#5 『ここは王都アルカディア!!』
数十キロという距離をほんのひとっ走りで走破してしまったが、ヒーローアイで視認した城はいざ目の前にすると遠くから見た規模とは大違いで驚きよりも困惑が勝ってしまう
天地正義の目の前に見える"王都アルカディア"の城壁は現実世界で見た超高層ビルを彷彿とさせる威圧感だった
「これじゃあ変身してても飛び越える事が出来るかどうか……大人しく門番の人にお願いして入れて貰おう」
ヒーローアイで見た時既にこの城壁の前に駐在している二人の門番の存在は確認済みだったので、怪人と間違われない様に変身を解くと何とか中に入れて貰えないか交渉する事に。なるべく怪しまれない様に低姿勢で……こういう部分なら現実世界で培った営業職の強みも出せるだろうか?地面に吸い付く程の低姿勢で城門を守護する二人の門番に声を掛けた
「あの、すみません僕旅の者でして……」
「★§ΓΠΦθ!!」
「§ΠΠΛЮΞ??」
「……え?」
予想外の事態に頭は活動を停止させ非常事態を告げる警鐘を鳴らした。
非常に馴染みのある人間の顔をした門番の二人は自分の顔を見ながらどう考えても聞いた事の無い言語で話していたのだから
確かにおかしいと思っていたんだ、自分がこちらの世界に来てから話した事が有るのは例の襲われていた女性とゴライアスザウルスの二名だけだというのに
なぜよりによって自分の住んでいる日本の言語で話してくれると思っていたんだろうか?
となると全ての言語を理解し話す事の出来るヒーロー形態に変身せざるを得なくなるんだが……こんないかにも"王様が居ます"みたいな場所にあんな怪人面の自称ヒーローを通してくれる訳も無いし……どうすれば良いんだ!
「あの……そこを通りたいんですか?」
「そうなんですけどどうも物理的に話が通じないと言うか……」
後からやって来た修道女風の装いに身を包んだ青髪の女性は僕に話しかけて来た。彼女も旅の人だろうか?もし言葉が通じるなら彼女に通訳を頼んで一緒にここを……ん?今の言葉って確実に"日本語"だよな!?僕の聞き間違いでなければ今普通に会話が出来て……って
「先程はお助けいただきありがとうございました」
「さっきのお姉さん!!」
さきほど見た村娘の様な衣服では無くなっていた事で一瞬分からなかったが、そこに立っていたのは確かについ先ほど僕が魔物から救い出し別れた女性だった。それにしてもなぜ彼女は日本語が…と驚いたが、最初にこの世界に転生して来た時の状況を思い出してみると、自分が変身する前から彼女の悲鳴はしっかり日本語として聞こえていた事に気付く
「その、どうしてお姉さんは日本語を?」
「にほんご……? それは私が話す言語の事ですか?」
「そうですが……自覚無しに使ってらっしゃる……?」
お互いに顔を見合わせてこの状況や身の上に困惑を重ねている状況で、門番達までも訝しげな顔でこちらを窺っているのが分かり、慌てて多言語を介す事の出来るらしい彼女を盾にしてしまった。この行為はヒーローとして以前に男としてなんと情けないのだろうと凹んでしまったが、彼女の交渉の甲斐あってなんとかこの城壁は通して貰う事が出来たので深々と頭を下げお礼を言った
「いやぁ……まさか言語が通じないなんて思わずに……本当に助かりました!」
「いえ、それは私が言うべき言葉です"ヒーロー様"」
「……今……ヒーローって?」
「はい」
多方向から予想外の事態に襲われ心の休まる暇がない天地正義はひとまずどこか落ち着いて話せる場所で……とヒーローという存在を知る謎の女性と共に王都アルカディアへと歩を進めるのだった