焚き火の後
アイル達は船を進めた。やがて帆船の明かりは闇夜の中で遠く小さく溶けていった。
やがて再び日は昇り始めた。朝の光に森は照らされ、寝起きの鳥たちの甲高い囁きが川辺の静けさに命を吹だ。
アイルたちの目指すはるか下流には新たな帆船が停留していた。
アイル達は岸辺に船を寄せて、陸に上がった。
ジェイが言った。「俺はこのへんにはまだ土地勘がある。ここから北に向かうと山の崖沿いに遺跡があって隠れられる場所が多い。まず北に行こう」
アイル達は森を進んだ。道を歩きながら、アイルは何度も森の地面に足を取られた。アイルはとにかく眠かった。一晩中船を漕いだせいで全身の筋肉痛に見舞われ、緊張の連続から開放された今もひどい頭痛がした。
「ねえ」突然エルザが言った。「足跡がある」
エルザの指さした方を見ると、地面に沢山のえぐれた蹄の足跡があった。周囲の草をよく観察すると踏み倒されたあとがあった。彼らはそれを辿った。
やがて開けた場所に出た。地面には篝火の灰が積もっており、まだ火の付いた燃えさしが残っていた。
野営の主はまだ近くにいる。
彼らは森を走った。
突如森の中に剣戟の金属音が響いた。アイルは手で合図して皆を待たせ、音の背後に近づいていった。
甲冑を着込んだオークが男と鍔迫り合いを演じていた。オークの巨大な背中は大人と子供ほどの体格差
男は革の胸当をつけた細身の剣士だった。男の剣はオークの操る分厚い鉄塊を正面から受け止め、その刀身に食い込み楔のようにガッチリ噛み合っていた。オークに上から抑え込まれ、華奢な革のブーツが森の湿った地面を深くえぐった。
この膂力は通常では考えられなかった。男は何らかの武術の使い手だろう。男は剣を振り払い、オークの腹を足蹴にして距離を取った。
三角帽をかぶった短髪の女が、目を伏せ両手を組み呪文を唱えた。
「Oüm el jhäckt el däsh!」
彼女はその両手に黒い影の塊を圧縮すると、暗黒の弾丸を両手から弾き出した。それは粘着爆弾のようにオークの兜にへばりついた。
オークは顔面をかかえた。そしてうねる黒い塊を引き剥がそうとした。
そのとき、奥にいた金髪の魔法使いが呪文の詠唱を終えた。一瞬だけ彼女の金色の房に覆われた大きな尻尾が見えた。
その口から炎の息吹が猛烈な勢いで吹き出した。オークは炎に覆われ、焼けのたうちまわった。
広場の奥では槍使いが全身甲冑に身を包んだオークと相対していた。その後ろのは避難民だろう年嵩の女が、腰を抜かして倒れていた。子供が彼女を起こそうとしていた。
アイルは手を上げてながら森から姿を表した。
槍使いは一瞬アイルに目を留めると、わざと大ぶりでオークの肩口へ槍を打ち込んだ。オークは手甲でやりを受け流すと、黒光りするモーニングスターを大ぶりに振りかぶった。
アイルは静かに近づいた。そして甲冑の弱点である膝の裏の肉に刃を水平にした短剣を差し込んだ。ナイフはひざの裏の腱を断ち切り、彼は片膝をつき崩れた。
テオが草むらから飛び出し全速力で駆けた。そして剣を抜き放ち、口の中で呪文を唱えながら剣を上段に大きく振りかぶった。
剣先にの青い光が集まり、頭部大の氷塊の槌が形作られた。彼女はそれをオークの兜に打ち下ろした。
金属の衝撃音が響き、氷は粉々に砕け、オークは首をのけぞらせ倒れ伏した。
遅れて突進してきたジェイがその背中に斧を振りかぶった。甲冑は破け、鉄塊が背骨を寸断しオークは即死した。
戦いは終わった。槍使いはアイルに目線を向けると、手振りで森の奥をいくよう合図した。




