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第31話 テロへの警戒、図書館での学習

 王都爆破事件から数日が経った。


 結局、犯人は捕まってもいないし見当もついていない。


 王都の治安を司る近衛騎士団が働いていないとかそういうことではなく、僕の戦った人狼と最後に出てきた司祭と呼ばれる人物が証拠を一切残さなかったのだ。


 町の復旧にはまだまだ時間がかりそうだ。


 魔法で直せるのではないかと考えそうだが、創造魔法はものすごく難易度が高いので使える人間なんてまずいないし、魔力供給が行われなくなると崩れてしまうので意味がない。


 地道に大工の手によって直す以外に方法はないのだ。


 僕としても僕のことを標的にしていた節があるので、個人的に調査もしてみたのだけれど、全く何も分からなかった。


 彼らが僕のことを指して言っていた『祝福なしの転生者』という言葉も様々な文献をあったって見たけど、どんな書物にもそんな言葉は見つけることができなかった。


 だから、僕は受け身の対応で何とかしようと思っている。


 彼らは必ず会う的なことを去り際に言っていたので、また僕の前に現れることは間違いないのだ。それまでに僕は万全の準備をしておけばいいのだ。


 その準備の一つに苦戦させられた魔法を使えなくさせる魔法具の対策もある。


 古代魔法具(アーティファクト)に対抗するには古代魔法具(アーティファクト)が必ず必要になる。


 そして逆に言えば特定の古代魔法具(アーティファクト)に対抗する古代魔法具(アーティファクト)は必ず存在しているのだ。


 だからこそ、僕は馴染みの商人に対抗古代魔法具(アーティファクト)の入手を依頼している。入手にどのぐらいの時間がかかるか分からないけど、これで安心だろう。


 あとは――


「ねぇ、カルロ。ちゃんと調べてる?」


 僕の顔を覗き込む瞳が二つ。


 今日は週末。


 つまり、僕は約束通り王立図書館にレベッカとマリアンヌ王女と共に聖教国についての事前学習に来ているのだ。


「うん。調べてる、調べてる」


 僕は聖教国の歴史書を片手に答える。


 そこに書いてあるのはいかに創造神ミシリアが素晴らしいかについてと、その神の子によってどうやって聖教国が作られたかというファンタジー。


 現実的に考えてプロパガンダもいいところだ。


 英雄譚としては良く書けていると思う。


 それに僕のやる気がない理由がもう一つ。


 この聖教国研修。僕にとっては2度目の行事で、しかも、王宮に勤めている時は仕事で何度も行ったし、勇者パーティーに入ってからは半年ぐらい拠点にしていたので、路地裏まで聖教国については把握しているのだ。


 事前学習をそっちのけで、襲撃者対策を練っていても仕方のないことだと思う。


「聖教国といえばドラゴンが守護しているんですよね」


 集合した時からテンションの上がっているマリアンヌ王女が僕に本の一文を見せてくる。


「そうですよ。聖教国は聖獣と呼ばれるドラゴンが建国当初から守護しているんです」


「すごいですよね! わたくしたちも見ることができるのでしょうか?」


 キラキラと目を輝かせるマリアンヌ王女はドラゴンの背に乗っているところでも想像しているのだろうか。


「難しいと思いますよ」


「そうなんですか……?」


「はい。ドラゴンは人間と生きているサイクルが違うので、100年周期ぐらいで寝て起きてを繰り返しているんです。確か今は睡眠期のはずだったと思います」


 例え覚醒期だったとしても一般人が聖獣に会うことはできないと思う。聖教国でも法王か枢機卿クラスの人たちしか聖獣の間と呼ばれる神殿の最奥には入れないはずなのだ。


 僕は一応勇者パーティーの一員として睡眠期に入る直前だったドラゴンにあったこともあるけど。


「……それは仕方ありませんね」


 見るからに落ち込むマリアンヌ王女。


 見かねたレベッカが話題を変えた。


「でも、聖獣の化身は見れると思うよ!」


「確かにそれなら必ず見れるはずだね」


 間違いなく見物できるし、運が良ければ触ることもできるはずだ。


「聖獣の化身ですか……?」


「そうそう。聖獣の化身。これだよ、これ」


 レベッカが開いたのは『聖教国旅行完全攻略』と書かれた観光雑誌の1ページ。


 そこには見開きで聖獣の化身(ホワイトタイガル)の魔法絵と説明が書かれている。


「とっても可愛らしいですわ!」


「このホワイトタイガルなら聖教国中にある教会に必ず1匹はいるみたいだから見に行ってみようよ」


 聖教国の人間はホワイトタイガルを聖獣であって魔獣ではないと言い張っているけど、ちなみにこのホワイトタイガルは魔獣の一種だ。


 ただ、人間種への攻撃性は低く知能も高いためこうして人と共に生活することが出来ている。


 あと僕にはどうしてもこのホワイトタイガルが可愛いとは思えない。


 だってこの巨大な牙に凛々しい鬣。人間の頭を一飲みできそうな口に巨大な体躯。どちらかというとかっこいいが正しいと思う。


 まぁ、感性は人それぞれなので口に出すつもりはないけれど。


「じゃあ、教会も研修ルートに入れておきましょう」


 僕は机に広げていた聖教国の地図の端に「教会を通る」と書きこむ。


「はい!」


 マリアンヌ王女の反応を見ていると、僕は大好きな女性を思い出す。


 マリアのことだ。


 彼女も聖教国に行くと決まったときにホワイトタイガルを見に行くと言って満面の笑みを浮かべていた。実際に会った時はホワイトタイガルの首に抱き着いて頬ずりをして満足げだった。


 僕がホワイトタイガルに嫉妬するぐらいは長時間抱き着いていたんじゃないかと思う。正直、僕がホワイトタイガルと交代したかった。


 ちなみにマサキはホワイトタイガルにビビッて近づくことも出来なかった。


「そろそろ、閉館のお時間ですので、申し訳ございませんが退館していただきたいのですが……」


 王立図書館を管理する司書さんが申し訳なさそうに僕たちに声をかける。


 時計を見れば既に閉館まであと5分もない。


「ごめんなさい。今、片づけますので」


「急がなくてもいいので、本を傷つけないようにお願いしますね」


「はい」


 僕たちは急いで資料を本棚に戻して図書館を後にした。


「それじゃあ、この後はマジョリカだね!」


「はい! カルロ様、御馳走様です!」


 チッ! 覚えていたのか!


 僕は夕日に向かって毒づいたのだった。

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