それは、うんめいのかねをたたきに
けたたましくやってきた伝令が告げたのは、隣国蜂起の知らせだった。
強固な城壁に守られた国、オーベロン。
隣国ディアボロスからの度重なる要求を拒み続けたこの国が守ろうとしていたのは、誓約を交わした小さな同盟国タイテニアだった。
深淵の国家タイテニアは、亜人の住まう国だ。
亜人というのは、一般的な人間の枠から外れた身体的特徴を持つ人々であり、一部では誠しなやかに妖精の子どもであると噂が流れていた。
例えば、満月の夜に狼に姿を変える者。
例えば、雨に濡れると鮮やかに髪の色が変わる者。
例えば、流した涙が、宝石に変わる者。
彼等はその特徴を持つがゆえに、人々に忌まれ、畏れられ、拒絶されたが、その特徴を持つがゆえに物としての価値をつけられ、貴族や商人に装飾品や愛玩として金でやり取りされる。
そんな世界を憂えるオーベロンの王子。
世界を変えたいと望むタイテニアの姫。
あくまで亜人は物だと考えるディアボロスの王。
三者の思惑は、一人の青年、ディアボロスの王子によって思わぬ展開を見せていく。
台本の導入部分を眺めていた春真は、微かに眉を顰めた。
オーベロンの王子候補が黄波戸。
タイテニアの姫は桃澤らしい。
ディアボロスの王は、演劇サークルのメンバーで、春真に当てられているのはディアボロスの王子だった。
文化祭で行われる演劇は、少し変わっている。
ミュージカルでもオペラでもないが、楽器を弾くシーンや歌を歌うシーンなど音楽的要素が盛り込まれているのだ。
音楽学校だという自負があるからかもしれない。
実際オーベロンの王子はトランペットを吹き、ディアボロスの王子はピアノを奏でるシーンがある。
春真が目を止めたのは、ある一人の脇役とのやりとりの場面だった。
何が気になったのか解らずに、春真はもう一度少し前の行から同じところを読んでみる。
引っかかったところはなんだったのだろう。
今度はさらさらと進んで先ほどの行を追い越してしまった。
台本を持ち上げて、椅子の背もたれに重心を預けると、部屋の電気が台本の向こうでぼんやりと光る。
無意識に文字をおいながら、春真はふと気づいて身を起こした。
目が止まったのは、どうやら枠外であったらしい。
其処には、登場人物の見た目描写が細かく記されていた。
『―――――物腰柔らかく、雪のように白い肌の美少女。』
句読点で終わるその説明を眺めて、春真はふと気づく。
どうやら知らないうちに役を人に当てはめて内容を眺めていたらしい。
黄波戸、桃澤の他に、王には紺谷を当てていて、その脇役には、どうやら、無意識に雪を宛がっていたようだった。




