話し合い
今日から、新入生対象の部活オリエンテーションの話し合いが始まる。
春休みに入ったが、部活がある。
俺は、それが嬉しい。
夏休みは暑くて部室に入れなかったし、冬休みは寒くて部員の多くが部室での活動を避けていたから仕方がないが、長期休業中といえどもやはり部活は部室でしたい。
と言うより、部活のために登校するって、部に入っている生徒には、それはごく自然なことだと思う。
それよりも、普通の日に普通にみんなで活動をしたい。
部活なのに、来たいときにだけ来るのはどうかと思う。
新体制になったら、ぜひとも新部長に提案したい。
部室が使える期間は、毎日全員が集まって活動しようと。
今日も由衣のインターホンで学校生活が始まる。
「昨日、部長が案を1つは考えとけって言ってたけど、考えれた?」
「ううん。イメージできないから考えられないよ。真ちゃんは?」
「俺も。ただ、こんな活動をしてますみたいなんじゃ興味を持ってもらえないのはわかってるけど。」
「寸劇みたいなのがいいのかな?」
「書華美展のイラストを診てもらうのもいいかも。」
ああでもない、こうでもないと言いながら学校に着いた。
言われてみると、去年のオリエンテーションで漫研がどんな部紹介をしたか覚えていない。
とは言え、一つを除き、どの部のも覚えていないが。
ただ一つ覚えているのは、マットを敷いた後に柔道着を着た柔道部員が2人出てきて、いきなりマットの前で組んで、背負い投げできれいに投げた後
「入るなら柔道部。」
と一言だけ言って去っていったのだけだ。
一年生はそれまでの部紹介に少し退屈していたみたいで、あれには笑いと拍手が起こった。
あそこまでは無理かもしれないが、新入生にインパクトを与えて記憶に残る漫研の紹介がしたい。
部室に入ると、部長と副部長がすでに人数分の机を円形に配置してくれていた。
こんなこと、早く来て俺たちがしないといけないことなのに。
最後まで部長たちに甘えて、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
部長と副部長に何て言ったらいいんだろうと言葉を探していたら、美鈴と咲良が入ってきた。
「ごめん、真ちゃんと由衣ちゃんでやってくれたの?」
「俺たちが来たときにはもうこうしてくれてた。」
言い辛いが事実だ。
「え!」
元体育系の部の部員だった美鈴は俺や由衣と同じ気持ちだろう。
美鈴が慌てて
「すみません、先輩。」
「何が?」
本当に何が?という顔で答える部長。
「私たちがしないといけないことだったのに。」
すごく申し訳なさそうな咲良。
部長が、
「それ?そんなことどうでもいいよ。早く来た人がやればいいのよ。そういうのは上級生とか下級生とか関係なしにやってたし。」
副部長が続ける。
「ずっとそうって漫研に入ったときに先輩から聞いたよ。で、みんなの力がいるときにはみんなでやる。それが漫研の伝統。」
すばらしい伝統だ。
美鈴に聞いてもらえてよかった。
あまりに早いのはわかっているけど、美鈴の次の部長にもこの伝統を引き継いでもらいたい。
真奈美と萌が来て全員が揃い、話し合いが始まる。
部長がみんなに問いかける。
「去年のオリエンテーションで、漫研がどんな部紹介をしたか、覚えている人はいますか?何か少しでも覚えていたら、自由に発言してください。」
隣の子と顔を見合わせるが、みんな顔を横に振るだけ。
「でしょうね。香月先輩と私たちで舞台に立ちましたが、通り一遍の活動内容を伝えるので精一杯でした。でも、パワフルな一年生のおかげで、今年は何かおもしろいことができそうでワクワクしています。みんなで一発、何かやってやりましょうよ。」
部長が楽しそうだ。
こんなに煽られたら、応えずにはいられないのがチームマンケンだ。
すごく燃えてきた。
「寸劇のスタイルがいいんじゃないですか?」
と由衣。
朝からそう言ってたな。
「私もそれがいいと思います。何が始まるんだろうって、興味を持ってもらえそうで。」
と咲良が。
「他に案は?・・・じゃあ、寸劇でいくって方向でいいですか?」
部長がみんなに問う。
全員がうんうんとうなずく。
「では、どういった流れで行きますかっ。」
部長のテンションが上がるのがわかる。
俺が手を挙げる。
