8話 魔王が集いし、監獄
雪村とマリンは監獄内で王国聖騎士トルネルに遭遇し、逃げていた。
トルネルは俺達の後ろから何度も鉄球を投げつけてくる。正直、ウザくなってきた。
「ユキムラさん。私、もう、無理かもしれません……」
マリンは体力の限界が来たようでヘナヘナになってしまっていた。
まあ俺もあまり体力に自信があるというわけではないが。
「お前ら逃げてばかりじゃな。さて、ここはひとつ俺の力を開放してやろう」
トルネルは急に足を止めて、その場に立ち尽くす。
俺はトルネルを警戒しながら距離を置く。
「見よ! これが俺の力『回転』!」
トルネルが叫んだ瞬間、急に視界がぐらっと傾いた。
いや何というか、なぜか壁に叩きつけられた?
俺達は勢いよく壁へとぶつかった。
どういうことだ。さっきまで床だった場所が壁に?
俺は壁にぶつかった勢いで上手く立ち上がれずにいた。
「マリン。大丈夫か!」
「う……」
マリンはどうやら気絶してしまったようだ。
いや、これはまずいだろ。どうすれば……。
俺はすぐにマリンを抱きかかえた。
「見たか! 侵入者どもよ! これが俺の最強スキル『回転』の力よ! そのまま回転し続けろ!」
ヤバい、また奴の攻撃が来る。何かこのスキルの対策が出来れば……。
そうしているうちにもまたしても壁の方に押し付けられそうになり、マリンを振り落としてしまった。
マリンは壁に打ち付けられ、赤い血がだらっと頭から流れた。
俺も頭を打ち付けられ、今にも意識が朦朧としてきた。
「さあ、お前たちはもう、ここで終わりじゃ!」
俺とマリンが立ち上がれないところをトルネルは執拗に鉄球を投げつけてきた。
や、ヤバい、これ、本当に、死ぬ奴じゃ……。
俺は鉄球で腹を貫かれてしまう。
その瞬間、俺の腹から大量の血が噴き出していく。
まずい、まずい、まずい。これは、死ぬ……。
俺は赤く染まった腹を手で押さえつけた。そして赤く染まった手を睨みつけた。
明らかにこの量の血は無事じゃすまない。俺はこんなところで死ぬのか。異世界に来てこんなにもあっけなく死ぬのか。俺はまた死ぬのか。俺は何もできずに死ぬのか。俺は助けることができずに死ぬのか。
それだけは、嫌だ……。
俺の意思に答えるかの如く、全身に黒い靄がかかる。
黒い靄の中で誰か人影が見えた。金髪で大人びた女性、黒いドレスを身にまとっていて、顔が見えない。
《助けてやろうか、少年》
俺はわけがわからず聞き返してみた。
《誰だ、お前は……》
《私は、漆黒の魔王ブリューメル。この世界の最古の魔王》
《最古の魔王が俺に一体何の用なんだ?》
《なんの用って、それは君を助けに来たんだよ》
《助けに来たって? お前、あいつに勝てるのか?》
《ああ。勝てるとも。その者は『回転』といったか? そんな弱いスキルじゃ、私には到底及ばないよ》
《じゃあ、お願いだ。この状況をどうにか打開する方法を教えてくれ!》
《いいよ。ただし、私が直接手を下すことはできない。あの者を倒すのは君自身さ。そう、私のスキルをしばらく君に預けるよ》
《スキル? 漆黒の魔王っていうぐらいだから、漆黒の力なのか?》
《漆黒は今の君では扱うのが難しい。だから、漆黒の下位互換である『暗黒』の力を授けよう》
《それは助かる》
《ただし、この戦いが終わったら、私の頼みを聞いてもらうぞ》
《ああ。良いだろう》
《おや、何を手伝ってもらうか聞いていないのに。君はお人好し、なのかな?》
《うっさい! 誰がお人好しだ!》
《ははは。気に入った。ならば今こそ『暗黒』の力を授けよう!》
俺は漆黒の魔王との会話を終えるとそれと同時に黒い靄も消え、視界がクリアになっていく。
今のは一体、なんだったのか。
しかしさっきまでなかった力が全身をめぐっているような……。
それにさっきえぐられた腹も治ってる?
