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それは、けむりのようにきえても
「どうした?」
日付が変わってから帰ってきたものの、雪之丞が目覚めたのは日が昇ってすぐだった。
けれど階段を降りた雪之丞は、ひらひらと手を振って迎えられた。
「それはこちらの台詞ですけど」
「いや、虫の知らせってやつだ。大丈夫か?」
「随分都合のいい虫の知らせですね」
呆れたように呟くと、緑川はけらけらと笑う。
「バレたか」
「月が、変わったんでしたね」
昨日と今日とで、月が変わった。
思えば青柳に頼まれてから、二か月近くが経ったわけだ。
「あぁ。目録、此処な」
緑川が社名入りの封筒を持ち上げてみせて、それから僅かに目を細めた。
「でも、何かあったのは確か見たいだな」
「まぁ、何かはありましたよ」
「月のうさぎは、探しに行かない方が良い」
「何の例えですか」
「遠くで見て、そう信じて不都合がないものを、わざわざ探しに行く必要はないってことだ。お前を見て通り過ぎてく連中がお前を女だと思っても、わざわざお前が男だと訂正してやる義理もない。美少女として目の保養になってやれ」
妙な助言に、雪之丞は肩を竦める。
立ち上がった緑川がキッチンに向かいながら腕を捲った。
「今日も働くみたいだな。景気づけに、朝ご飯作ってやるよ」
「それはどうも。ありがとうございます」
そう答えて、雪之丞は長年の友人の配慮に小さく笑った。




