部対抗リレー
一夜明けて、今日は体育祭。
プログラムが順調に進む。
部対抗リレーに備えて、入場門近くに部ごとに選手が集まっている。
我らがチームマンケンも。
みんなの頭には赤い鉢巻き。
「漫研」の二文字が輝いている。
俺達1年に押し付けたことを悪いと思ったのか、部長と副部長から昨日渡された。
嬉しいが、かなり恥ずかしい。
でもこれで、俺達が漫研だってわかってもらえる。
「緊張するわ。」
と真奈美。
「私も。」
短く由衣が返事する。
かなり緊張しているのがわかる。
「私は緊張はないな。考えたってなるようにしかならないもん。」
萌が、いかにも開き直った感を出している。
「いいな、萌は単純で。うらやましいよ。」
真奈美がおもしろくツッコむ。
「何それ?それって私、馬鹿みたいじゃない?」
真奈美は答えない。
代わりににみんなで声を出して笑った。
これで緊張がほぐれたかな。
「あー嫌だな。出たくないよー。」
言っても無駄なのに、まだ咲良が言っている。
召集まで少し時間がある。
準備体操をする者、おしゃべりをする者、ずっとため息をついている者、てんでに何かやっている。
美鈴が近寄ってくる。
「本気で走っていいのかな?」
アップを兼ねてぴょんぴょんとその場で跳ねながら俺に聞く。
「当り前だろ、本気で走らないと相手に失礼だよ。俺、本気で走るよ。それに、ここで目立っておいたら、途中からでもうちに入りたいって来てくれるのがいるかもしれないだろ。」
「そうだね。でも、私は今のままがいいかな・・・。」
そんなことを美鈴の口から聞くとは。
美鈴もそうか。
ああは言ったけど、正直俺もそうだ。
招集が掛かって、入場門前に整列。
前の競技の退場とともに入場する。
同時にアナウンスが流れる。
「次の競技はプログラム12番、部対抗リレーです。1組目は文化部、2組目は運動部男子の部、3組目は運動部女子の部です。なお、部対抗リレーの後は昼食休憩になります。」
先に文化部の方から行われるのは、次の運動部の熱い勝負の前の余興みたいだ。
男女を分けないし、俺たちのような混合チームもある。
参加することに意義があるって感じ。
書道部はたすき掛けした上衣に袴姿だし、料理研究同好会はエプロンを付けている。
悪いが俺たちは本気だ。
各部の一走がラインの前に立つと各レーンの紹介が始まる。
あらかじめ、各部から放送部へ紹介分が提出されている。
運動部に比べると目立たない文化部が多いから、これも部のことを知ってもらういい機会だ。
決められた少ない文字数の中でいかに自分たちをアピールするかが勝負だ。
「・・・今年の軽音はやります。来月の中庭コンサートにもぜひおいでください。』。続いて第3レーンは漫画研究同好会です。『今年のチームマンケンは1年生ばかりのフレッシュなチームです。日ごろからの漫画作りで鍛えた脚力、そして厳しい練習に耐え抜いた根性で優勝を狙います。赤い弾丸チームマンケンに乞うご期待。』」
周りからどっと笑いが起こる。
だれだ、こんなふざけた紹介文を書いたのは。
もちろん部長と副部長しかいない。
そういえば、私たちで書いとくねって言ってたな。
それで、赤いハチマキか。
昨日渡されたが、そうか、最初からか。
でも記憶に残るには十分なインパクトだ。
じゃあ、俺たちで記録に残しましょうなんて思った。
もちろん、そのときは冗談で。
レーンの紹介が終わると、一走がスタートラインに付く。
我がチームマンケンの一走は美鈴。
脚に自信があるメンバーで先に繋いで、少しでも多くの余裕を作って逃げ切る作戦だ。
位置について、用意、パーン。
美術部の選手が明らかにフライングをしたが、2発目のピストルは鳴らない。
フライングくらいではやり直しはしないのか?
でも、当の本人も他の何人かもやり直しがあるものと思って走らない。
もちろん陸上競技経験者の美鈴が走るはずもない。
近くにいた体育教師が叫ぶ。
「走れ走れ!」
えっマジ?となる中、いち早く美鈴が飛び出す。
さすが元短距離選手、すぐにトップスピードに乗る。
速い!
ストライドもピッチもまるで違う。
綺麗なフォーム。
先に走り出していた選手たちにすぐに追いつき、抜き去る!
迷いはないようだな。
周りの生徒たちから
「えっ、うそだろ」とか「あの子、ほんとに漫研?」といった声が聞こえる。
ほくそ笑む俺。
信じられないかもしれないけど漫研なんだよ。
じゃあ漫研の実力、もっと見せつけてあげましょうか。
美鈴がどんどん差を広げながら俺の方に近付いて来る。
「真ちゃん、任せた。」
「おう、任せろ。」
美鈴からバトンを受け取る。
たかがトラック半周だ。
最初っから全力でとばす。
足がもげてもいい。
俺の走りに、オー!という周りの声が心地いい。
さらに差を広げる。
バトンゾーンが近付いて来る。
俺のバトンを待つ由衣と目が合った。
由衣に叫ぶ。
「いっけー由衣!」
無言でコクリとうなずく。
こんな由衣は静かに燃えてるって俺は知ってる。
バトンを受け取った由衣が走り出す。
走り終わって息が苦しくって、膝に手をついて由衣が見れない。
「えー、あの子もすごく速い!」
「ほんと速い。漫研、何なの?」
さすが由衣だ。
やっぱりやってくれるな。
息はまだ苦しいけど笑ってしまう。
顔を上げると、由衣が容赦なく差を広げていくのが見える。
そして四走の萌に、そして五走の真奈美にバトンが渡る。
萌も真奈美も俺たちの作った差を死守してくれた。
そして真奈美からアンカーの咲良にバトンが。
そのときには2位との差はトラック半周以上付いていたが、咲良の顔は引きつっている。
走り出す咲良。
だが・・・咲良は・・・早くない。
いや、遅い。
でも差がたっぷりと十分にある。
よほど心配なのか、何度も後ろを振り返りながら走る咲良。
そして今、息を切らしながらゴール。
バトンを持った右手を高々と上げてテープを切る。
このときだけは様になっていた。
アンカーに決まってから練習してたのかな?
