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The Chess  作者: 今日のジャム
Ⅲ 約束の子
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Ⅲ約束の子 2. 騎士の町1

 ロッドとプロミーは翌朝教会へ寄った後、オリシスを出立した。そして昼過ぎに、フロム領カーレインに到着した。町は多種多様な旅人で溢れ、祝祭の熱気に溢れていた。


 辺りは遍歴の騎士たちが行き交い、従者が軽快に煌びやかな馬具で飾った馬を先導していった。


「アホイ、アホイ、チェック!」


 ロッドとプロミーが人ごみの中を歩いていると、どこからか小さな変わった声がした。


「やぁ、ロッド!」


 槍の先に荷物を掛けて肩に軽く担ぐ遍歴の騎士が、街の道端で旧友に声を掛けるように、ロッドを呼び止めた。騎士は、金の髪の上に大きな丸い白帽子を被り、赤毛の愛馬と共に旅をしている様子だった。肩越しの荷物の上に、先ほどの変わった声の主がいた。声の主はリスだった。


 しかしロッドはこの騎士を知らなかった。ロッドは西大陸の騎士の世界で顔が知られている。どこかの馬上試合で一緒に戦った相手かと思った。しかしロッドはそれをすべて覚えているわけでもない。


「私たちは良きライバル、だろう?」


 騎士は切れ長の瞳に挑戦の色を見せた。


「……申し訳ないが、私は貴公を知らない」


 ロッドは見知らぬ者からの誘いを解くように答えた。通り過ぎようとしたロッドを騎士は再び止めた。


「そうか、私が分からないか。まぁ、いいさ。それではアリスさんにも自己紹介しよう。私の名は、ウェイ・グリンスリー。赤の城の騎士だ。チェスではナイトを任された。明日の馬上試合にも参加する」


 騎士は銀のクロスを服の内から取り出してロッドに見せた。石が赤く輝いていた。ロッドは得心した。ウェイはプロミーに顔を向けた。


「初めましてアリス。チェスがお得意だとか。私も強いのだが、この町で今から一戦願えますか?」


 プロミーは困惑した様子でロッドの方を見た。再びウェイのリスが「アホイ、アホイ、チェック!」と鳴いた。その時ロッドを呼ぶ者があった。


「お久しぶりですね、ロッド。こちらはアリスさんですね」


 青年の騎士は若い騎士たちの群れの中からロッドとプロミーの方へ歩いて来た。ロッドは聞き慣れた声に明るく挨拶を返した。


「前回の祝祭の馬上試合ぶりだな。ウォールナット」


 騎士見習いの従者として旅立つ前の小姓の時代、同じ騎士の元で修業をしていた仲間だった。ウォールナットと今まで一緒にいた二人の騎士たちがロッドの周りに集まった。二人はロッドとは祝祭などで顔見知りだった。ウォールナットが初見の人たちに紹介した。


「初めまして、グリンスリー卿にアリスさん。私はウォールナットです。スナップドラゴン王家の騎士です。こちらがウェンゲで、こちらの女性がメープル。団体馬上試合では、僕とウェンゲが白に、メープルが赤に参加するそうです。……あれはメルローズ卿ではありませんか?」


 ウォールナットは紹介の途中で、この町に足を踏み入れたばかりの女騎士とその従者に視線を送った。女騎士の姿は逞しく、黒い髪が背を覆い、その背に背負う大きな戦斧が鈍い光を放っていた。


 女騎士は一行の中に顔の広い騎士ウォールナットと、ロッドがいることを認めると、そばに寄って来た。


「メルローズ卿、あなたもカーレインにいらしたのですね」


 ウォールナットが新たに訪れた女騎士に挨拶をした。女騎士にはプロミーと同じくらいの年齢の少女の従者が付き従っていた。女騎士は頷いた。


「私も馬上試合を見に来た。初めまして、白の騎士ロッドとプロミー。ウェイは先に来ていたようだな。私は赤のナイトを仰せつかったメルローズ。こちらの従者は騎士見習いのガーネット」


 女騎士は爽やかにそう言うと、首に提げたクロスをロッドに示した。クロスには赤石が嵌め込まれていた。


 ウォールナットが尋ねた。


「あなたは馬上試合はどうされるんですか、メルローズ卿?」


 女騎士は答えた。


「私は団体馬上試合には参加しないつもりだ。紅白のうち紅だけ二名の参加では公平ではない」


「さすが、メルローズさまぁ!」


 メルローズの従者ガーネットが跳ねるように言った。


「ところで、私たちは教会に行きますが、ロッドもご一緒にどうですか?」


 ウォールナットがロッドを誘った。そこでその場にいたウェイが提案した。


「その間、町の店で私はアリスとチェスの一戦をしたい。どうだろう?」


 プロミーは戸惑って再び確認するようにロッドを仰ぎ見た。


「私はいいのですが……」


「それなら私たちも一緒に行こう」


 メルローズが爽やかに笑いながら言った。プロミーの責任を請け負う、というように。ロッドはプロミーと同じ年頃の従者がいるメルローズに任せるのは良いことのように思った。


「では、少しの間、待っていてくれ、プロミー」

「はい、ロッド様」


 プロミーは素直に頷いた。

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