第1章-11 ガイドさんがぐいぐいくる
なんとなく意味深な69ページから見てみようとした時に謎の声が聞こえて思わず突っ込んだ。
「どちら様……でしょう?」
【右手をご覧下さい】
よく分からないが右手を見てみた。
いつも通りの自分の右手がある。爪が少し伸びてきたかな。
【……右側をご覧下さい】
なんだ、そっちか。
よくバスガイドさんとかが言うやつね、はいはい。
「……いや、誰?」
右側を見ると、いつの間にか見知らぬ女性が立っていた。夜にそれやられると怖いんですけど。
でもすごく美人な人だった。だからこそ急に現れると怖かったとも言える。
ピンク髪で二の腕くらいまでのサイドポニーはフワフワしていて、羽毛さんほどでは無いかもだけど輝くほど綺麗な髪が印象的。
服はキャビンアテンダントさんのようでありつつ、腕や脚の露出は多めで目のやり場に困りそうな感じだ。
身長は女子バレーボール日本代表選手の平均くらいだろうか?
スラッとしたスタイルに目鼻立ちも整ったガイドさんは、パリ・コレクション参加者の常連だと言われても信じてしまいそうだ。
ただ左肩の上に手の平サイズくらいの変わったぬいぐるみがあるのが気になる。
「初めまして。異世界のガイド役を任されました、$#@&!◆と申します」
「なんて?」
名前のところだけ早回ししたかのように聞き取れなかった。あえて再現するとしたら『エリュヒポル』を複数人で同時に叫んだみたいな感じかな。
「あら、翻訳がうまくいかなかったでしょうか。$#@&!◆です」
「言い直されてもよくわかりませんが」
「なるほど、翻訳に該当する単語がないのですね。
それでは、朝陽様が呼びやすいように名付けてくださいますか」
翻訳に該当する単語がないってどういう意味なのだろう。
「どうして僕の名前を知っているんですか?」
「わかりました。『どうして僕の名前を知っているんですか』、という名前ですね」
「何もわかってない!?」
「冗談です。名前を知っているのは名簿を持つガイドなら当然だからですよ」
それは説明になっていない気がするし、目は冗談ではなく本気だったと思う。名簿って何だろう。
「では、名付けを。どうぞ私めの名前をお決めください。さぁどうぞ、お好きなお名前を」
「ぐいぐいくるね!?」
「ぐいぐいくるねという名前ですね。では縮めてクルネとお呼びください」
「今のも名前じゃなかったんだけど、気に入ったならまぁ……」
響きが気に入ったのか、んーと少し吟味した後に笑顔でそう言うのでよしとしよう。
「改めまして、朝陽様……いえ、アーサー様の異世界ガイド役を仰せつかりましたクルネと申します」
「はぃ……まぁいいや。それで、クルネ……さんの言うガイドっていうのは?」
「どうぞクルネとお呼び下さい。
アーサー様をこちらの世界へお連れしたお方が、軟弱そうなアーサー様お一人だとすぐ死んでしま……何かとお困りだろうと仰いまして、私をガイド役として派遣されました」
「なんか途中気になる単語が聞こえた気がするけど、じゃあクルネさん……じゃなくてクルネは羽毛さんに言われてここに?」
「羽毛さん……?」
「ほら、上司の悪口言ったり世間を呪ってそうな残念美人の」
「あぁ、羽毛さん(笑)とお呼びしているのですね。その方で間違いありません」
自分で言っておいてあれだが、今の説明で伝わるのってどうよ。
残念な羽毛さんだ。ちょっと笑われたし。
「羽毛さんはなにしてる人なの?」
「羽毛様は上司のお方から無理難題を言いつけられ時々下界でやけ酒をしつつ愚痴を……えぇと、つまり管理職です」
「中盤で色々と駄々漏れですな」
管理職って人間じゃなくても病むとあんな感じになるんだなぁ。
「羽毛さんのことはひとまず置いといて、このツアー本について知ってることを教えてくれない?」
「もちろんです。アーサー様のいた世界風に言うのであれば、それはアーサー様のスキル。いわゆる才能のようなものです」
「才能? でも、ツアー本は羽毛さんがくれたんだけど」
将来は旅行会社に勤めたほうがいいということだろうか。
「羽毛様は相手が有している能力を察知することができるのです(それで管理職をさせられているのですが)」
なんか今さらっと悲しい言葉が聞こえたような。
「アーサー様の能力を見抜かれた羽毛様が、その才能を引き出すことに適した道具をアーサー様に与えられました。それがツアー本であり、私です」
「その……私というのは?」
そう言うと、クルネはニコっと微笑んだ。
「ツアーにはガイドが付き物でしょう?」
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