94泊目 気迫
「ダメだ……! いくら倒してもキリがねぇ……!!」
血が滲み始めた拳を見た途端、疲労感がどっと押し寄せる。
下級サキュバスを20匹以上は倒した頃だろうか。それなのに、サキュバスの数は増え続ける一方で、なかなか減ることがない。
「だ〜か〜らぁ、言ったでしょう? 今ここにはワープポータルがあって、それは私達がいる冥界と繋がってるのよ? いくら仲間達を倒して冥界に送ったとしても無駄。またすぐに増援が来るわ」
このままではどうにもならん……まずはワープポータルの破壊が最優先事項だ。
しかし、ポータルの元へと移動するためには次々と湧いてくるサキュバスの軍勢も倒さなければいけない。地道な戦いにはなるが、ひとまずは一匹ずつ倒しながらポータルを目指すしかないようだ。
ーーーー
「ご、ごめんなさい……魔力がもう、限界……ですわ」
終わらない戦闘に憔悴しきったニュウが、力なく座り込んでしまう。
「ニュウさん! 僕の魔力回復剤を使ってください!」
そんなニュウを見て、エルが駆け寄って手当てをしようとする。
すると突然、どこからともなく真っ黒な触手状の何かが伸び、ニュウとエルの二人を拘束する!
「ニュウ! エル!」
俺の叫びは、二人の悲鳴によってかき消された。
あたりを見渡すと、ミュウまでもが触手の餌食となり、オイゲンは負傷しながらも必死に周りのサキュバスたちと交戦している。
「ちょっと……何ですのこれ! 変な所に……あっ」
「うわああああぬるぬるしてて気持ち悪いですー!」
「こんなの、聞いてないよっ……! ちょ、やだ!! そこはダメだってぇ……」
触手は自由自在に動き、三人の身体を締め上げながら服の中をまさぐっている。
これは早く解放してやらなきゃまずいぞ……!
オイゲンも血を流しながらも必死で戦っている。こんなピンチの状態でも、押し寄せてくるサキュバスの波は止まらない。
「クックック……。無様。無様じゃ。のう?人間よ。儂が立ちもせず、こうやって指先で少し指示してやれば、触手たちは儂の思い通りじゃ。さぁて、次はどうしたやるかのう?口から入って内臓でも蹂躙してやろうか?」
妖しく笑うシュリを見て、俺は拳を握り返して叫んだ。
「ふざけるな!!人間を何だと思ってるんだ!!人間はアンタたちにとってのおもちゃか!?こんなこと、して良い筈がない!!今すぐみんなを離せ!!」
「黙れッッッッッ!!」
「ーーーーッ!?」
今まで余裕の笑みを浮かべていたシュリの顔が恐ろしく歪み、吼える。その声で空気が振動し、身動きが取れなくなる。
「儂らの命より大切な卵を奪った俗物が何という口を聞いているのだ?そんなにすぐに死にたいか?仕様のないものよなぁ。どれ、その願い、叶えてやるぞ」
シュリがそう言って手をかざすと、ミュウの身体が細かい風の刃で切り刻まれる。
「いっ……きゃあああああああっ!!!」
身体中から血を流しながら、ミュウが叫び声を上げる。
「中々に良い声で鳴くじゃないか。その鳴き声を聞けなくなるのは残念だが、儂も寛大なのでな。次でトドメを刺してやろうかの」
そしてシュリが再度手をかざした瞬間、自分の中の何かが弾けた。




