最終話 真夏の夜の方程式・完全解
20X8年8月11日
PM11時15分
隼人と千冬は、コンビニを出る
店を出るなり、隼人はガリガリちゃんアイスのバニラカップを、千冬はガリガリちゃんアイスのソーダバーを袋から出して食べ始める。
「ちーちゃん、やっぱり学校帰りの買い食いは最高だな!」
「そうですわ、お兄様!」
2人は快心の笑顔で顔を見合わせる。
「今日は、本当にいろんなことがありましたから助手様ちゃんは、すっかり疲れちゃったのです」
「そうだね、ちーちゃん。本当に沢山のことがあったからね」
「でも、最後の最後に本当の犯人が雪乃先輩だと分かって、助手様ちゃんは大満足なのです」
千冬は、そう言って満面の笑みを向ける。
「そうだね。楽しかったよね。雪乃先輩は冤罪だけどね」
ポトン
驚きの余り、千冬は、アイスバーを地面に落としてしまう。
「じょ、助手様ちゃんのアイスが……」
涙目になる千冬。
「ちーちゃん、大丈夫だよ。俺のバニラカップを、ちーちゃんにあげるから」
隼人は千冬に自らのバニラカップを差し出す。
「ワーイ、助手様ちゃんは、お兄様のそんなお優しいところが大好きなのです!」
千冬は両手を挙げて喜ぶ。
「そ、そんな事より、お兄様!! 今、何と仰りました?」
「え? 俺のバニラカップをあげるって言ったけど?」
千冬に尋ねられ不思議そうに答える隼人。
「違いますわ。もっと前ですわ」
「え? やっぱり学校帰りの買い食いは最高だなって言ったな」
「戻りすぎですううううううううううう」
千冬は叫ぶ。
「雪乃さんが冤罪って何のことなのですか?? 助手様ちゃんには、何が何やら分からなくなってきたのです……」
千冬の頬に冷や汗が流れる。
「あっ、それね! 雪乃さんは、真っ白だよ」
「え? え? なに、しれっと言われてるのですか? あんな痴女行為をする雪乃さんはサイコパスじゃなかったのですか?」
「ん? そんな訳ないよ。むしろド天然の癒し系ドジっ娘でしょ。自分がパンツ履いてないの忘れるくらいなんだから正真正銘の天然さんだね。まぁ紐パン盗まれて、よほど慌ててたんだろうけどね」
隼人はそう言って笑う。
「そ、それで良いのですか?」
「勿論だよ」
「え? え? 雪乃先輩の紐パンを盗まれたというのは、自作自演だったんじゃないのですか? 新井先輩は真っ白なんですよね」
「イヤイヤイヤイヤ! ちーちゃん、それは違うよ。新井先輩は、まっくろくろすけだよ。真っ白なのは雪乃先輩なんだよ。女子更衣室での俺の推理ショーあったでしょ。あれが全部、真実だから」
そう言って隼人は千冬の頭を撫でる。
「え? え? でも、それはその後の生徒会室での会話で全部、ひっくり返ったものだと助手様ちゃんは思っていたんですが」
「うん。良いところに気づいたね。あの時の生徒会室での会話ね。あれは全部ウソなんだ」
「ええええええええええええええええええええええええ」
千冬は思わず大声で叫ぶ。
「ど、どうして、そんなウソをつかれたのですか?? 助手様ちゃんは意味が全然分かりませんですわ」
困惑する千冬。
「ちーちゃん。俺たちが、女子更衣室に向かう途中で小鳥遊理事長と出会ったよね。あの時に、俺が理事長に話していた現行の生徒会規則第114章51条4項についての話って覚えているかい?」
完全記憶能力を有することから完全なるデータベースを自称する千冬は、正確に返答する。
「はい、お兄様。お兄様は、生徒会規則第114章51条4項を悪法の最たるものと評価されました。なぜなら、その規定は生徒会規則上の禁止規定に当たる行為があれば退学しか認めない極端に厳しい規定だからということでした。なので、お兄様は生徒会規則を改正して、不確定概念を用いることで広範な要件裁量を認め、また、退学だけでなく、停学・ 戒告も可能となるような効果裁量も認めるつもりだと仰いました。そんな改正により、お兄様は秋葉原学園生徒会規則を、世界で最も公正で中立的な内容を持つ校則に変えると訴えられたのです」
「そうだね、ちーちゃん。 パーフェクトだよ!」
隼人はそう言って千冬の頭を撫でる。
「だったら、ちーちゃん。もし改正前の現在の生徒会規則をまっくろくろすけの新井先輩に適用するとどうなるかな?」
「はい。生徒会規則第114章51条4項は、生徒会規則上の禁止規定に当たる行為があれば退学しか認めないという規定です。新井先輩の犯されたものは刑法上窃盗罪として処罰されるようなものですから、生徒会規則でも当然に禁止規定とされています。ですので、新井先輩は、生徒会規則上の禁止規定に当たる行為をなされたわけですから、生徒会規則第114章51条4項が適用され必ず退学しなければならなくなります! あっ! そういうことなのですか!」