「活動の内容はハッキリ言って、1分もあれば話せると思います。漫画やイラストを書いたり評論を書いたり。発表の場も文化祭と書華美展ですし。だから、残りの紹介の時間は、聞く人の記憶に残るようなインパクトのあるものにしたいです。活動もやりがいがあるし、何より漫研に入ったらこんなに楽しい時間が過ごせるよみたいなのも伝えたいです。俺がそうですし。」
「はい。私もそうです。少々おふざけもありですよね。でも、『やるときはやる漫研』の伝統もしっかり伝えたいです」
と美鈴。
そうだな。
楽しいだけじゃダメだ。
事実、そうだし。
ちょっとだけ覚悟して入って欲しい。
その後、みんなに案を募る。
驚くほどみんなが案を出すので、部長と副部長で交通整理が大変だ。
前にお笑いが好きだと言っていた萌は、人一倍ガンガンと面白い案を出していた。
昼になったので、今日はそこまで。
熱くなった頭を冷やして、続きは明日。
今日から帰りは由衣と二人だ。
明日からも午前中は部活があるので、真奈美は春休みの宿題を終わらせることが心配で、由衣の家で活動している場合じゃないらしい。
もちろん俺もだ。
帰ったらひたすら宿題に取り組まないと。
「面白かったな、今日は。」
「うん。みんな、あんなにいっぱい言うなんて意外だったよ。」
「俺も。面白い部紹介になりそうだな。」
「うん、漫研のが一番印象に残ったって言わせたいね。」
「由衣は一番が好きなんだな。リレーのときも言ってたけど。」
「そりゃ、やるからには一番を目指さないと。今年のリレーも一番を貰うよ。」
「凄い自信だな。でも去年のあの様子を見たら、一番は確実だろうな。また新記録を出しそうだし。」
「うん。私はそのつもりだよ。足の速い一年が入ってくれたら、もう何年も更新できない新記録が出せそう。
「そうだな。」
由衣と笑いあう。
「明日で、ストーリーっていうか、内容は決まるかな?」
「明日あればできるんじゃね。」
「そうだね。」
「その後は、配役だな。」
「えっ!」
と今さらながら驚く由衣。
「私は舞台になんて立てないから。」
首をブルブル振りながら怯えるように言う。
ひょっとして、漫研のゆかいな仲間たちにもそんな子がいるのか?
少々心配になる。
翌日。
昨日に加えて次々と新しい案が出る。
話には流れがあるので、その流れにそって、みんなが出した案から話が繋がるようにストーリーを作って、部紹介の大まかな内容が決まった。
細かいことはやりながら詰めればいい。
では、次に誰が演じるかだ。
とたんに、打って変わって重苦しい雰囲気になる。
部長が
「舞台に立つ人は3人です。やってくれる人?」
「はい。」
すかさず俺が手を挙げる。
だが他に手は挙がらない。
みんな、うつむいてだれとも目を合わせない。
部長が静かに
「一年生に押し付ける気はありませんが、私たちは新入生とは2か月ほどしかかぶらないので、この先、長い付き合いになる一年生にやってもらいたいと思っています。でも、どうしてもやりたくないということでしたら、残りの2人は私たちでやります。」
しばらく沈黙が流れる。
こんなことを部長に言わせるなんて、同じ一年生として情けない限りだ。
どうする気だ、お前ら。
由衣を見るが、視線を落したままだ。
美鈴が手を挙げる。
「私、やります。」
舞台に立つのはもう一人。
でも、その「もう一人」の手がなかなか挙がらない。
無理もない。
人には得手不得手があるから。
一年生320人の前に立って何かやるってやっぱり大変なことだ。
「じゃあ、私、やります。」
咲良が手を挙げる。
次期副部長として美鈴を支えると言っていた。
それを態度で現したのか?
これで3人は決まった。
だが、なんか・・・。
咲良、無理してないかな。
心配になるが、決まった以上、みんなで作っていくだけだ。
「じゃあ、台本のたたき台は私たちが書いてきます。後は、好きなように一年生で話して作ってください。」
と部長。
由衣とのいつもの帰り道。
「こんなこと言っても信じてもらえないだろうけど、咲良が手を挙げなかったら、私、やろうと思ってたの。」
「俺は最後の一人は由衣がするって言うだろうなうなって思ってたよ。」
「何で?」
「何でだろう。そんな気がした。」
「そう・・・でも結局、迷って。私、ダメダメだな。美鈴や咲良に恥ずかしいよ。真ちゃんにも。」
「そうか。そう思うんだったら、ほんと、新体制になったら、みんなで美鈴と咲良を支えて漫研を盛り上げていこうな。できることはそれしかないから。」
「うん。精一杯やるよ。漫研のことが一番。自分の漫画はその次。」
由衣の目に迷いのない決意を感じた。




