差し出された「役目」
研究発表から数日後、俺は学院長室に呼ばれた。
理由は、分かっている。
扉の前に立った瞬間、魔力の気配が多い。
教師だけじゃない。外部の人間がいる。
ノックをして中に入ると、学院長の他に三人。
魔法庁の徽章をつけた研究官と、王族派の文官、それから――王子。
「久しぶりだね、レオン」
柔らかな声。
でも、目は完全に“仕事”のそれだった。
簡単な挨拶のあと、本題に入る。
「君の研究構築を、実地で試したい」
魔法庁の研究官が言う。
「前線補助想定の模擬演習だ。危険はない」
“危険はない”。
その言葉が、逆に引っかかった。
学院長は黙っている。
つまり、判断は俺に委ねられている。
「……条件があります」
俺は、そう切り出した。
部屋の空気が、わずかに変わる。
「第一に、学院外に出ないこと」
「第二に、俺の構築を改変・提出しないこと」
「第三に――」
一瞬、言葉を選ぶ。
「同行者を、一人つけさせてください」
王子が、わずかに眉を上げた。
「同行者?」
「俺が、信頼している相手です」
すぐに名前は出さなかったけど、誰のことかは明白だった。
短い沈黙のあと、王子が笑った。
「いいだろう」
「君は、交渉も覚えたようだ」
そうして、条件付きでの試験的依頼が決まった。
部屋を出ると、廊下でアルトが待っていた。
「……どうだった」
少し不安そう。
「依頼、受ける」
そう言うと、アルトの耳が下がる。
「でも」
続ける。
「アルトも、一緒」
一瞬、きょとんとした顔をしてから、理解したらしい。
「……ぼく?」
「うん」
「断られるかと思った」
「俺が、断らない」
その言葉に、アルトは何度も瞬きをしてから、にへっと笑った。
「じゃあ、がんばる」
ぽのぼのした返事なのに、胸の奥が温かくなる。
模擬演習は、学院の結界区域内で行われた。
想定は「魔力消耗状態での防衛戦」。
俺の役目は、後方からの補助維持。
アルトは、前衛側の連携確認。
正直、アルトは目立つタイプじゃない。
でも、隣にいると分かる。
視野が広い。判断が早い。
俺の補助が最大効率で回る位置に、自然と動く。
「……噛み合ってるな」
研究官が呟いた。
結果は、予想以上だった。
補助魔法は最後まで崩れず、前衛の消耗も最小限。
演習終了後、評価は高かった。
だが――
「正式採用は、保留だ」
王族派の文官が言う。
「理由は?」
「君が、従順すぎない」
空気が、冷える。
俺は、静かに答えた。
「それが、欠点なら」
「俺は、王族向きじゃありません」
一瞬、場が凍った。
でも、王子が笑った。
「だからこそ、価値がある」
そう言って、その場を締めた。
帰り道。
アルトが、ぽつりと言う。
「れおん……こわくなかった?」
「少し」
正直に答える。
「でも、アルトがいたから、大丈夫だった」
その言葉に、アルトは耳まで赤くした。
「……そば、いる」
「ずっと」
その“ずっと”が、どういう意味か。
まだ、二人とも正確には分かっていない。
でも。
この日、俺は知った。
守られるだけの存在じゃない。
利用されるだけの人族でもない。
選んで、立つ場所を決められる。
その隣に、アルトがいる未来を――
少しだけ、はっきり想像できるようになった。




