65泊目 大魔法発動!
エルを支えながらさらに辺りを確認すると、あの巨大なヴァロールも俺とエルの近くで横たわっていた。
あの爆発が原因なのか、首元と頭から煙が上がっているのが見える。
ヴァロールはそのまま微動だにしない。再び動き出す気配もなさそうだ。
「ユート! エル! そっちはどうなってる!?」
エルの治療をどうしたものか、と考えあぐねていると、遠くの方からオイゲンの声がした。
「ああ! エルも俺もひとまず命は大丈夫だ! ミュウとニュウは!?」
俺が大声で叫ぶと、耳も慣れてきたのかさっきよりも鮮明な声でオイゲンの声が聞こえてくる。
「ミュウもニュウも無事だ! ヴァロールが倒れているのも見えるが、ソイツはもう生き絶えてるのか!?」
「どうだろう、よくわからないが、直ぐに動き出すってことはなさそうだ! ただ、エルが重傷を負っている! こっちに来てくれないか?」
未だ薄く煙っている煙の向こう側から、3人の人影が近づいてくるのが見える。
橋のように倒れているヴァロールを迂回し、3人はこちら側に来た。
見た限りでは傷もないが、ただひとり、ニュウだけが苦しそうにしてミュウに身体を預けている。
「お、おいニュウ……大丈夫か?」
「ユート……さっきの私たちを救ってくれた爆発、あれ、ニュウなの。ニュウの魔法なの……!」
ニュウの方を見ると、苦しそうに肩が上下している。
「魔法って……! ニュウがあんな大魔法を使えるだなんて、知らなかったぜ……」
驚いて声を出すと、絞り出すような声がニュウから聞こえてきた。
「ご、ごめんな……さい……。でも、あの巨大なヴァロールを討つためにはこれしかなくて……。コイツ、物理軽減の魔符が……発動しているみたいで、魔法じゃないと……倒せなかったのですわ……。ユート様が、魔法、嫌いだって……知ってるのに……」
「ニュウ……! ニュウの機転のおかげで、俺たち全員は助かったんだ! 何も謝ることはない! ありがとう……!」
突然の大きな魔力の発散で弱りきっているニュウ。
魔力の回復を待つために、ソーマを飲んで暫く休んでいて欲しい、と声を掛けてミュウに任せる。
そして横たわっているエルに声をかけると、私は大丈夫ですから、と弱々しい笑顔で返された。




