8/79
第七章 京に渦巻くもの
第七章 京に渦巻くもの
永禄十一年。
織田信長が足利義昭を奉じて上洛し、京を押さえたことで、天下の形は大きく変わり始めていた。
しかし、宗一郎は喜んでいなかった。
むしろ、京へ入ってからというもの、その警戒心は強まっていた。
「……人が多すぎる」
京の町を歩きながら、宗一郎は呟いた。
隣を歩く竹中半兵衛が微笑む。
「人が多いのは都ですからな」
「そういう意味ではない」
宗一郎は振り返った。
公家。
寺社。
商人。
武士。
浪人。
そして、将軍を取り巻く幕臣たち。
様々な思惑を抱えた人間が、一つの町に集まっている。
「尾張や美濃なら、敵がどこにいるか分かる」
「京では分からぬ、と?」
「敵が敵の顔をしていない」
宗一郎の言葉に、半兵衛は笑みを消した。
「なるほど」
「しかも、今の織田家は将軍を立てている」
「はい」
「つまり、信長様と将軍家は味方でありながら、互いに相手を必要としている」
半兵衛は頷いた。
「その均衡が崩れた時が怖い、と」
「そういうことだ」
宗一郎は知っている。
史実では、この足利義昭と織田信長の関係は長く続かない。
だが、この世界では既にいくつもの歯車が変わっている。
だからこそ、未来を知っている宗一郎にも先が読めない。
「……だからこそ、備える」
宗一郎はそう呟いた。




