いつものように怒られなくちゃ、俺は何も分からなかった」


「第三者から見ても酷いんだから、本人にそんなことできるわけないじゃない……」


 本当に馬鹿だった。その馬鹿さ加減に気づかずに、今日まできてしまった。これはあんまりだ。フォローなんてできるはずがない。


「しかも、何も気づかずにずっと放置でしょう? 殴るだけで許してくれるなんて優しいわね」


「本当にその通りだ……」


「あたしなら……ちょっと口には出せないわね」


 これでは、ぶっころされても仕方ない。

 俺なら確実に殺す。そのくらいに酷い。

 だけど謝った。ルイは許すと言ってくれた。


「どうするの。一応は謝ったんだし、許されたんでしょう? 終わりにする?」


 だが、何に謝ったのかも分からなかったんだ。

 あんなのは謝罪になってない。それでも許してくれたルイには申し訳なさしかない。

 どんだけ優しいんだよ。あの幼馴染様は。


「──そんなわけにいくか! 過去は変えられない。だったら今を変えるしかない。始まりはバレンタインなんだ」


「だから?」


「ルイにチョコレートを贈る。豆から作ったやつを」


「それ貰った方は嬉しいの……」


 バレンタインの出来事は、バレンタインでしか清算できない。なら、これしかない!


「込めるのは想いだろう? 逆バレンタインだ!」


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