仕組まれた失点
学院に慣れ始めた頃ほど、足元は狙われやすい。
それを、俺はこの日、身をもって知った。
中間評価が近づき、授業の空気が張り詰めていた。成績はそのまま、家の評価と将来に繋がる。誰もが必死になる時期だ。
「次の実技、班でやるらしい」
昼食の席で、アルトが言った。
「共同構築?」
「たぶん」
それを聞いた瞬間、胸の奥で小さな警鐘が鳴った。
――一人じゃない、ということは。
嫌な予感は、当たる。
実技当日、班分けが発表された。
俺の班には、あの金色の耳の少年――カイルがいた。
そしてもう一人、名前も知らない上級貴族の子。
「課題は、防御結界の構築」
教師が説明する。
「三人で役割分担し、制限時間内に完成させろ」
班ごとに、陣の前に立つ。
「レオンは、制御だな」
カイルが言った。
命令口調ではないが、有無を言わせない雰囲気。
「……わかった」
俺は頷いた。
制御は得意だ。問題ない。
魔力を流し、結界の形を安定させる。
魔力を流し、結界の形を安定させる。
順調だった。
――途中までは。
突然、魔法陣の一部が歪んだ。
「なっ……!」
魔力の流れが乱れる。誰かが、量を無理に流し込んだ。
「止めろ!」
叫ぶが、間に合わない。
結界が弾け、失敗。
教師の笛が鳴る。
「中断!」
沈黙。
「……制御が甘いな」
教師の言葉が、胸に刺さる。
「え?」
思わず声が漏れた。
「今の歪みは――」
言いかけて、止まる。
言い訳に聞こえる。
周囲の視線が冷たい。
「人族には、やはり無理だったか」
誰かが、囁いた。
評価は、最低点に近かった。
教室を出るとき、足が少し震えた。
悔しさより、虚しさが先に来る。
「……れおん」
アルトが待っていた。
「だいじょうぶじゃない、だろ」
その一言で、堪えていたものが揺れる。
「……うん」
短く答えるのが精一杯だった。
その夜、公爵に報告が行った。
内容を聞いた瞬間、部屋の空気が変わる。
「歪みは、どの位置だ」
「……第三補助陣の内側」
「量の過剰流入だな」
即答だった。
「お前の制御では、起きない」
静かな断定。
「証拠は?」
「……ない」
そう言うと、公爵は少しだけ目を閉じた。
「分かった」
それだけ。
だが、その声は――怒っていた。
翌日。
学院内で、妙な噂が流れ始めた。
「共同実技の記録、再確認されるらしい」
「王子が口を出したって」
昼過ぎ、俺は呼び出された。
実技担当教師と、学院の監査官、そして――王子。
「君の班の実技について、確認が入った」
王子は淡々と言った。
「魔力記録結晶を再生する」
再生された映像には、はっきり映っていた。
俺が制御を維持している最中、別の方向から魔力が過剰に流し込まれる様子。
誰のものかも、一目で分かる。
カイルの魔力だった。
教室が、凍りつく。
「……説明しろ」
監査官の声。
カイルは、青ざめていた。
「そ、そんなつもりじゃ……」
「焦っただけで……」
言い訳は、途中で止められた。
「評価操作の試みと見なす」
淡々とした裁定。
減点、謹慎、家への正式通達。
派手な処罰ではない。
でも、貴族社会では十分すぎる“傷”だ。
王子は、最後に俺を見た。
「君は、黙っていた」
責める口調ではない。
「なぜ?」
「……言っても、信じられないと思いました」
正直に答えた。
王子は、少しだけ笑った。
「賢い」
そして、低く言う。
「だが、次は――我慢しすぎるな」
その言葉は、忠告だった。
帰宅後、公爵は何も言わず、俺を抱きしめた。
強く。
「……よく、耐えた」
それだけで、胸がいっぱいになる。
この世界は、不公平だ。
でも、全部が腐っているわけじゃない。
正しく見ようとする目も、ちゃんとある。
俺は、折れない。
もう、そう決めていた。




