それは、むちゅうをいくようで
ちらちらと向けられる視線は多いが、声をかけられないのは彼女とともにいるからであろう。
予想通り男性のグループもちらほらいて、春真は僅かに目を細めた。
「紅野君」
とんとんと肩を叩かれて振り返ると、彼女が小さく声を潜める。
「別々にいた方が、良くないですか?」
「どうして?」
「一緒にいると、客寄せパンダとしての効力は弱いと思いますけど」
「個別になるのはお勧めしないよ。絡まれて騒ぎになると、ショーに影響がでるから」
「そう、ですか」
しょんぼりと肩を落とした彼女に、春真は本当に微かに笑う。
「雪さんはもう、十分働いてくれたよ。心配しなくても、あとは黄波戸が頑張るだろうしね」
観客席以外にいる人間をショーに誘えるかどうか、あとは出演者の腕の問題だ。
今屋上にいるだけでも、きちんと客席につけば八割がた埋まるだろう。
「だから、雪さんは何の心配もなくゆっくりショーを楽しんでよ」
「解りました。お友達のレッドさん、楽しみですね。紅野君は何度か、彼の舞台をご覧になっているんですか?」
「そうだね。予定が空いてればね」
「そうなんですか。紅野君は、ヒーローは自体は興味はないんですか?」
唐突な質問に、春真は瞬いて、少し考えるように視線を上げた。
「うん。特にないかな」
「お友達思いなんですね」
思いがけないことを言われて、春真はぴたりと動きを止める。
「どうかな」
「え?」
「舞台には魔物が棲んでいる、って信じる?」
きょとんとした彼女はけれど、ステージに視線を向けて頷いた。
「はい。舞台というのはある意味薄氷だと思います」
「薄氷を踏む思い? 確かに、根底にはあるかもしれないね。俺は、魔物が見たいから、此処に来るんだと思うよ」
理解してほしくて紡いだ言葉ではない。
彼女からステージに視線を向けて、春真は其処に何かがいるように目を細めた。




