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第29話 魔法が使えない原因、反撃の狼煙

 僕がまず初めにしたことは、魔法が使えない原因を考えること。


 可能性としてあり得るのは、3つ。


 妨害魔法。対抗魔法。魔法具。


 このどれかだ。


 ただし、オリジンがエリスを延命できる時間はそんなに多くないと思う。魂を繋ぎとめるというのがどういうことなのか分からないけど、現代魔法では不可能なことで超高難易度なことだということぐらいは分かる。それが代償もいらずに長時間維持できるようなものの訳がない。


 だから、僕は可能性を一つに絞ることにする。3つとも調べるには時間が足りない。


 まず、妨害魔法だけど、ほぼすべての現代魔法を知る僕に対しては意味がない。他の魔法使いならともかく、僕の構築する魔法は妨害魔法の影響を受けないようにしている。


 もしも、敵が新規の妨害魔法を使ってきているとすれば話は別だけど、それでもある程度の対抗ができるはずだ。


 次に対抗魔法だ。これは99%ない。なぜなら対抗魔法は、その対抗魔法の術者とその対象の術者との間に圧倒的な差がなければ行えない。今の僕のレベルは50。このレベルに圧倒的な差を持つ魔法使いがこの近くにいれば否が応でも分かる。


 つまり、今、僕が感じられないということはいないということだ。


 最後に魔法具。これが最も怪しい。魔法具は未知なものが多いし、なおかつ古代魔法具(アーティファクト)だと僕も対応のしようがない。古代魔法具(アーティファクト)への対応には古代魔法具(アーティファクト)でしかできないのが現状なのだ。


 現状の「魔法を使えなくする」という効果を及ぼす魔法具を僕は知らない。しかし、予測はできる。


 ただし、魔法具にも種類がある。


 装着型魔法具。設置型魔法具。使い切り魔法具。


 大きく分けてこの3つ。


 使い切り魔法具は一度使われると対処できないので、この際、放っておく。これだったらもうあきらめるしかない。


 だから考える必要があるのは、装着型魔法具と設置型魔法具。


 装着型魔法具は9割ぐらいのものが使用者自身にしか効果を及ぼさないもの。


 ただし残りの1割の可能性も捨てきれない。


 僕は、物陰からエリスの体を操るオリジンと戦うフード男を見る。


 フード男は全身を白いコートで覆っているので透視の魔法でも使わなければその中に魔法具を装着しているかは分からない。


 フード男と激しい剣舞を繰り広げているオリジンの動きが少しずつ鈍くなっているのが剣技に見識の深くない僕でも分かった。


 迷っている暇はない。


 僕は走り出した。激しい戦闘を繰り広げるオリジン達から離れていくように。


 僕は設置型魔法具に絞り込んで探し始める。


「あるならこの辺に――」


 立ち止まったのは、いつもなら八百屋がみずみずしい野菜や果実を軒先に並べている場所。ただ、今はその光景を想像することもできないほどに瓦礫が散乱している。


 僕はその瓦礫の山を動かしていく。


 一心不乱に。隅から隅まで。余すところなく。


「――だめだ! ここじゃない!」


 設置型魔法具はほとんどが一定の範囲内に効果を及ぼすもの。


 だから、その効果範囲を予測すれば、設置されている場所にも検討がつく。

 

「照らせ、灯火(ライト)


 走りながら初期魔法を唱える。


 魔法が使える範囲を探るため。これが分かれば、必然的に魔法具の位置を狭めていくことができる。


 しかし、魔法は発動されない。


 つまりここはまだ効果範囲だということ。


 すでに戦闘が行われている場所からは区画一つ分は移動している。


 これは、もう確定だ。


 こんなに効果範囲が広い装着型魔法具はない。


 灯火(ライト)を何回も唱えながら、走り続ける。


 そして――


「ついた……!」


 ボワッと浮かび上がる白い光。


 灯火(ライト)の魔法が発動した証だった。


 魔法が使えるところと使えないところの境界線がわかれば、後は掘り起こすだけ。


 魔法具が設置されてると予想される場所を掘り起こす、僕。


 瓦礫の山をかき分け、地面が見えた先には、紫色の光を放つ魔法石(コア)を持った古代魔法具(アーティファクト)が鎮座していた。


 こんな形の古代魔法具(アーティファクト)は見たことがない。


 だけど、この古代魔法具(アーティファクト)が魔法の妨害をしているのは間違いないと確信する。


「ごめんなさい」


 僕は古代魔法具(アーティファクト)を作った古代の職人に心からの謝罪を述べると、古代魔法具(アーティファクト)に瓦礫を振り下ろした。


 ガラスの割れる音。


 ひしゃげる金属。


 光を失う魔法石。


「潜め、隠密(ハイド)


 詠唱に呼応して紫色の魔力が僕を覆う。


 僕自身の気配がすーっと薄くなっていくのを感じられる。


 やはり、今壊した古代魔法具(アーティファクト)が魔法を妨害していたみたいだ。


 僕は、レベッカを横たわらせた物影に移動した。


 魔法が使えるようになった僕がまずはじめにしたのは、レベッカの治療。


 魔法さえ使えるなら治療ぐらいはすぐに出来る。


 ボロ布の切れ端を巻いただけの応急手当を剥がした。


「癒やせ、治療(ヒール)


 今度こそ緑色の光がレベッカを包み込んだ。


 レベッカの意識はまだ戻らないけど、問題ないだろう。


 次は――


「付与、属性攻撃力上昇」


「付与、魔法攻撃力上昇」


「付与、移動速度上昇」


「付与、物理防御力向上」


「付与、視力強化」


「付与、状態異常無効」


「付与、回復量上昇」


 僕は知りうる限り全ての付与魔法(エンチャント)を唱える。


 久しぶりの同レベル帯の敵との戦闘だ。油断はしない。


 僕の仲間を痛めつけてくれた分の対価は払ってもらおう。


 さあ、反撃開始と行こうじゃないか。

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