咳
長老の態度はしおらしい。
それまでずっと黙秘を続けていた長老は気が変わったようで、自分の犯行を全面的に認める供述をはじめた。
とはいえ、長老の部下からの供述で、長老が何を目論んでいたか大体わかってはいた。
本人が罪を認め反省しているということが、ガイルには喜ばしいことであった。
やってしまったことを考えれば、決して喜べたことではないが。
「駐屯所の設置の方は手こずってるのか?」
どう答えたものか、ガイルは思案する。
この近辺にアンドロイドの出没が多くなりつつある。警備の強化のため各地に駐屯地を設置することに決まったのだが、重罪人の長老に警備に関することを話すのもどうかと思う。
「いや、すまん。私がそんなことを言える立場ではなかった」
と、長老は顔を伏せた。
もう警備のことや部隊については口を出さない、と少し前に長老は語ってもいた。
長老の役を降りて、ミンに任すのだとか。その案についてはまだ保留中ということになっているが、恐らく近い将来そうなるであろう。
「年を取り過ぎた。何がなんだったか……」
言いながら、長老はアルバムをめくる。
ガイルが子どもの頃の写真が並んでいた。
長老の希望で、二人はアルバムを見ていたのだ。
「こんなに小さかったんだな。今ではこんなに立派になって」
そこで長老が咳き込む。
ガイルは、そんな長老の背をさすろうとするが……。
「大丈夫だ」
と長老は言う。
ゴホゴホ咳した後、ひゅーひゅー空気がもれてるような音がする。
ここ最近、急に長老は弱ってきた。
喉の調子は悪いし、歩くのも杖が必要なほどだ。
それが急に自白を始めた動機なのかもしれない。
「この子は誰だったかな?」
呼吸が落ち着くと、長老はそんなことを言った。
その写真には子どもの頃のガイルが写っていた。ファウも映っている。ガイルとファウの間にいる金髪の子を長老は指さしている。