それは、よわたりのしゅだん
高校の時、クラスメイトにどうしてもと拝み倒されて彼女のフリをして出かけたことがある。
「被害の小さいもので実験してみるのを勧める」
「どういう意味ですか?」
その時緑川は笑って答えなかったが、嬉々として母親が選んだ衣装と簡単な化粧で出かけたあとで、その言葉の意味が痛いほどわかった。
学生服でしか会ったことがなかったので、それまではクラスメイトにとっては『美少女顔の男』という理解があったらしいが、女装をして会ったことで、どうも彼の認識の枠を壊してしまったらしい。
以後は寧ろ、『実は男装した女だ』とでもいうような対応で、正直困った。
「だから云っただろ」
「もっとはっきり言って欲しかったです」
「必ずしもそうなる、とは言えなかったからな」
肩を竦めた緑川は、雪之丞の女装を見ても最初から動じることはなかったので、見識の違いだろう。
思わずため息を零して、雪之丞は慌てて顔を上げる。
左手の腕時計を眺めると、約束の時間まであと少しだった。
日曜日のデパートは流石に親子連れが多い。
「誰か待ってんの?」
「うわ、美人。カットモデルとか、興味ない?」
両親と手を繋いで燥ぐ子供たちを眺めていた雪之丞は、気を抜いていたからこそ、唐突な声に目を細める。
二人組のお洒落そうな格好の青年が二人。
カットモデル、ということは美容師なのだろう。
日曜日なら明らかに稼ぎ時のはずなのだが、こんな処で油を売っているところを見れば、腕も知れるというものだ。
「興味はありません」
「えぇ? お茶も御馳走するからさ」
「そうだよ。近くにお洒落な喫茶店があるんだけど、ケーキとかすっごい美味しいからさ」
「予定がありますから」
待ち合わせの時間はもうすぐだが、一度この場所を離れた方がよさそうだと判断して、踵を返しかけた雪之丞と二人の間に、人が割り込む。
「俺の連れを、勝手に口説かないでくださいね」
如才なく微笑んだ春真は、青年二人ほど気取った格好ではないのに、どう贔屓目に見ても彼等より人目を惹いた。