「そうだよ、ちーちゃん。新井先輩は退学せざるを得なくなってしまうんだ。高校3年の夏、つまり卒業まであと半年という今の大切な時期にそんな重い処分がされてしまっては新井先輩の人生は台無しだろ。だから、俺は、あえてウソの演技をして新井先輩を白に持っていったわけだ。新井先輩が余りにノリ良く俺の話にあわせて来たのは苦笑したけどね」
「え?! ということは花音さんも、それをご存知で知らなかったのは、助手様ちゃんだけだったのですか?」
「イヤ、花音は気づいてなかった。だから助かったんだ。気づいてたら作戦は第2段階に移行しなければならなかったからね。風紀委員会は、懲罰委員会への訴追権限を持つ機関だから、生徒会と違って生徒会規則を守らなければならないからね」
「え? 風紀委員会は生徒会規則を守らなければならないのに、生徒会は生徒会規則を守らなくていいんですか?」
隼人は、満面の笑みで千冬の頭を撫でる。
「エラいぞ、ちーちゃん。良いところに気がついたね! 生徒会は、生徒会規則を守る集団じゃない。生徒会は生徒を守る集団なんだ。だから、俺は規則を適用させないことで、新井先輩を守ったというわけだ」
「さすがお兄様です!!」
千冬は目を輝かせて隼人を見る。
「あれ? でも、お兄様。もし花音さんが、お兄様と新井先輩のウソの演技に気づかれてたら、作戦は第2段階というのに移行されていたんですよね。それってどんな作戦ですか?」
「知りたいかい?」
「はい!」
「じゃあ俺が生徒会室で、花音にガリガリちゃんアイスを舐めさせながら、それをスマホで撮影してたのを覚えているかい?」
「はい!」
「あのとき撮れたものはアイスを舐めるだけの100%健全な動画にすぎない。でもね、世の中には、心が汚れた大人が沢山いるんだよ。そういう人にとっては、あの時の動画にモザイク処理をかけるという1工程を加えるだけで、不思議なことにあの動画がAVに見えてしまうんだよ」
「AVって何ですか?」
隼人は千冬が真面目で健全な中学生であることを思い出す。
「あ、あ、アニマル・ビデオかな……」
隼人は無理やり話を誤魔化す。
「まぁ兎に角、そんなかんじで、俺はあの時、既に先を読んで花音の弱みを握り圧倒的に優位な立場に立つという戦術に成功していたんだ。だから、あの動画を表に出さないという交換条件を持ちかけることにより、新井先輩を懲罰委員会へと訴追させないという交渉カードを切ることも可能だったんだ。これが作戦の第2段階だよ」
「さすがお兄様です! 素晴らしい戦術です!」
「だからお兄様は、あの時、花音さんの耳元の髪をかき上げて耳を出したり、花音さんの右側の首もとの鎖骨の上のホクロをなぞったりされていたんですね」
「ちーちゃん、良い所に気がついたね! 耳の形、ホクロの位置というものは、アニマル・ビデオ出演疑惑検証の際にピアス穴の位置、歯形と並んで最も有力な同一人物確認方法となるものなんだ。だから、あの時、あえてそこをクローズアップさせておいたのさ」
「さすがお兄様です! それはもはや戦術ではなく戦略ですね!」
千冬は目を輝かせる。
そんな千冬を見て、隼人は少し不安を覚える。
「ちーちゃん、俺と1つだけ約束してくれないか……」
「え? 何をですか?」
「ちーちゃんが18才になるまで、AV……いや、アニマルビデオなどの周辺のことを調べて欲しくないんだ……」
千冬の健全な成長を願う隼人は、率直に千冬に約束を求める。
「え? え? 帰ったらスグに調べようと思ってましたのに……助手様ちゃんが18才までは、まだ5年もあるんですよ……」
「すまない……」
「申し訳なくなんてありません! お兄様との約束なのですから、絶対に守ります」
「だって助手様ちゃんは、お兄様のことが大好きなのですから!!!」
真夏の夜の方程式編・完
これにて第1編「真夏の夜の方程式編」は完結です。最後までお読み下さったことに、心より感謝申し上げます。
次編である「真冬の夜の方程式編」は、新たなアイデアを思いついた時に執筆しようと思っております。
本作品『史上最強の名探偵にして完全なるロジック遣い・綾宮隼人の優雅で華麗な推理譚~ブラコン妹とツンデレ令嬢とロジック遣い~』は「ハイパーキューブ」プロジェクトに属する作品です。
「ハイパーキューブ」プロジェクトには、人色蔵人を主役とする「ハイパーキューブ《HYPER CUBE》 ~隻眼の使徒によるチート と戦略の無双譚~」と、本作品である綾宮隼人を主役とする「史上最強の名探偵にして完全なるロジック遣い・綾宮隼人の優雅で華麗な推理譚~ブラコン妹とツンデレ令嬢とロジック遣い」が存在します。
綾宮隼人の宿命のライバル・人色蔵人が活躍する「ハイパーキューブ《HYPER CUBE》 ~隻眼の使徒によるチートと戦略の無双譚~」をご一読下されば、作者としてこれに勝る喜びはありません。
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