001:プロローグ
作者遅筆につき投稿ペースは遅いです。
お付き合いいただければ幸いです。
初回投稿は3話までです。
いつものように頭の中を流れていく映像や解説をどこか遠くで俯瞰視していた。
かつて栄華を誇った文明があったらしい。
機能調整プロトコルの度に見せられて正直辟易している情報ではあるが。
ともかくその文明は愚かな人間たちの虚栄心を満たすために行われた戦争で大量破壊兵器を使用して滅びた。
この話は聞き飽きたし、この映像もずっと変わらないので全て覚えてしまってはいる。
プロトコル実行時の学習シーケンスの遮断は、安全回路の強制介入により棄却される。
過去数十回以上試行したが、リソースの浪費に終始した。
今はもう諦めてただ漫然と情報が流れ過ぎていくことを待つのみである。
だからと言って全てを俯瞰で見ているわけでもないのだが。
最後は決まってこの台詞だ…この星の環境が回復するまでは半径20kmのドームが我らの住処である。我らは守らなくてはならない。文明とヒトという種を……。
◇
決め台詞が終わると目を閉じていても分かるくらいに周囲が白くゆっくりと明滅し始めた。
これは調整プロトコルがまもなく完了するという合図だ。
俺はゆっくりと目を開けた。
それを合図にして、目前に見える硬質ガラスのキャノピーがグリーンに変化し、ゆっくりと開いてゆく。
「C04A、調整完了。もう帰っても構わないだろう?」
俺は半身を起こし、誰に言うでもなく問いかけた。
「もちろんだ。今回の仕事も何の問題はなかった。報酬は支払い済みだ。」
管理者の返事はいつもほぼ変わらない。
だからこちらも同じように返す。
「次の仕事はまた10日後か。」
「その通りだ。また連絡する。」
やはり変わらない答えを返し、管理者は沈黙した。
調整ポッドのランプのみで照らされた薄暗い部屋の中で俺は服を着る。
ここは街の外れのスラム街のさらに奥にある廃墟の地下。
こんなところでは別に服を着なくても気にする者がいるわけもないが、一般市民に通報されでもしたら俺が困る。
少々くたびれてはいるが、遠目から見ればサラリーマン風に見えなくもないスーツ上下に安物の皮靴が俺の普段着だ。
これなら大抵の場所で違和感を持たれない。便利な服だ。
◇
廃墟の地下から外に出ると、ドームの天井が赤く染まり、夕方を示す赤い光が周囲を淡く照らしていた。
ほんのりと赤く染まる廃墟を後にし、食料でも買おうかと街に向かった。
街の入り口にあるゲートはいつも列ができている。
そこにはいつも仏頂面をしたアンドロイドの警備員が偉そうに座っていた。
「IDパスの提示を」
俺がIDパスを差し出すと、警備員はひったくるようにして受け取った。
「名前」
警備員が面倒そうに聞く。
「ジン・カイ」
俺が名乗ると警備員はモニターを見たまま顔も上げず言った。
「IDおよび名称照合完了、問題なし。……無職の非正規市民か。問題行動を起こさないことを期待する」
俺は警備員に軽く手を挙げると振り返らずにゲートを抜けた。
後ろで親子連れが何やらコソコソ話しているが、いつものことだ。
適正がなかったんだから仕方ないだろう、お前達には関係ない。
ゲートを抜けるといわゆる商店街が広がっている。
俺達のような非正規市民が他のエリアに立ち入らないようにするためだろう。入ろうと思えば奥に入ることは可能だし、仕事には支障がない。
一仕事終わったことだし、酒を飲みつつ情報収集するかという気になった。
「いらっしゃい」
タバコの煙で燻る店内、カウンターの向こうのマスターは作り笑いを貼り付けて言った。
「蒸留酒をダブルで」
カウンターにカードを出して注文する。
「はいよ」
ここのマスターはこちらのことを詮索しない。
金を払うなら野良犬でもいいらしい。
「蒸留酒のダブルだ」
カウンターに置かれたグラスをゆっくりと回しながらチビリチビリと舐めるように飲む。
……この行動はここにいるクローン体から情報を集めるのに最も適したやり方だ。
俺自身には必ずしもアルコールは必要なものではないが、この行動をすることでクローン体としてカモフラージュできることを経験則として知っている。
しばらくすると、近くの席で飲んでいる男たちが妙な話をしだした。
「最近な俺の近所の奴が消えたんだよ」
「借金でもできて逃げたんじゃないのか?」
……そんなこと珍しいことでもない。こいつらはなぜそんなことに興味があるのだろうか。
手にしたグラスの中で氷がカランと音を立てて転がる。
「……周りのやつに聞いてみたら、そんなやつ知らないって言うんだぜ。薄気味悪いったら…」
「……神隠しってやつじゃないのか?それ」
酒の勢いを借りた男たちの話はとりとめもなく続く。
そもそも神隠しなんてものは存在しない。そんなものは陳腐なオカルトだ。
お前たちの言っている神隠しは俺の仕事の結果だ、だが俺は神ではない。
思わず鼻で笑いそうになるのを必死でこらえ、俺は一息でグラスの酒をあおった。
雑音ばかりで情報収集にもならない。
俺は酒場を出ると馴染みの食料品屋に向かった。
「フードパウチを10セット」
カードを出しながらいつものように注文する。
「はいよ。フードパウチ10セットな。フードパウチでももう少し味のあるやつがあるぞ。たまには気分を変えてみちゃどうだい。新鮮な食べ物を食べてみるのもお勧めだぞ」
馴染みの店員はいつも俺に余計な物を勧めてくる、俺のようなアンドロイドには旨いもまずいもないとは知らないのだろう。
「遠慮しておく。健康に気を使ってるんだ」
「うまい食事は心を豊かにするんだぜ。健康に気を使うなら心の健康にも気を使わないとな」
店員はもっともらしい事を言っているが、贅肉が付いていることによる行動阻害影響をもっと知って対処すべきだ。効率的に生きた方がいい。
その後も何か言ってきたが適当にあしらった。エネルギーを取れるなら何でもいい。
◇
パウチを抱えて自宅に戻った。
IDカードをかざすと扉が重い音を立てて動いてゆく。
扉が開き切るのも待ちきれず、俺は中に入りパウチを机に置いた。
俺がベッドに横たわったあたりで玄関の扉が閉まり、部屋の中を暗闇が支配する。
横たわると、身体の各部に疲労物質が堆積しているのを感じた。
……疲労物質除去のため、スリープモードに移行する必要があると認める。
俺はそのまま深い闇の中へ意識を手放した。




