7話 亜人の少女
俺とスレンは監獄で金髪の少女を探しに奥へと進んでいくが、途中でゴーレムの群れを見つけた。
「なんでここゴーレムが多いんだ?」
「私もよく分からないんだ。それよりもゴーレムの攻撃が来るよ」
スレンの警告と共に、ゴーレムはこちらを認識したらしく、大岩を投げてくる。
俺とスレンは何とかゴーレムの攻撃を避けていく。
ここのゴーレムは投擲での攻撃手段が多いみたいだ。
「なあ、スレン。お前、聖騎士長だろ、何とかなんねーのか?」
「んー」
スレンは何やら考え込んでいた。
「どうした? スレン?」
「とりあえず逃げようか」
「は? あんな巨体の奴らからどう逃げるんだよ。俺、さっきあいつらと戦ったんだけど、まともに逃げることができなかったんだぞ」
「そうか。なら仕方ないか」
スレンは腰にぶら下がる剣を抜く。
剣からは不思議な光を放つ。
「メスィの使いよ。私から少し、離れてくれ」
「ああ。何か攻撃の手段が見つかったのか」
「……そうだね。私に使えると良いんだが」
スレンはどこか緊張した様子で剣を構えていた。そしてなぜだか全身ぶるぶると震わせている。
武者ぶるいってやつなのか? まあ、聖騎士長っていうくらいだから、それなりに実力者ではあるだろう。とりあえずこいつを信じるか。
「ゴーレムよ。すまない。『聖剣ユグドラシル』」
スレンが持つ剣がまばゆい光を放ちあたりの視界を奪っていく。
眩しい過ぎて何も見えない……。これが、聖騎士長の力なのか。
「くしゅん」
スレンは技を繰り出す瞬間なぜかくしゃみをした。
その瞬間、剣からの光が収まった。
「は? スレン、お前……」
剣の光が収まった事よりも俺は別のことに驚いていた。
「は、くしゅん、くしゅん」
「えっと、スレン、さん? どうしたんですか、その頭のやつ」
俺はスレンの頭を指して聞いてみた。
スレンの頭には、なぜか獣耳がついていたのだ。
「え、え、え、え……」
スレンは物凄く動揺していた。
「あ、あの、その、ご、ごめんなさい!」
スレンはそういうと全身に煙幕が吹きあがった。
煙幕が消えると、そこには獣耳の亜人少女がいた。
亜人の少女は半泣きでこちらを見ていた。
いや、驚いている暇なんてない。それよりもあのゴーレムからどうにか逃げるしかない。
俺は亜人の少女の手を引き、ゴーレムから逃げた。
数分くらい走ったところで何とかゴーレムを巻くことができたみたいだ。だが、ゴーレムがいつ来るか分からないから、油断はできない。
さて、この亜人少女のことなんだが、どういうことなのだろうか。
「ぐすん、ぐすん。ごめんなさい。別に、あなたを騙すつもりはなかったんです。本当、なんですぅううううう」
「いや、ちょっと落ち着いてくれません。マジで」
俺は亜人少女をなだめるように言った。それもなぜか敬語口調になってはいた。
しばらくして亜人少女は泣き止んだ。
「本当に、騙す気はなかったのです」
「ああ、別にいいよ、そんなこと。それよりもお前はスレンじゃないんだろ」
「はい。私、マリンって言います。普段はスレン様の元でお仕事をしているのですが、今は緊急事態でスレン様のふりをしていました」
「なんだ、そういうことか。それで本物はどこにいるんだ?」
「スレン様は今、シルフ王国で王女様の謁見に行っておりまして」
「シルフ王国ってのは、ハイラー王国の確か隣国の地だったっけ?」
「はい。訳あって今、そちらに向かっておりまして。そのため私が代わりに監獄の方に行くようにお願いされてしまって」
「なるほど。それでお前は何で監獄にいるんだ?」
「えっと監獄に行ったという事実だけで良かったんです」
「はあ、それはスレンの命令でということか」
「ええ。そういうことでして。あ、でも、これ以上のことは言えません」
「いや、良いんだ。それよりもまあ、俺もごめん。本当はメスィの使いじゃ、ないんだ」
「え? だってその仮面はメスィ様が作られたものですよ」
「まあ、仮面は俺が今探している少女から借りたもので、まあ、俺の正体がバレると困るからつけているわけで」
「そうだったんですね」
「ああ。俺の本当の名前は、雪村」
「えっと、名前を私に言っちゃっていいのですか?」
「まあ、いいよ、この際。ここまで一緒に監獄に来てくれたわけだし」
「ユキムラさんは、今、王国のお尋ね者、なんですよね」
「まあ、そういうところなんだが。このことは王国に報告しないでもらえると助かる」
「私報告しませんよ。だってユキムラさんは私を助けてくれたから。恩人にそんなことはできません」
「恩人だなんて。まあそんな大それたことはしていないんだがな。それでマリンはこれからどうするんだ?」
「私はその、ユキムラさんの引き続き手伝いをさせてください。安心してください。今度こそ、足手まといにはなりませんから。それに私なら役に立てると思うのですが」
「そうか。なら、お願いしようかな。それでマリンはどういうスキルがつかえるんだ? まあさっきの感じだと容姿を変える的なそんなスキルのように見えたのだが」
「ええ。その認識であっています。あとは変身した人が持つスキルを使えたりもします」
変身した者のスキルがつかえるだと。こいつもしかして最強じゃないか?
