#3 『絶対的ピンチに走れバケモノヒーロー!』
少女は全身真っ赤な般若のバケモノに追い回されていた。
恐ろしい表情を浮かべて自らの巣に持ち帰り食ってしまおうとするそのバケモノはついに私を壁際に追い詰めると、その恐ろしい顔を私に近づけ恨めし気な声色でなにやら呟いている様だ……
『コンナ……コンナハズジャナイノニ……』
「ひぃ……わ、私を食べても美味しくないよ……?」
『ニンゲン……クウ……オレ……ヒイロ……』
「わああ……もうダメだぁぁぁ……!!」
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「はっ! わ、私はなんだか怖い夢を見て……」
「ヴッ……ヴヴヴグゥ……コンナハズジャ……」
「はっ、はわわわわわ……!?」
こ、これは……夢の中で見た化物ッ!?そうだ、私はこの化物に襲われそうになって気絶して……しかも巣に持ち帰られる前にも目を覚まして二度目の気絶を……でもどうやら今は別の物に気を取られているみたいだわ!
この機を逃さず今のうちに──
【説明しよう!天地正義が変身した"緋色のヒーロー"が持つヒーローイヤーは三キロ先の衣擦れの音まで聞き逃さない超高性能の耳なのだ!!】
「ヴッ!? メヲサマシタンデスネ!?」
「ひっ!? いや!! 来ないでバケモノー!!」
「アッ……バケ……モノ……」
動きが止まった……?追いかけて来る前にどこかへ隠れなきゃ……!
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「ハァ……ハァ……なんとか逃げ切れたみたいね……」
どれだけ走ったのかは分からないけど森の中でも随分と奥まった所まで来てしまったらしい。見覚えの無い洞窟まであるし……まぁいいわ、今はここで隠れさせてもらいましょう。まったく……私はただ薬草を摘みに来ただけなのにスライムの群れに囲まれて、挙げ句どうしてあんなバケモノに食べられなきゃいけないのよ!こんな事なら村で大人しくしてれば良かった……
「ガブフシュゥゥゥ……」
「ねぇ? あなたもそう思うわよね? 大体あんな魔物見た事も……」
「……ん?」
「グルルルルァァァ!!!」
「キャアアアアアアア!?」
* * *
バケモノ……か。
確かにこんな見た目じゃそう言われても仕方ないというか……この骨みたいな見た目も僕がまだ"あっちの世界"で生きていた時の骨と皮だけの体型を皮肉っているのかもしれないな。
力も無い僕が暴漢に立ち向かっている姿は皆からこんな風に見えていて、だからネットで見ている人達は思ったんだろう
ただ醜いだけのコイツが誰かを救おうだなんておこがましいってね……
それでも、心だけは醜くならない様にって必死に抗っていた……その結果が沢山の人に迷惑を掛けて自殺だなんて笑えるよな。
社会にとっての悪役は僕じゃないか……それでも──
キャアアアアアアア!!
「この声はさっきの……! まさかまた魔物に……声の方向はあっちか!?」
【説明しよう!!"緋色のヒーロー"が持つヒーローアイは千里眼である。物を透過し全ての成分情報や生体反応なども検知できる優れものだぞ!!】
「せめてこの世界でだけは……誰かを守りたいッ!!」
どれだけあの瞬間を後悔しようと、内から溢れ出す衝動を止める事は出来なかった
どれだけ"正義マン"と揶揄されようと
どうしようもなく僕の心は"ヒーロー"だった────