表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
綺羅と嘘とその先  作者: 蛍灯 もゆる
嘘つきの転
64/102

それは、みるまにちりぢりに


「マスター、ごめんね。春真に意地悪しちゃった」


良く透る声でそう言って、紫村は苦笑した。

それがあまりに店内に柔らかく響いたので、張り詰めていた空気が解れる。


「困るなぁ、兄ちゃん。俺はあのピアニストにリクエストしようと思ってたのによう」

「すみません。変わりにオレが歌うとか、どうですか」


客の男の言葉ににこにこと邪気なく笑って、紫村が歌いだしたのは聞いたことのある演歌で、それも絶妙な小節を入れるものだから店内は途端に笑いが溢れた。


「なんだ兄ちゃん、うめぇじゃねぇか」

「残念ながらレパートリはこれ一つなんですけどね。お騒がせしました。どうぞ、ごゆっくりお食事をお楽しみください」


良いタイミングでマスターがレコードに針を落としたので、店内はまた程よいざわめきに包まれる。


「紫村君、あのねぇ」

「ごめんって。あんな風に揺れてると、どうしても突きたくなるんだよね。下から何が出てくるのか、つい気になるんだ」


カウンター席の端に腰掛けて、紫村はマスターの出したピスナーを受け取って小さく笑う。


「人選、間違えたかな」

「まあ、そう言わないでよ」


ばらばらだ。

雪之丞は気付いて目を細めた。

おかしかったのは、春真だけではない。

店の中の空気もどこかちぐはぐだったのだ。

紫村が現れたことで、それが目に見えるようになっただけ。

雪之丞が裏口に投げた視線を戻すと、彼がグラスからあげた視線と搗ち合って、紫村は軽く肩を竦めて見せた。


「注文良い?」


マスターはいつの間にか厨房の奥へ消えていて、雪之丞は店内の喧騒から切り出されたその場所へ足を踏み出す。


「怒ってる?」

「何を、でしょう?」

「春真を突いたこと」


眉を顰めた雪之丞に、紫村は、ソーセージ盛り合わせ、と同じトーンで口にした。


「どうして怒ると思うんですか?」

「もともとオレが頼まれたのは、春真と君に関することだからだよ」

「どういう意味ですか」

「それは、君が良く解ってるんじゃないのかな? 墨吉雪男、君?」


紫村はそのまま、あとはバーニャカウダーと一口ピッツアを。とまるで一続きのようにメニューを口にしてにこりと笑った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