「そうか。それは頼もしい」
「まあ、でも私はまだ半分くらいしか力は出せませんけど。よくスレン様のスキルを使おうとすると失敗して変身が解けちゃったりもするので」
「それはスレンの力が強すぎるからということか」
「そうかもしれません。あと私のスキルは本人がいる前では変身できなかったりします」
「なるほど、よくわかった。それで俺が探している少女の容姿とかにも変身できるのか?」
「できると思います。まあ、名前を言ってくださったらすぐ変身できます」
「名前か。そのここを出てから他の人に公言しないなら、言えるけど」
「分かりました。その約束は守ります」
「じゃあ、今から言うぞ」
俺は探している少女のレオナと伝えた。
マリンは一瞬、驚いた様子で聞き、それからすぐ頷いた。
「わ、分かりました。『模倣』」
マリンはそう言うと、金髪の少女に変身した。だが、すぐに元の姿に戻ってしまう。
「これ以上は恐れ多いので、ダメです」
「ああ、ごめん」
「それよりもユキムラさん、レオナ様と知り合いだったのですか」
「まあ、そういうこと」
「でもすごいです。レオナ様と知り合いだなんて」
「そんなにすごいのか?」
「ええ。だってレオナ様はこの王国の次期女王候補の一人なのですから」
「は?」
俺は驚きのあまり思わず声を漏らした。
あんな屋敷を持っている金持ちだからそれなりの身分だと思ったんだけどそれなりの身分だとは思わなかった。
あいつ王女なのかよ。
俺がレオナの真実を聞いてしまい、驚いている間に、何者かが近づいて来ようとしていた。
それは全身鎧の男だった。
「おやー。そこに誰かいるのかー」
鎧男はそう言い放つと、なぜか鉄球を投げつけてきた。
鉄球は迷いもなく轟音を鳴らしながらこちらへと向かってきた。
「は? あいつ、なんだよ……」
俺は絶句した。あんなの避けるの無理だろ……。
「ユキムラさん!」
マリンが俺の背中を押し、間一髪のところで鉄球を避けた。
俺を押したマリンの方もなんとか無事だったみたいだ。
俺を助けた後ですぐに鉄球を避ける手立てがあったのだろう。
鉄球は壁にぶつかり大きなヒビを入れると、再び鎧男の元へと戻る。
どうやら鉄球は鎖で繋がっていたみたいだ。
鎧男は納得がいかずにいた。
「はあ、一発目は失敗か、俺の力も鈍ったな。おい! そこの人間、名を名乗れ!」
「名を名乗るのはお前の方だろ!」
俺は鎧男に言い返してみた。
鎧男は落ち着いた様子で受け答える。
「ふむ。確かにそれが道理じゃな。俺の名はトルネル。王国聖騎士の一人。侵入者のお前らをここで拘束させていただく! ただし無事で済むと思うなよぉ」
「そうかよ! 俺達を捕まえてみろよ! 全身魔球男がよ!」
俺は再びマリンの手を握り、監獄内を逃げ回ることにした。




