それは、しんあいなるかんげん
「待ち合わせ早々、すみません」
「いいえ。雪さん、普段外歩くの大変そうだね」
くすくすと笑う春真に、雪之丞は眉を顰める。
「紅野君の方が大変だと思いますよ」
「そうかな? 相手があることなら、男の方が優位だと思うよ。それに、」
「それに?」
「目立たないフリは苦手じゃないんだ」
驚いて瞬くと、春真はこそりと声を潜めた。
「雪さん、ちょっと協力してくれる?」
「え?」
「実は、打算もあって誘ったんだ」
あまりにもあっさりと言うので、雪之丞は足を止めてまじまじと春真を仰ぐ。
「打算、ですか?」
「うん」
「なんでしょう?」
「雪さんがいれば、男性の観客も増えるかな、と思って」
「そういうことですか」
知らず息を詰めていたらしい。
雪之丞はふうと息をついて肩を竦めた。
「お客さん、少ないんですか?」
「いつも多くはないよ。でも、折角なら、いろんな人に見てほしいよね。大人も子どもも楽しめるものなら、特に」
「紅野君の持論ですか?」
「そう。ピアノにおける、ね」
にこりと笑って、春真は微かに首を傾ける。
彼にとってピアノというのは、思った以上に大きな位置を占めているらしかった。
「共感できない?」
「いえ。客寄せパンダ、協力します。ヒーロー好きとしては、ヒーローは人気者であってほしいですから」
「パンダか。言い得て妙だね」
大きく頷く雪之丞に、春真が目を細めて苦笑する。
「雪さん、ほどほどで」
「え?」
「雪さんが張り切ると、人が集まりすぎそうだから」
「なんですか、それ」
冗談交じりな台詞に膨れて見せると、春真はいつになく穏やかに笑みを浮かべた。




