第32話 商人の幼女、騎士の幼女
今日は月に1回骨董市が開催される日。
僕は骨董市が開催されている広場から少し路地に入ったところで人を待っていた。
「遅くなってすみません」
「全然待ってないよ。露店の準備が忙しかったんでしょ」
僕の方に息を切らして走ってきたのは、僕と同い年ぐらいの幼女。
ボブカットの水色の髪がよく似合う幼女の名前は、僕の御用達の古代魔法具商人、ロカ。
「カルロさんはお得意様ですから、優先させていただきますよ」
ロカの露天は、神託の杖の魔法石になってる超古代魔法具を買ってからも何度も利用させてもらっている。
こうして個別に取引するのも初めてでは無い。
「それでもう見つけられたの?」
僕が頼んでいたのは魔法を使えなくする古代魔法具に対抗する古代魔法具。
今回、注文した古代魔法具はいままで発見されたことのないものだ。もっと時間がかかると思っていたのだけれど……。
「はい! こちらになります」
ポーチからランプ型の魔法具を取り出すロカ。
受け取った魔法具は古代魔法具の例にもれず少々傷みはあるものの状態としてはいいほうだろう。
それにしても見た目に特徴がないなと思う。
基本的に古代魔法具は荘厳な彫刻や、華美な装飾が目立つ物が多い。
だか、これは蝋燭がある部分に魔法石がなければ、量産品の手持ちランプとほとんど変わらない質素な装飾だ。
「こちらの古代魔法具の名前は揺り籠の燭台です。使い方はここを捻ると――」
ロカは魔法具の下部に設置されたスイッチを捻る。もう、使い方までランプその物だ。
すると魔法石が白熱色に輝き出す。
とても温かい光だ。
「この光が届く範囲では魔法が使えるようになるはずです。これは使用者だけでなくその周囲の人にも効果があります」
「それは味方だけではなく敵にも効果があるということ?」
「はい。同じように敵であっても光の届く範囲内なら魔法が使えるようになってしまいます」
なるほど。つまり味方のパーティーだけが逆にアドバンテージを得ることができるというわけではないのか。
「ありがとう。いくら?」
「えーっと、15000ゴールドです」
「じゃあ、これで」
僕は1万ゴールド金貨を2枚、ロカの小さな掌に乗せる。
「ちょっと待っていてください。今、お釣りをとってきますので」
「お釣りはいいよ。いつもお世話になっているから」
今回もだいぶ無理を聞いてもらっている。
まず、諸悪の根源の魔法具は騎士団が証拠品として回収してしまっているので渡せていない。さらに、僕もあの魔法具の名前も知らないので、伝えられたのは魔法具が及ぼす効果とその範囲だけ。
それだけの情報からたった数日で対抗魔法具を見つけて来てくれたのだ。すごすぎる。
本当はもっと代金を支払いたいのだけれど、ロカは大金を中々受け取ってくれないので、このぐらいで僕が妥協している。まるで頑固で職人気質のバル爺さんみたいだ。
ロカとバル爺さん、会ってみたらめちゃくちゃ気が合うんじゃないだろうか。どっちも魔法具関係の仕事をしているし。何なら僕もその場で会話に混ざってみたいと思う。
今度、真剣にバル爺さんに声をかけてみよう。面白い魔法具商人がいるんですって。
「そんな、毎回余分に代金をいただいてばかりで……」
困った顔のロカ。
こんな時には魔法の言葉がある。
「ごめん! ちょっとこの後急ぎの用事があるから、また今度で」
僕は「……あの、ちょっと……!」と手を伸ばしたロカから一目散に逃げ出した。
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ロカの姿が見えなくなったことを確認すると僕は立ち止まった。
そして、人影のない路地裏に向かって声をかけた。
「コソコソついてこなくていいから出ておいで」
僕の呼びかけに建物の影から完全武装の騎士が現れる。
「お呼びですか? カルロ様」
騎士の正体はエリス。
僕の下女を名乗ってやまない変人だ。
「付いてくるのはもう諦めたから、普通に付いてきてよ。あと服装も」
「でも、それだとカルロ様をお守りできません」
はぁ。先日のテロ事件以来ずっとこんな感じだ。
学校にいる時以外の時間は常に僕のことを影から見ている。図書館での事前学習の時にも本棚の影から僕たちを見ていた。
いや、分からないこともない。確かに常に完全武装をしていれば、奇襲攻撃にもある程度即応することができるし、影に隠れていれば逆に奇襲できるかもしれない。
ただ、考えてみてほしい。
常に誰かの視線にさらされ続けるこちらの身も。正直に言って気味が悪い。
それに、夜中の研究も規模の縮小を余儀なくされている。
エリスが寝ずの番をしようとしてくるせいだ。まぁ、いつも睡魔に敗れて寝落ちしているけど。
「それに、この前もあたしはお役に立てませんでしたし、それどころかカルロ様の足を引っ張るようなことを……」
しょぼんとうなだれるエリス。
どうやら、僕が心臓を貫かれたエリスを治療したと思っているのだ。本当はエリスの体を動かしていたオリジンがよく分からない魔法で治していた。
戦闘自体もエリスがいなければ最初の一撃で行動不能になってたし、オリジンが居なければ魔法が使えるようになるまでの時間は稼げなかった。
本当に役に立てなかったのは僕だ。
僕が一番足手まといだった。
それが心底、悔しい。
僕が1番戦闘経験があって、実際の年齢だって1番年上のはずだ。
前世の僕が殺されたのもクソ勇者の卑怯な奇襲にあったからで、その時は自分の命だけが犠牲になった。
それなのに……
今度は、僕の巻き添えで2人の命も巻き込むところだったのだ。
だから、僕はもういつ如何なる時も油断しない。
常に索敵魔法を広範囲で展開し、常に防御魔法を発動させ、常に反撃用の攻撃魔法を待機させる。
でも――
「やっぱり、それはないわ」
僕はフルアーマーを装備したエリスに向かってため息をついた。




