#4 『強く優しく美しく・無敵のヒーロー見参ッ!!』
「近寄らないでよこの魔物ぉ~!!」
なんて事なの……まさかここがゴライアスザウルスの巣だったなんて……王国騎士が何十人でも敵わない怪物がこんな辺鄙な村の外れに巣を作ってるなんて聞いてないわよ!!
【この世界において武器も持たぬ人間が自然の中で魔物と出くわすという事は死を意味する。取り分けその魔物の中でも最高位に位置するのがこの"ゴライアスザウルス"なのだ】
【その巨体は大岩と錯覚するほど大きく硬く、獲物を狩るための爪は木の幹を思わせる。その気性は獰猛そのもので人や小動物を容赦なくエサとする事から、もし見かける事が有れば幼体だろうとすぐに逃げなければならないとされている。そんな魔物が今にも目の前の人間に飛び掛からんとしていた…】
「ガゥゥゥ……グルルァァ!!!」
「だ、誰か……助け────」
確実な死を予感させる目の前の巨大な魔物が発する咆哮に身は竦み、抵抗する気力は既に失われた。大きな口を開けて今にも自分の事を捕食しようとするこの魔物を前に、十八年という短い人生がフラッシュバックする。
中でも一際存在感を示す物は、身体から赤い蒸気を放ちながら巨悪と戦う"ヒーロー"と呼ばれる伝説の冒険者の姿だった。もしも本当にこんなヒーローと呼ばれる存在が居るならば……
「助けて!! ヒーロー様!!」
『 任 せ ろ ぉ ! ! 』
巣の中に反響したその声に釣られてゴライアスザウルスは声のした方向に顔を向けると一目散に走り出し、その先には確かに人のシルエットが浮かんでいた。しかし手には武器も持たず数は一人だけの様に見える
ダメ、その魔物は一人でどうにか出来るような魔物じゃ……誰か……
「ガフアアアアアアッ!!!!」
その人を助けて──
「安心して、殺しはしないよ──」
その人影に巨体が飛び掛かると同時に地鳴りが響き、そこには凄惨な光景が予想され私はつい目を伏せてしまった。
その場から逃げる事も出来ず、助けに来てくれた人を見殺しにしただけの自分の愚かさを悔いているこの瞬間にも、今もあの魔物は屍を貪っているのだろうか?
恐る恐る入口の方を見るとそこには有り得ない光景が広がっていた
食物連鎖において頂点だと言われているゴライアスザウルスは地面に倒れ伏し、その大きな体の上には人間が……いや、先程は逆光で見えなかったがそこに居たのは確かにあの赤き衣に身を包んだバケモノである事が分かった
「あ、あなたが……助けてくれたの……?」
声が震えて上手く喋れない。全身を朱に染めた髑髏の男がこちらに歩み寄って来る
この場で殺されるかもしれない、どちらにせよ結末は変わらないのだから文句は言えないだろう。私の前に立ち止まったそのバケモノは、左手の甲から一本の骨を抜き取ると一瞬にして"人間の男の子"へと姿を変えた
「あの魔物が目を覚ます前に早くこっちへ!」
「えっ、あの、あなた……バケモノは……?」
「説明してる暇は有りません! 早くこちらへ!」
言われるがままに手を引かれ、ゴライアスザウルスの巣穴を後にすると見晴らしのいい場所まで何とか逃げて来る事が出来た
「ここまで来ればもう大丈夫でしょう……怪我は有りませんか?」
「え、えぇ……」
自分の目の前で起きた事がにわかには信じられなかった。
確かに私を食べようとした真っ赤なバケモノが目の前でこの"男の子"に変わったんだ……今は人の言葉も話せているしどっちが本当の姿かは分からないけど、とりあえずは……
「ありがとう……助かったわ……」
「いえ! 無事で何よりです!」
「その、聞いても良い? あなたって……」
「それじゃあ僕はこれで!!」
「あっ、待って──」
何も聞けずに行ってしまった……それでも少年の姿が見えなくなる前に大きな光を発したと思えば、彼は再び"あの姿"になった様に見えた。
私を救ってくれたのは確かに彼だったのだろう、その体躯に似つかわしくない怪力を持ったあの姿はまさに────
* * *
「ごめん、痛かったよなぁ……今治してやるからね? えっとこの草も薬草か……これを貼り付けて……っと」
気絶から目を覚ましたゴライアスザウルスに頭を下げながらも、傷をつけてしまった顎に治癒効果のある薬草を使用する正義。ヒーローアイはこの世界に存在しているありとあらゆる物の価値を見分ける機能も有しており、この洞窟を訪れる前に拾って来たこの草が毒草か薬草かも識別する事が出来る
「グゥゥゥ……」
「急に巣穴に入った僕達の方が悪いのは分かってるんだけどさ、お前は強いんだから弱い人には優しくしてあげなきゃダメだよ……」
【説明しよう!!ヒーローイヤーはありとあらゆる言語を日本語に翻訳する機能を持っているのだ!!つまり魔物の話す言葉も彼には人間との日常会話と遜色ないほど鮮明に聞き取れている!】
「確かに食べる物には困るかもしれないけど……でも僕だってあの子と同じ人間なんだから怪我させた事は許してくれないか?」
「そう、こう見えても人間なんだよ。というよりも今は──」
「"名も無きヒーロー"って所かな?」
もう一度深々と頭を下げると正義は彼の巣を後にした。
初めて人を救えた満足感に浮足立ちながらも、この世界では人間よりも強い生き物たちを中心に世界が回っているのだと知った
初めて出会った女性はあれだけ小さな魔物に怯えていたかと思えば、あんなにも大きく強そうな魔物だって存在するのだから
自分が守るべきはこの世界か、はたまた自分と同じ人類だけなのだろうか?
正義とは何かを今一度心の中で問うた正義は例の女性にこの世界について聞くつもりだった事なんか忘れて、ヒーローアイを使い付近で一番大きな町を探した
すると数十キロ離れた先にはまるでゲームで見た様なお城があるではないか!手始めに人の多そうな場所で情報を集める事にした正義は、大きく伸びをすると一つ息を吐き城までの道を全速力で走り出した
その健脚を鳴らし駆けろ正義! 止まるな正義! この世界を脅かす者との出会いがすぐそこまで迫っているのだから!!
つづく!!