「漫研が今、ぶっちぎりの1位でゴールしました~。」
なかなかノリのいい放送部員だ。
2位はまだはるか後方。
しばらく待って、やっと2位、3位がゴールする。
「続いて2位は軽音楽部、3位は演劇部でした。」
次は運動部の部対抗リレーだ。
どの部も公式戦のユニフォームを着ている。
まずは男子の部。
ピストルが鳴る。
一走から陸上部と野球部の一騎打ちになる。
二走、三走とバトンが渡ってもほぼ並走状態だ。
何とかサッカー部が食らいつこうとするが、差は開く一方。
他の部は後方で団子状態。
だいぶ遅れて柔道着の男が走っている。
陸上部と野球部が最後までデッドヒートを繰り広げたが、最後は何とか面目を保って陸上部が一位でゴール。
その後は、これまた熱い女の闘い。
スタート前からバチバチと火花が飛んでいるのがわかるほど。
スタートするとトップは陸上部の独走。
だが2位争いが熾烈だ。
バスケ部、ソフトボール部、バレー部、ハンドボール部が抜きつ抜かれつの激しい戦いを繰り広げる。
そのはるか後方に、防具をつけた剣道部が。
「よかった、入らなくって。入ってたら絶対に走らされてたよ。」
萌がため息をつく。
結局は2位はバスケ部、3位はバレー部。
「私がいたら、バレ―部が2位だったかもね。」
萌とは対照的に楽しそうに由衣が笑う。
運動部のガチ対決も終わり退場だ。
そのはずなのに、指示が出されない。
少し間が空いてアナウンスが流れる。
「ここで新記録のお知らせをします。」
その瞬間に辺りがシーンと静まる。
「先程の文化部の部対抗リレーでの漫画研究同好会のタイムは〇分△秒で、過去の最高記録を8秒更新しました。新記録です。」
どの競技でも、過去の記録を塗り替える記録が生まれると、その都度それが発表されるが、まさか文化部の部対抗リレーでもそれがあるなんて。
グラウンド全体からワーと大歓声が上がる。
「漫研、すごいぞ!赤い弾丸だ!」
「あそこから新記録出すか!」
「みんなすごい走りだったぞ!」
称賛の声が途切れることなく飛んでくる。
立ち上がってガッツポーズで答える俺たち。
咲良だけが恥ずかしそうにしていた。
ピーと笛が鳴って立ち上がり、退場門へ向う。
退場門を出ると流れ解散になる。
この後は昼休憩だから、チームマンケンで少し話をする。
「俺、来年も出たいな。」
「私も。今度はフライングがあってもなくても初めから全力で走るから、もっといいタイムが出せそう。」
と美鈴。
「うん、来年も1位をとりたい。」
と由衣。
「楽しかったー。」
と本当に楽しそうな萌。
「うん、楽しかったね。」
と真奈美。
最後に咲良が
「私、来年は頑張る。」
「お、やる気になってるじゃん。」
「うん、頑張って、絶対に1人は新入部員を入れるよ!」
「そっちか。」
みんなで一斉にツッコんだ。
「おーい。」
部長と副部長、そして前部長が手を振りながら、俺たちの方へ走ってくる。
前部長が、らしくもなく今にも泣き出しそうだ。
「やったね、すごいねあんたち。感動したよ。ほんと『やるときはやる漫研』だ!」
俺以外は知らないあのときの前部長になっている。
こんな前部長を見たことがないから、みんなは面食らっている。
部長と副部長はもう涙をぽろぽろ流して泣いている。
「ほんと、ほんとすごいよ。こんなにすごい子たちが一緒にいたなんて。」
「頑張ったね、みんなは漫研の誇りだよ。」
部長が興奮のあまり、一人一人にハグして回る。
え、俺もか?
なんのためらいもなくハグされた。
部長にとってはみんなと同じかわいい後輩で、男って思われてないんだろな。
でも、俺は男だからしっかりと感じてしまった。
部長の胸の柔らかさを。
これで、2代に渡っての部長の胸を知ってしまった。
こうなりゃ、卒業するまでの全部長のをフルコンプしてやろうか。
来年の部長はだれだろう。
俺ってことは絶対にないから、この5人の中のだれかだ。
俺としたら、少しぽっちゃりの咲良がいいかな。
そして、来年入ってくるまだ見ぬ後輩の部長にも思いを馳せてしまう。
男かもしれないのに。
・・・俺、本当にスケベで馬鹿だな。
そして最低だ。
情けなくなる。
こんなに感動的な場面で何を考えているんだ。
それに真奈美という彼女がいるのに。
深く反省したが、反省だけならサルにもできる。