漆黒の魔王は確か、俺に『暗黒』の力を与えたって言ったよな。
どうやって出すんだろうか。
「むむ? さっきと雰囲気が変わったか?」
トルネルは首を傾げて、俺に聞いてきた。
「まあ、少しだけな」
俺もなんとなくそれっぽいこと言ってみた。
「まあー。少し変わったくらいで俺のスキルは対処できないが、な!」
地面がまた回転しようとした。
ええい、ままよ!が如く俺は手を突き出した。
「『暗黒』」
俺の手から黒い靄が噴き出し、トルネルの方へと向かっていく。
黒い靄はトルネルに絡みつくと、全身を締め付けた。
「ぐふふ……」
トルネルは何が起きたか分からず、混乱しているようだった。
これが俺が今放ったスキルなんだよな。
この黒い靄ってなんだか、さっきの漆黒の魔王が放っていたものと、似ているような……。
ああ、これ以上はいいよ。
俺はトルネルが潰されていくのを見てもいられず、すぐにスキルを解除した。
「ぜははははは。ななんじゃ。お前は、それにその仮面、よく見たら、メスィの使いじゃないか! 分が悪いのう。今回はこの辺にしてやる!」
トルネルは負け惜しみごとく、ぷんぷんと言い放ってそのままどこかへ去っていった。
何とか助かったみたいだな。それよりもマリンは無事なのか?
俺はすぐにマリンの元に駆け寄る。
マリンはどうやら気絶したみたいで、まだ意識はあるみたいだ。
こういう時にレオナがいてくれたら、回復してもらえるはずなんだけど。
「お困りのようじゃな。メスィの使い!」
そんな風な少女の声がした。
俺は声のする方を見てみると、赤髪の少女、それと金髪の少女レオナがいた。
レオナは俺の方を見て首を傾げる。
「これ、私が蒐集していたメスィの仮面にそっくりですね」
「え、そなの?」
「ええ。しかし、なんでこんなところに……」
レオナの手が俺の被っている仮面に近づく。
その瞬間、ガシャと音が鳴った。
「レオナ、俺だよ。雪村」
「え! 雪村さん!? あ、思い出しました! 私雪村さんを探すためにフロレア様と一緒に監獄で探していました」
レオナはどうやら俺のことをすっかり忘れてしまっていたらしい。やはり、このメスィの仮面は危険、だということか。そう思いたい。
「レオナ。それよりもこのマリンって子を助けてほしい。お前って治癒魔法使えるよな」
「うん、使えるけど」
レオナはマリンに近づき治癒魔法を施した。
マリンの目がぱっちり開く。
「え! レオナ様!」
マリンは目を開けた瞬間、すぐに驚いた。
「ふふ。驚かせちゃった?」
「いえいえ。レオナ様、その、またしてもありがとうございます!」
「いいのよ。それにしてもひさしぶりね」
「ええ! お、おかげちゃまでふ」
マリンは凄く動揺した様子で、放している最中に舌を噛んでしまったようだ。
「レオナ、それよりもお前の方は無事、だったみたいだな」
「ええ。まあ、私はいざというときの奥の手があるというか?」
「じゃあ、崖から落ちた時に、それ俺にも使ってくれないですか?」
「ええ。ちょっと恥ずかしいから、め、ね!」
レオナは少しもじもじしながらそう言った。
「おほん。それでお主らのよくもわからぬ話を聞かされてる妾は、放置プレイ、か」
赤髪の少女は少し苦笑いしながらそう言った。
「いや、悪いって。しかしお前、小さいのにこんなところにいて、すごいな!」
「小さいじゃと……」
あれ? 何か怒らせちゃった?
赤髪の少女の手から無数の荊が飛び出て、俺の方に巻き付いてきた。
「やっとまともに妾の話を聞いてくれそうじゃな」
赤髪の少女はなぜか笑いながら怒っていた。
「あの、レオナさん。この子、どちら様?」
「えっとね、この方は、魔王フロレア様」
レオナは淡々と赤髪の少女の正体を明かしてくれた。
魔王って、マジで……。
「レオナちゃん、紹介ありがと。妾こそが、いかにも、この世界でただ一人生き残った魔王の一角、薔薇の魔王フロレア―ルである。お主、妾の攻撃に耐えるとは中々、骨がありそうじゃな」
「魔王ですか……。そですか」
俺の目の前に現れた少女は魔王だった。




