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アシェリナ  作者: 宮咲若葉
第一章 籠の中の少女

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第2話 『薬草と、小さな異変』






 午後の授業は薬草栽培。

 学園裏の薬草園へ、生徒たちはざわざわと移動していた。


「今日の実習、土いじりだけって聞いたわよー」

「絶対楽勝〜!」


 軽い気持ちの声が飛び交う中、

 エリシアは真面目に手袋を整えていた。


「アシェ、手袋……持ってきてます?」

「……うん」


 アシェはぎこちなく手袋をはめる。




「では皆さん。本日は“初級薬草”の育成を行います」


 おっとりした声で説明が始まる。


「薬草は魔力の影響を受けて育ちます。

 皆さんの持つ魔力の“質”が、成長にも関わりますからね。優しく、丁寧に扱ってください」


 生徒たちはそれぞれ頷いたり、興味なさそうにしたり。




 エリシアは土を傷つけないように、

 薬草の根元をていねいにほぐしていく。


「薬草には、声をかけるといいんですのよ。

 ほら……元気に育ってくださいましね?」


 優しい声に、周りの令嬢たちがきゃあきゃあ言う。


「やっぱりエリシア様すごい〜!」

「もう完全に天職よね!」


 アシェは、ただその横顔を見つめ頷く。


「ふふ。アシェに褒めてもらえると嬉しいですわ」




 少し離れたところで作業していた

 黒髪の少年――ルカ・バンフィールドが、ふと視線を向けた。


(……あの子。誰だ?)


 エリシアのそばにいつもいる黒髪の少女。

 だけど名前も地位もわからない。


(……気のせいか。でも、なんか……雰囲気が……)


 視線を向けたほんの一瞬、

 アシェリナが小さく首を傾けた気がした。


 けれど、言葉は交わさない。

 そもそも彼女は声をかけられる雰囲気ではない。


「ルカー! そこ手伝えよー!」

「おい、もう土こぼれてんぞ!」

「わっ、ちょっと待てって!」


 呼ばれて、ルカはそちらに向かった。


 けれど――

(……やっぱり、気になるな)


 彼の中では、まだ“名前も知らない謎の子”のままだ。





「せ、先生ーー! なんか出た!」


「うそ、なにこれ!? ぷるぷるしてる!!」


 生徒の叫び声に全員が振り向く。

 青いゼリー状の小さな魔獣が、畑からぷるりと顔を出していた。


「ス、スライム!?」

「なんで畑に!?」

「錬金術の失敗じゃないの!?」

「皆さん、落ち着いてください!」


 先生が慌てながら声を張る。


「スライムは“核”を破壊すれば元に戻ります!

 低級魔獣ですから、慌てなければ大丈夫です!」


 ざわめく中にエリシアが駆け寄る


「アシェ、下がっていてくださいまし」


 エリシアが前へ歩く。

 薄紫の髪がふわりと揺れ、瞳が光を宿す。

「《光よ、浄化の手を》」


 光の魔法陣が展開し、

 スライムの中央にある“核”だけを的確に破壊。

 スライムはどろりと崩れ、ただの水へ戻った。


「すごい……!」

「やっぱりエリシア様よね!」


 アシェはぽつりと呟く。


「……エリィ……さ、すが……」

「もう、アシェの褒め言葉は本当に元気が出ますわ」



 しかしアシェは、スライムが消えた場所をじっと見つめていた。


(……これ……いつものスライムじゃ……ない……)


 周りは騒いで気づかない。

 先生さえ気づいていない“わずかな魔力の濁り”。


 アシェはその場にしゃがみ、指先をわずかに近づけ――


「アシェ? どうかなさいました?」


 エリシアが覗き込み、アシェは小さく首を振った。


「……なんでも……ない……」


 ふわりと風が吹き、黒髪が揺れた。


誰も知らない。

これは、やがて起こる“本物の異変”の最初の兆しだということを。


2話終

しばらくお待たせするかもです(^_^;)

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