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第27話 本能の剣、技術の刀

「おっと、危ない、危ない」


 あたしの剣は男のコートを掠めた。


 あたしは突き出したままの剣を横薙に振るう。


 フードを被った男は半歩だけ動いた。


 空気が斬れる。


 あたしの剣がぎりぎり届かない所に下がって避けたのだ。その動きは、力押ししか知らないあたしにも洗礼されているものだと理解できる。


 フード男はいつの間に抜いたのか分からない剣を戻りに合わせて振るう。


 あたしは横薙勢いそのままに一回転して、フード男の剣を弾いた。


 そのまま力任せに矢のように鋭い刺突を額、心臓、太腿へ放つ。


 フード男は最小限度のステップと払いであたしの三段突きを避けた。


 あたしは攻撃の手を休めない。


 そして、乱舞が始まった。


 体のありとあらゆる可動部を動かし、剣、拳、肘、膝、爪先、額、口、をもって攻め続ける。


 男はそのすべてを華麗にそして繊細に捌いていく。


 まさしくそれは技術と本能のぶつかり合い。


 人間の認識速度の限界近くで行われる剣戟の応酬。


 鋼鉄と鋼鉄が合わさり、火花を飛ばした。


 肉と肉がぶつかり、キラキラと汗が舞う。


 数十の攻防の末、あたしとフード男は鍔迫り合いに移行する。


 普通なら体格の小さいあたしが不利になる状態。


 しかし、動物や魔物を相手に剣を磨いたあたしにとって、大の大人だろうと力だけなら互角もしくはそれ以上に渡り合える。


「はぁっ!」


 剣に気合いを込める。


 あたしの剣はフード男の剣を徐々に押し込んでいく。


 一歩、また一歩と男が後退する。


 クロスした刀の先のフード男と視線が交わる。


 フード男が楽しそうに笑っているような気がした。


「その年齢でこれだけの剣を振るうとは……素晴らしい。ただ、一つ。残念なのは、貴様の剣には言葉がない」


 あたしの剣にかかっていたフード男の剣圧が唐突に無くなる。


 あたしの態勢は、たったそれだけのことでいとも簡単に崩される。


 前方につんのめった態勢をなんとか踏ん張ることで耐えたあたしの視界に上段に持ち上げられたフード男の刀が映る。


 踏ん張っているこの状態からでは回避は出来ない。


 未だ前方へ進もうとする伸び切った肘を無理やり引き戻す。


 肘の関節を繋ぐ筋がブチブチと切れる音がした。


 それでもなんとか頭上を防御する態勢を整える。


 が、剣は落ちてこなかった。


「ッ!?」


 代わりに飛んできたのは膝。


 それは、意識外からの強烈な一撃。


 ガードも受け流しも出来ていない無防備なところへの最適な攻撃だった。


 フード男の強烈な膝蹴りがあたしの腹部にめり込んだ。


 肋骨が折れる音が体を通して耳に届く。


 そのまま無様に吹き飛ばされ、屋根の上から瓦礫が転がる地面に叩きつけられる。


 肺に入っていた空気が全て押し出され、空気を求め口がパクパクと動いた。


 追撃が来る。


 本能がそう叫ぶ。


 寝転がっていては殺されることは目に見えていた。


 あたしは、すぐさま立ち上がり追撃に備える。


 追撃はこなかった。


 フード男は、屋根の上からあたしを見下ろすだけ。


 たった2回。


 フード男が本腰を入れて攻撃してきた回数だ。


 男の剣は圧倒的高みにあった。


 あたしは間違いなく、殺される。


 ただ、まだ死ぬことはできなかった。


 あたしの背中の後ろにはカルロ様がいる。


 カルロ様だけは生きてもらわなければならないのだ。


 あたしはそのために生きてる。


「ほう、まだ立ち上がるか」


 フード男が屋根の上から音もなく着地する。

 

 湧き出てくる血を吐き捨て、フード男を睨みつける。


 さっきの無理な挙動のせいで、右腕には力が入らない。


 折れた肋骨が肺に穴を開けたのか息が苦しい。


 ただ、それでも――


「うおぉぉぉぉ!!!」


 持てる全ての力を使った跳躍。


 あたしにとって多分、これが最後の攻撃になる。


 あたしは、この一撃に全てを込めた。


 長い滞空時間を経て打ち下ろす一閃。


 フェイントも駆け引きも、細かな技術も存在しない純粋な力技。


 直剣は、フード男の脳天をかち割る軌跡を描き出す。


 フード男はただ見ているだけだった。


 その真紅の瞳はただ虚空を眺め、うつろにあたしの姿を映していた。


 そして、腹部を激しい痛みが襲った。


 男の剣があたしの体を突き抜けていた。


 滴る血が剣を伝い、男の頬に垂れる。


「見込みはあるが、よもや格の違いを理解できんとは……」


 男が呟いた。


 あたしは届かないことを理解しながら、フード男に手を伸ばす。


「見苦しい」


 あたしを支えていた剣が抜かれ地面を転がる。


 傷口からは脈に合わせて大量の血が流れ出ていた。


 男がしゃがみ込む。


「死か恭順か、好きな方を選べ。その力、教団の為に使うというのならば、助けてやろう」


 男があたしの顔を覗き込む。


 聞かれるまでもなく、あたしの答えは決まっている。


「あたしは、カルロ様以外に仕えるつもりはない!」


 血が絡んだつばを男に飛ばし睨みつける。


「そうか。残念だ」


 男は剣を振り上げる。


「死ね、愚かな者よ」


 さようなら、カルロ様。今までお世話になりました。


 あたしはカルロ様のお役に立てましたか?


 もっと、お仕えしたかったのに残念です。


 生まれ変わってもカルロ様のところに必ず行きますから、どうかそれまで待っていて下さい。


 ありがとうございました。


 最後にあたしの瞳に映ったのは何かを叫ぶカルロ様の顔だった。

すみません。

2019年9月15日に投稿を予定していた第28話は更新を延期します。

作者の体調不良です。1週間布団から出ることができず、頭が回らないので執筆ができていません。


火曜日はしっかりと更新します。


よろしくお願いします

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