57泊目 吐瀉
「う、うえええええ……ちょ、ちょっと待って、くれ……」
ポータルでワープをした瞬間、あまりにも強烈な吐き気が襲ってきた!
「な、なんだ、これ……、うえ……」
込み上げる胃液に我慢できず、床にさっきまで食べていたものを吐き出してしまう。
一体何が起こっているんだ?
胃の中のものをいくらか吐き出して少し落ち着いたが、まだ強烈な気持ち悪さは残っている。
辺りを見回してみると、ニュウとエルは落ち着いた様子で、何かを準備している。
「や、やばいこれ……全部、胃袋が、ひっくり返る……」
「俺様が経験したなかでいちばんキツい食中毒よりもしんどいぞこれ……」
ミュウもお腹をさすりながら苦しそうにうめいている。
俺も吐き気がおさまらず、全然動けそうにない、どうなってるんだこれは……。
そう考えながらまた胃液を吐き出してしまった。
ぜぇぜぇと肩で息をしていると、頭上からエルの声が聞こえてきた。
「ユートさん、はい、これ飲んでください」
そう言われて差し出された細かく刻まれた青い薬草と水を受け取る。
これは何かの薬か? とにかく楽になりたくてあまり考えもせずに一気に薬草と水を飲み干す。
すると、今までの吐き気が嘘だったかのように消えた。
ミュウとオイゲンも、同じ薬草を受け取って飲んでいるようだ。
「ありがとうエル。吐き気も消えて良くなった。この薬草は何なんだ? というか、ワープポータルを使って一体何が起きた?」
はじめてのワープポータルは、想像以上にキツいものだった。エルとニュウが言っていた意味がようやくわかったぜ……。
「ワープポータルは物質を無理矢理他の場所へと運ぶので、その際に内臓への負荷が相当にかかるんです。慣れた人ならワープの時に軽く自己治癒魔法を先がけして回避できるのですが、不慣れな人や魔法が苦手な人にはキツいかもですね……。なので、先ほどお渡しした吐き気を止まる効能がある薬草をワープ直後に飲むことが有効です。実はワープポータルに飛び込む前、簡易調合をしておいたんです」
薬草を飲まなければ、数時間はこの吐き気に苦しめられるらしい。それはもう、考えただけで恐ろしいな……。
エルとニュウに感謝だ!
「ううう……本当に死ぬかと思った……。恐るべしだわ、ワープポータル……」
「魔物と戦うよりエグかったぜ……」
ミュウとオイゲンも薬草の力で吐き気から解放されたようだ。




