静かな才能
魔法実技の授業は、学院でも特に緊張感がある。
座学と違い、魔力は隠せない。制御の癖、量、質――すべてが露わになる。
実技場は円形で、床一面に刻まれた魔法陣が淡く光っている。教師は三人。どれも王都でも名の知れた魔法士だった。
「今日は、基礎構築」
担当教師が言う。
「威力はいらん。正確さと安定だ」
ほっとする者と、つまらなさそうにする者が分かれる。
俺は、前者だった。
一人ずつ、順番に魔法陣を起動させる。
火球を出す者、風を操る者、水を凝縮させる者。派手な魔法ほど、周囲の視線を集める。
そして、失敗も多い。
魔力が暴れ、教師に止められる生徒もいた。
「次、レオン・フォン・ハインリヒ」
名前を呼ばれた瞬間、ざわめきが起きる。
「人族だ」
「魔力量、足りるのか?」
聞こえている。
でも、もう俯かなかった。
魔法陣の中央に立ち、深く息を吸う。
――流れを、感じろ。
量じゃない。
形だ。
俺が選んだのは、最も地味な魔法。
補助強化・微調整型。
身体能力を一時的に底上げする、ごく初歩の術式。
魔力を注ぐ。
暴れない。
溢れない。
ぴたりと、魔法陣に収まる。
光は弱い。
けれど、揺れがない。
教師の一人が、ふっと眉を上げた。
「……綺麗だな」
小さな呟き。
俺は、静かに一歩踏み出した。
床を踏む感覚が、少しだけ違う。力が増したというより、無駄が消えた感じだ。
「終了」
声がかかるまで、魔法は一切乱れなかった。
教室が、妙に静かになる。
教師たちが、短く視線を交わす。
「次」
何事もなかったように進む授業。
でも、空気は確実に変わっていた。
休憩時間。
「……さっきの」
金色の耳の少年――昨日、突っかかってきたライバルが近づいてきた。
「どうやった」
声音は、以前より低い。
「基礎通りに」
嘘じゃない。
でも、全部でもない。
「……人族のくせに」
言いかけて、言葉を飲み込む。
「……いや」
視線を逸らした。
完全な和解ではない。
でも、敵意の形が変わった。
それで十分だった。
放課後、再び呼び止められる。
今度は、教師だった。
「レオン」
「お前、誰に教わった?」
「独学と……家で、少し」
「公爵か」
否定しなかった。
教師は腕を組み、静かに言う。
「才能は、ある」
「前に出るな」
「だが、折れるな」
助言というより、忠告だった。
その夜。
公爵は、報告を聞いたあと、珍しく微笑んだ。
ほんの一瞬。
「……そうか」
それだけで、十分だった。
学院の窓から見える夜空は、屋敷よりずっと広い。
ここには、敵もいる。
偏見もある。
でも、ちゃんと見てくれる目もある。
俺は、この場所で育つ。
守られるだけじゃなく。
――立つために。




