95泊目 魔法陣と光の柱
「止めろって……言ってるんだよッッッ!!!!」
自分でも驚くほどの声が出ると、シュリも他のサキュバスたちも、手を止めてこっちを見る。
ーー魔力だ。身体中に魔力が漂っている、というよりは身体の至る所で魔力が爆発している。
これだ、この力があればみんなを助けられるかもしれない。
禁魔、という自分が設けたルールを自分自身で破るときが来てしまったようだ。
腹の底に力を込め、まさに"爆発"させるように、身体の中の魔力を外に放出する!!
刹那、辺りが目も眩むような光に包まれ、次に目を開けると黒い触手は塵のような形状となって朽ち、仲間達を解放していた。
更に魔力を溜め、目の前を見据える。仲間を助けたい、この窮地を脱しなければいけない。その想いだけを強く心に念じ続けると、目の前に発光する魔法陣が現れた。
魔法陣が光の柱を立てて金属音のような音が鳴り響く。
その音を合図に、周りのサキュバスたちが光の柱の中に吸い込まれていくーー!
「馬鹿な……!なんじゃ、この魔力の奔流は……!の、飲み込まれてしまう……!!」
シュリはどうにか耐えようと防御魔法を発動しているようだが、少しずつ魔法陣の方へと身体が引き寄せられている。
「早く……っ、お前らがいるべき場所へと還れ……っ!!!!」
あと半歩でシュリの足に魔法陣が触れる、というところで廊下の方からバタバタとした音が聞こえてきた。
「待って待って待って〜!!忘れ物、忘れ物〜!!」
そう言ってクロエは全速力で魔法陣に向かって駆けてくる!
そして、その腕にはサキュバスの卵を抱えていた。
「はいっ!これ、忘れ物〜!ちゃんと無事持って帰るんやよ〜!」
シュリの腕に卵を渡したクロエは、シュリに向かってひらひらと手を振る。
「え?ちょっ……いや待て!まだ話は終わってな……!!」
突然のことに面食らったであろうシュリの防御魔法が解けたと同時に、シュリと卵は光の柱の中へと消えていった。
「な、なんだったんだ……この力は……」
それを見送ると、強張っていた身体を支えていた糸が切れたように、俺はその場にへたり込んでしまった。
「よしよし、無事卵も渡せたし、サキュちゃんの恋愛相談も良い落とし所で解決できたし、百点満点やなぁ〜。サキュちゃん、卵返さへんとボスが来てヤバいことになる〜とか言い出すんやもん、焦ったわぁ〜。サキュちゃんも冥界に帰って、卵の様子見に行こ思ったらなんや騒がしかったから駆け付けたらこの様よ。一体全体、何があったん〜??」
クロエは目をパチクリとさせながらも、目の前で血を流して倒れているミュウに寄り添い、治癒魔法をかけている。
「なんか知らんがよぉ、冥界からサキュバスが大量に湧いて出てきちまったんだ。っと、廊下にまだワープポータルがあるんじゃねぇか!?……っ!痛え、派手にやられちまったなコリャ……」
オイゲンは血が滴る左腕を押さえながら、ふぅ、と短いため息をついて座り込んだ。
「ワープポータル?そういやそんなんもあったな〜。でも、そのポータルはサキュちゃんがもう閉じてったわ〜。なんや、冥界じゃなくて他のところをひとりで見てまわりたい、みたいなこと言っとったなぁ。ていうか、オイゲンも結構な出血なんだから大人しくそこで待っとって〜。ミュウの手当てが終わり次第、きちんと全快させたる〜」
オイゲンとクロエ、二人のやりとりを何処か現実味がないようなふわふわした状態で聞いていると、頭の中に突然今まで浮かんできたことのない記憶が流れ込んできた。




