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このソラのために  作者: 真坂野琉実


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006:不穏分子

外殻ゲートでのエラー体処理を見届け、俺は家に戻った。

時間的に酒場に行くには早すぎるし、街に行ったところで手がかりが見つかるかは分からないからだ。

ベッドに横たわり、あの男達が外の世界に憧れた理由を考えてみる。

今の世界への不満……それはないだろう……。

一年に一度程度のメンテナンスで彼らは従順な羊として管理されているはずだ。

それが外の世界に憧れるとなると……楽園教……か。

既に外の世界は再生していて、外こそが楽園と説く思想……。

……それを誰かに吹き込まれてああなったとしたら、それはそれで納得できなくはない。

そもそもあのパスをどこから手に入れたのか。

……よく分からないな。

あいつらは高度な技術者だったからゲートパスを複製できた可能性はある。

……それを使うとどうなるかまでは知らなかったようだ。IDによる権限付与は厳格なのにな。

俺のIDは特殊だから低レベルのセキュリティはスルーできる。

……じゃないと武器は持ち込めないから……な……。

◇

気がつくとベッドの上だった。

……思考を巡らせていたつもりだったが、いつの間にやら自動的にシャットダウンしていたようだ。

俺はベッドの上で半身を起こす。

……時間は……そろそろ夕方と言える頃だ。

酒場に行くならそろそろだろう。

シャワーを浴び、身なりを整えて酒場に向かうことにした。

◇

……タバコの煙なのか何らかの香か。

立ち込める薄い煙の中、俺は酒場で蒸留酒のダブルの入ったグラスを回している。

ここでの目的は管理局が言う不穏分子を見つけること。

……まぁここで話す奴はいないだろう……。

……楽園教の噂だけでも聞ければ儲けものだ。

『……俺の職場の奴が妙な病気にかかってな』

『……セクター3の店のフードカートリッジの新商品がうまいんだよ……』

『……うちの子がそろそろ10歳でな、可愛いんだがいちいちうるさいんだ……』

男達が話す内容に聞き耳を立てていたが、とんだ無駄足だった。

楽園教を匂わすような言葉は誰も話していない。

蒸留酒のダブルを3杯程空けたが、有用な内容は聞くことができなかった……。

俺は酒場を出て、ちょっと考えた末にセクター4のスラムエリアを歩いてみることにした。

……朝の連中のように廃墟なら隠れるところもあるだろうしな。

◇

そろそろ赤い天井が黒く変わり出した頃、俺は出会ってしまった。

大男が女の子を捕まえようと追いかけている。

これこそ危険思想だろう。IDを見るまでもない。

……報告しておくか……。

俺は管理局に危険思想者の存在を告げる。

『対象個体から情動パラメーターの異常値を検知。小児対象への執着を確認済み。ただし当該セクター内に該当年齢の個体は存在せず、都市機能への実質的損害はゼロと算出。排除は不要と判定』

管理局から『排除の必要がない』と言われるのは織り込み済みだ、だが内容におかしな点があるので、現場の状況を伝えてみる。

「C04Aだ。危険思想の持ち主は女児を追いかけ回している。警備隊はこの辺りにいないだろう?対応が必要か?」

しばらくの間……その後管理局から出された返答は予測していないものだった。

『そのエリアにC04Aの報告にあった女児に該当するIDは確認されない。C04Aの見間違いではないか?』

……こいつらは何を言っているんだ。

目の前に半泣きで追いかけ回されてる女の子がいるのに該当者なしだと?

俺はウェアラブルデバイスを掛けた。

酒場では目立つので外していたのだ。

デバイス越しに確認し、管理局の言うことが何となく理解できた。

……この子は管理局には見えていないのかもしれない……。

表示されたIDが全て0なのだ……。

ID:00000000000000

デバイスが壊れたのかと思い、男を確認してみると、そちらのIDはきちんと表示された。

ID:1470332062910202

危険思想者

……危険思想ではあるが、対象が見えていないから対処が必要ではないということか。子供を追いかけ回す時点で処理の理由は充分だと思うがな……。

「C04Aだ。女児にはIDがない。全て0だ。どうすればいい?」

……しばらく返答はなかった。

状況的にこのままだと女の子が捕まってしまう。

仕方なく、俺は実力行使に出た。

「おい、お前。その子を追いかけるのをやめろ」

男は振り返り血走った目で俺を睨みつけてきた。

「俺の邪魔するんじゃねぇ。こんなとこにいるんだから俺の獲物だ」

……仕方がない。おそらく薬でキマっちまってる。

男の気がそれた隙に女の子は素早く俺の後ろに隠れた。

……意外とちゃっかりしてる。

俺は女の子を瓦礫の後ろに押し込み、隠れているようにと伝えると戦闘モードに切り替えた。

そのまま危険思想者の手を取りながら背後に移動し、急所である頸動脈洞に一撃を入れた。

男はたたらを踏んでその場に崩れ落ち、動きを止めた。

「C04Aだ。そちらの返答がなかったが危険思想者が女児に危害を加える寸前だったので、実力行使した。警備局に連絡して引き取ってもらってくれ」

「……承知した。こちらから連絡しておく。先程の未登録者については後程返答するのでC04Aによる一時保護を求む」

「……俺に女の子を預かれというのか?」

「その通りだC04A、ID未登録者については警備局では対応できない」

……なるほどな。俺は貧乏くじを引いたようだ。

ヒロインがやっと出てきました。

意外と長かった。


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