それは、とろうとしりえても
効果をふんだんに使用したショーは久しぶりに見ても心踊るもので、中でも主役の演技は流石だった。
店に来たときは、平均に比べて少し身長が低いと思ったが、そんなことを感じさせない動きは、本当にヒーロー然としていて、思わず手に汗握ってしまうくらい、熱心に見入っていた。
舞台には、確かに魔物が棲んでいる。
だがそれはある意味勝利の女神にも似て、気まぐれに出演者に微笑んでくれるのだ。
そして確かにこのショーは、舞台の魔物の力が良い方向に作用していた。
「熱心に見てたね」
次はヒーロー物の翻訳も遣ってみたいな、と思いながら、惜しみない拍手を贈る雪之丞に、隣で春真が苦笑する。
いつのまにかすっかり存在が抜け落ちていて、雪之丞は心中で仕舞ったと舌を出した。
思わず普通に楽しんでしまっていて、隣の春真にまで気が回らなかった。
「すみません」
「何で謝るの? 疑ってたのはこっちだよ」
「疑う?」
疑う、という言葉に内心冷や冷やしながら、雪之丞は努めて平静に首を傾げる。
「雪さんが興味があるのは、ヒーローショーなのか。それとも、俺や黄波戸かなって」
「え?」
意外な言葉に、雪之丞がぽかんと春真を見上げると、彼は目を細めて小さく笑った。
「だから、俺の方がごめんね」
客寄せパンダまで、やらせちゃって。不意に立ち上がった春真が雪之丞の腕を取る。
「行こうか」
「何処に、ですか?」
「勿論、楽屋」
「え?」
「黄波戸がくれた券は、そのためにあるんだよ」
迷いなく関係者専用入口を抜けて、春真は遠慮なく奥へ進んでいく。
「黄波戸」
「よぉ。無駄骨を折らずにすんだろ」
「うん。良い舞台だったよ」
衣装は身につけたまま、振り向いたレッドが春真の言葉に微かに笑った。それから、雪之丞に気付いて、慌てて頭を下げる。
「あぁ、ええと、雪さん? も、来てくれてありがとうございます」
「こちらこそ、声をかけて貰って良かったです。凄く楽しませてもらいました。黄波戸君も、本当に恰好良かったです」
「雪さん、本当に食い入るように見てたよ」
くすくすと笑った春真に、黄波戸は少し照れたように視線を反らして、それからちらと雪之丞を見上げた。
「そんなに、良かったですか?」
「はい。黄波戸君、身のこなしも鮮やかで、台詞も聞き取りやすかったし、脚本も強弱がきいてて、効果の入れ方も良かったと思い…黄波戸君?」
途端に顔を覆ってしゃがみ込んだ黄波戸に慌てて声をかけると、顔をあげないまま、ストップをかけるように手が揺れる。
「黄波戸?」
「ちょ、見るな。やばい、嬉し過ぎる」
搾り出すように紡がれた言葉に、雪之丞は春真と顔を見合わせてくすりと笑った。




