第七話
初心者用ダンジョンにいくと、すでに香月さんが僕のことを待っていた。
香月さんは、黒髪ロングの清楚なお嬢様といった感じの女性だった。
オーラとしか言えないのだけど、存在が輝いていた。
「こ、こんにちは。伊藤です、今日はよろしくお願いします」
緊張でつっかえながら、なんとか挨拶する。
「伊藤さん!今日はコラボありがとうございます。香月です。まずはパーティーメンバーのみんなを紹介させてください」
そういうと、周囲の方も挨拶をしてくれた。
「サブリーダーの結城です。よろしくお願いします」
「タンクの猪狩です。よろしく」
「後衛の須賀です。よろしくね〜」
「伊藤と申します。みなさん、今日はよろしくお願いします。」
ニコッと香月さんが笑う。
「では、早速行こっか。初心者用ダンジョンだし、そんなに警戒しすぎず、気楽に行こう!伊藤さんは適当に動いて大丈夫です、合わせるので!」
喉がキュッと縮んでいた僕は、ただ黙って頷いた。
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「おはよ〜みんな!今日はコラボ回です!!」
香月さんの軽やかな声が通路に響く。
「なんと、あの F ランクなのにゴブリンを素手で処す、バーサーカー伊藤さんに来てもらっています!!」
バーサーカーと思われていたのか。
僕は苦笑いした。
「どうもこんにちは、伊藤です。よろしくお願いします」
> バーサーカー!!
> 今日はどんな戦い見せてくれるんだ!!
> 500 楽しみです!!
視聴者はなんと二万人もいた。緊張で吐きそうだった。
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最初に出会った敵はゴブリンだった。
こちらを伺っている。集団なので、どうするか考えているようだ。
「僕が行きます」
そういって、僕は前に出た。
ゴブリンがニヤッとしたのがわかった。
装備も貧弱で、弱そうな奴が一人来たからだろう。
ゴブリンは肩の力を抜き、完全にこちらを侮っていた。
でも、大丈夫。
さっきから体が軽い。
僕は地面を思いっきり蹴った。
「えっ」
香月さんの声が聞こえた。
一瞬でゴブリンまでの距離を詰めた僕は、思いっきり鉄パイプを横に振って顔面に叩きつけた。
ぐちょ。首が吹っ飛んだ。
ゴブリンは一瞬で光となって消えた。
場を静寂が支配した。
> すっげ
> 本当に F ?
> 全然動き見えなかった!!
コメント欄が盛り上がっている。
「すっご。君、絶対 F じゃないでしょ。C、いやもしかしたら B ランクくらいの実力あるでしょ」
香月さんが僕に話しかけてくる。
「いえ、昨日も精密検査を受けて、F との診断を受けました。なので F です」
タンクの猪狩さんがバシバシと肩を叩いてくる。
「お前、本当に強いな。うち、来ないか??」
「ちょっと今誘うのやめなよ。迷惑しちゃってるでしょ」
香月さんが庇ってくれる。
「じゃあ、この話は今回の探索が終わったらな」
猪狩さんがウィンクして、この話は終わった。
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結論から言うと、視聴者数で僕はパワーアップするようだった。
ホブゴブリンも、コボルトも、オークも、鉄パイプの一撃で光になって消えた。
気がつくと 9 層まで来ていた。
次の階層に行くとフロアボスのいる階層になる。
「どうする、行けそう?」
香月さんが僕の様子を伺ってくる。その目を見ると期待するようなものがあった。配信者としては行きたい。でも、僕を無理に連れていく気はない。そんな迷いが見えた。
正直、行きたくない気持ちはある。と言うのも、ボスは1段階強さが上がると言われているからだ。もしかしたら死ぬかもしれない。そんなところには、行きたくなかった。
でも、僕の口から出た答えは違った。
「大丈夫です、行きましょう」
僕はお金を稼がなければならないのだ。里奈の治療費や薬代のため。
母さんとの生活費のため。
出し惜しみをしている場合ではない。
今、僕は確実に強い。今ならいける。そして「光の剣士たち」の皆さんもいる。
なら行くしかなかった。
僕は、震える足で十層へ続く階段を降りた。




