上げた
「きれいだな……」
と、ガイルが言う。
月明かりに照らされ、キョウの髪はきらきら光っていた。
きれい過ぎてまるで現実味がない。
「あ、ありがとう」
言いながら、キョウも自分の髪に触れてみる。
まったく触れてる感触がなかった。
これは夢なんだな、とキョウは改めて認識するのだった。
それでほっとした。
キョウの髪に固執した少女、レン。
初めて会った時は、恐ろしい化け物みたいに感じてしまったが……
髪の毛を手にした姿は本当に幸せそうだった。
後にも先にもあれだけキョウの髪を欲しがってたのは、レンだけだ。
そのレンの望みを叶えるため、リゾはファウを攫った。
ファウを助けるために、キョウは髪を渡したわけだが。
その代償にリゾは三日間雨を降らせるという無理難題を負うことになる。
その危機を、レンはキョウの夢に現れ報せに来た……
あれは本当に現実感のない夢だった。
泣いてたような? 笑ってたような?
そういえば、元のレンはどんな髪の色をしていただろう? なぜか思い出せなくなっていた。
「いつか、本当に髪を取り戻せたらいいな」
と、ガイルが言う。
「いいんだ、これは上げたんだから」
髪を取り戻したら、きっとレンは嘆き悲しむだろう。
レンのために、リゾは相当な覚悟と労力をかけてファウを誘拐しその罰もしっかり受けた。
それらを不意にするようなことはしたくなかった。
「俺が不甲斐ないばっかりに……」
「何言ってんだ? ガイルのせいなんかじゃない」
キョウにはよくわからなかったが、キョウが髪を失ったのはガイルは自分の落ち度のせいでもあると考えていたのだ。
「きっと、いつか……」
ガイルがキョウを両手で抱きしめる。
キョウは別段小柄というわけではなかったが、大きなガイルが抱きしめるとその体はすっぽり両手の中におさまってしまう。
逞しい腕だな、とキョウは思う。
なんだか安心感がある。