それは、いつのまにかそうなる
「お疲れ様。今日の演奏、好みだわ」
姉はお世辞を言うような人間でないことは知っている。
そして、その耳の確かさも。
だから春真は、ほっとして笑う。
「ありがとう」
今までの春真の演奏をずっと聞いてきた姉の言葉だからこそ、春真は素直にその言葉を受け取れた。
変化というのは良くも悪くも、人を気弱にするものらしい。
ふと黙ったままの給仕が僅かに俯く。
「雪さん?」
「あ、いえ。お疲れ様でした、紅野君」
「姉さん、雪さんに意地悪してないよね」
「嫌だわ。する訳ないでしょ。気に入ったから、帰りに家によって言って貰うことにしただけよ」
「どうしてそうなったの」
「勿論、自然な成り行きで、よ。せっかくだから、ゆっくりお話ししたいじゃない」
眉を顰めて見せたが、姉は頓着した様子もなく、一方の彼女は小さく瞬いて頭を下げた。
「では、そろそろ仕事に戻ります」
「ええ。後でね」
厨房に消える彼女を見送るとなく見送って、春真は姉に視線を戻す。
「姉さん」
「なあに?」
「何考えてるの」
「背中を押してあげただけよ」
「意味が解らないんだけど」
「それでいいのよ。ほら、お客さんが待ってるわよ。いってらっしゃい」
ちらちらと席からこちらをみる少女達は、以前来店して予約を入れた子たちだ。
春真の視線に気づくと、ぱっと慌てたように視線を逸らした。
「一応ライブなんだから、ファンサービスも大事にしなさいよね」
「はいはい」
肩を竦めると、姉が楽しそうに笑う。
そんな姉の笑い声を聞いたのは、どうしてか随分久しぶりな気がした。




