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連鎖2

 そのゴシップ中毒者は、目の前の光景に仮説を立てていた。

 「まあ、大人しくしておきなよ。公爵閣下の大事な外交の舞台なんだ」

 「あれがか?」

 まあ、間違いなく公爵の意思があるのは明らかだ。


 「流石に公爵でもフェロンに唾をつけるとは思えないが……」

 「勿論その通り」

 叙勲騎士と言えば、極端な話王家の私兵のようなものだ。

 幾ら国内有数の有力貴族であるレイノース公爵と言えど、それに対するヘッドハンティングは自らの首を危うくするだろう。

 ただでさえ、能力持ちの冒険者を抱えると言えば王家は神経質にならざるを得ないのだ。

 常人を上回る能力者たちは、優秀な者をいくら囲い込んだかが、そのまま保有戦力に直結すると言っても過言ではない。

 つまり有力貴族が冒険者を私兵にしているとなれば、それだけで軍備増強と同義となる。


 当然、王家にとってまず考えるのは謀反だろう。

 そもそも、ギルドの設立の経緯からして「能力者の管理と私兵化の防止」なのだ。


 ではその疑いを向けられないためにはどうすればいいのか――その答えは既に公爵自身が示している。即ちただのパトロンだ。

 その実態が自身の私兵だとしても、あくまで冒険者の所属はギルドであり、その活動を支援しているだけという体裁が必要なのだ。


 「あれはむしろその逆」

 「逆?」

 オウム返しの俺に、奴は取り巻き連中を満更でもない様子で潜り抜けて奥へと進んでいく堂上一行から目を離さずに続ける。

 「簡単に言えばご機嫌伺いさ。自分の息のかかった冒険者を近づけ、叙勲騎士様のご機嫌をとって王家にとりなしてもらいたい。冒険者を支援する名士を気取っている以上、疑惑の芽は摘んでおかなきゃならん――」

 人差し指をくいくいと動かして、一行に同行して奥へと消えていくアメリアの背を指すハジェス。

 「――あれはさしずめその接待役と、我らが若き英雄ドーガミ・シューヤとそのお友達が余計なことを言わないようにするお目付け役だろう。まあ、恐らくドーガミに気付かれないように上手い事進行役をやっているのだろうが」

 「成程な」

 解説を聞いて改めて連中の方に目を向けるが、既に野次馬たちの背中以外には何も見えなくなっていた。


 「大変なものだ」

 漏らした感想は、アメリアに対してのものだった。

 随分面倒な仕事を任されたものだ。仮に俺があいつの立場なら、一刻も早く切り上げてしまいたいところだろう。

 ――だがなんとなく、彼女なら如才なくその辺も切り抜けられるだろうとも思えた。飄々と、何事もないかのように自身の立場と求められる振る舞いを即座に理解してその通りに振舞えるという、妙な確信があった。


 その時、もう一度わっと野次馬たちが沸き立った。

 「戻ってきたか」

 奥に何があったのかは知らないが、どうやら再び羨望の眼差しを浴びることにしたらしい。

 連中の姿は相変わらず野次馬の背中によって隠されているが、その背中の向こうから聞こえてくる騒ぎが、そこに確かに奴らがいることを表している。


 まるでそれを楽しむように含み笑いを浮かべながら発せられたハジェスの声は、特別大きくなくともその混乱の中でしっかりと耳に届いた。

 「裏口使うか?」

 「ああ。済まない」

 流石にあの騒ぎの中を通って出ていくのは難しい。

 ただでさえ野次馬をかき分けて行かないとならないのに加えて、その野次馬共から厄介者扱いされている上、騒ぎの中心にいる者とは因縁浅からぬ仲だ。


 顎で掲示板の脇に設けられた古い扉を指示しながら、ハジェスが立ち上がって先導する。

 「一応職員用ってことになっているからな……」

 そう言って扉を奥に開けると、長年使われていない部屋に独特のかび臭いような空気が部屋の熱気に混じった。

 「依頼の件はしっかり調べておくよ」

 「ああ。頼む」

 「いつか、あんたも表から胸張って出られるといいな。多分、お探しの相手もそれをお望みだ」

 軽口めいた、冗談めかした口調。

 だから俺も努めて同じようなそれで返す。

 「そうだな。親父さんにもそう言われたよ」

 お前はただその方がスキャンダルの種になるからだろ――その言葉を何とか飲み込んで。


 ハジェス=情報屋にして強請屋。黙るよりチクる方が価値があると思えば躊躇しない男。

 その男と付き合っている以上、いずれどこかしらで安全策を講じる必要がある。こいつの言う通り胸を張って表から出られるようになった時には。


 「じゃ、よろしく」

 「任せておけよ」

 ギルドの裏から外に出る。

 しばらくの間、奴にとって美味い飯の種になることはないだろう。

 漏れ聞こえてくる室内の騒ぎに背を向けながら、そんな事を思っていた。




 「やあ護衛さん。今回もよろしく」

 その俺にとって目下一番の飯の種である人物の依頼を受けることになったのは、それから一か月ほどたった頃だった。


 「確認しておくよ。ここから北東に進んだ先にあるパノアの町で取引がある。町との往復と、町の中及び取引中の護衛。以上があなたの役割となる」

 「ああ。分かっている」

 そう語るジェルメの装備はいつものリュックと、ベルトに吊ったポーチ、それに作業用だろう短剣だけ。ごく普通の旅人の姿だ。

 今回もぴったりと彼女についているシラも、ポーチと胸嚢の他には護身用だろう警棒を一振り腰に提げている。

 いつもの荷馬車は今回はない。ジェルメの言うように、今回は純粋に取引、即ちナヅキ虫の取引だけなのだろう。


(つづく)

投稿遅くなりまして申し訳ございません

今日はここまで。続きは次回に。

なお次回は本日19時~20時頃の投稿を予定しております

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