それは、てんにまかすように
朝からピアノの前に座るのは、随分と久しぶりだ。
小学生の時は、毎朝家でピアノを弾いていた気がする。
あの頃はまだそんなに忙しくなかった両親は、珈琲を飲みながらそれを聞いていて、出掛ける春真に何らかの声をかけてくれて、姉は姉で、たまに合わせてフルートを吹いてくれた。
流石に最近は、周辺に家が立ち並んだこともあって、朝は家で弾くことはない。
時間が早いこと、試験が近くないこともあって練習室は空いていた。
無駄に広い敷地は、苦情がでるほど近隣に家がないことを示している。
こじんまりと弾くのが嫌で、春真は窓を開いた。
朝を体言するような空気が頬に触れ、囁きかける。
春真は、静かに鍵盤に指をのせた。
朝のピアノは、予想以上に効果を発揮したらしい。
普段以上にいろいろな人間に声をかけられた。
男も女も、学生も教授もだ。
そして、その御蔭で、話をしたかった少女もうまく捕まえることができた。
あの日、ミサンガを差し出した少女は、初めはうろうろと視線を彷徨わせていたものの、最終的にはしっかり話を聞いてくれた。
謝ることは確かに罪を認めることだ。
けれど、それはどうしても楽になりたいという気持ちのような気がして、春真には簡単には選べなかった。
だから、彼女に委ねることにした。
全ての情報を開示する以上に、春真に出来ることはない。
赦すも、赦さないも、彼女の心が決めることだ。




