第九十八話 白と言う存在
リビングにつき白の説明をしてもらう。
「白について言えば大方説明を受けているだろうが、簡単に説明しておく。
クトゥルフと敵対している軍隊だ。
色々あって世界中に散らばり身分を隠しながらクトゥルフを追っているがみんな知っての通り、
賀茂忠行と言う存在がクトゥルフを使役していることが判明し日ノ本に滞在している者が多い。
あと白には成人していない子共達、こいつらみたいな奴らがいてな。」
座ってお茶を啜っている二人の頭を乱暴に撫でる。
「ちょっ、こぼれるじゃん!!」
「日ノ本の環境は子供達を育てるには完璧と言えるほど整っている。
こいつらが進む道を強制するつもりはないが
自分の事は自分で守れるくらいになってもらわないといけないからな。
実力を高めてもらうために国學館に入れたってことだ。」
頭を撫でた手を振り払われた兼兄は元の席へと戻る。
まるで・・・本当の兄妹のようだ。そんな風に俺は思ってしまった。
「これが白と言う部隊が日ノ本にいる理由だ。アル、竜次、ノエル、ちー、ゆー。
この他にもまだまだ白は潜んでいる。
影ながら龍穂達を支えてくれているからこれからも頼ってやってくれ。」
今の兼兄の説明を受けた時、まるで業と同じような存在だと感じた。
身分を隠しながら世間に潜み俺達の戦いを補助してくれる存在。どちらも頼りになりそうだ。
「分かった。頼りにさせてもらう。」
「白の存在は賀茂忠行も認知している。
業以上に白は警戒されており、闇に紛れ殺されるリスクも当然高い。
お互い念密な連絡を取りながら戦うのが一番だと考えている。
千夏ちゃんと白との蟠りは一応解決したと言うことで仲良くやってほしい。」
「・・少しお伺いしてもよろしいですか?」
兼兄が俺達に説明を終えた後、千夏さんが口を開く。
まだ千夏さんの心の中に納得できない事柄があるのだろうか?
「・・・・何かな?」
「全てのお話しに納得はしています。なので尋ねる前に謝罪をさせていただきます。」
先程の一連の行動に千夏さんが大きく頭を下げる。
ちーさんゆーさん、兼兄はその謝罪に大丈夫だと答えた。
「ありがとうございます。
これはその・・蛇足になってしまうかもしれませんが
白という部隊の話しを詳しくお聞きしたいのです。」
千夏さんが言っている白と言う部隊の話し。
それはおそらく先ほど言っていた目的などではないのだろう。
「白の話しは事前に捷紀さんから少し伺っておりました。
世界中にあるクトゥルフ教団を破壊して回ったと。
皆さんのお年を考えると本当に世界中を回ったとは考えられないほどお若い。
本当にそんなことをしたのか。そしてどういった方法でしたのかお聞きしたいのです。」
白の成り立ちについて千夏さんは気になっているようだが
それは当然この場にいる俺達も気になっている。
白と言う部隊の歴史。アルさんやちーさん、ゆーさんが白に入った形なのか。
それともアルさん達が作り上げた部隊なのか。非常に気になる話だ。
「・・・・・・・・・・。」
千夏さんの問いを聞いた兼兄は黙り込む。
それはちーさんとゆーさんも同じであり何か事情を抱えているのは一目でわかる。
「・・難しいな。」
その問いには答えられない。兼兄の言葉は遠回しにそう言っているように聞こえた。
「言える事だけ言おう。
白と言う部隊は十数年前にできたばかりだ。歴史が長いわけでは無い。」
「という事は・・・その十数年でクトゥルフ教団を破壊して回ったという事ですか?」
兼兄は小さく頷く。
「俺が・・業に入る前、”白の長”を務めていた時だ。確かに俺達は世界各地の教団を破壊して回った。
奴本体を引き出すため、世界で暗躍している配下達を倒すために俺達は世界中を回った。」
業に入る前・・・あの人が業に入った時期を俺は知らない。
だが相当前から幼いちーさんとゆーさんを連れて世界を回っていたことになる。
「・・なぜそのようなことになったか。
そもそも白と言う部隊はどうしてできたか。教えていただくことは出来ますか?」
さらに踏み込む千夏さんだが、兼兄は横に振り、そこでストップがかかる。
「言えない。これ以上は俺だけの責任では発言できない。」
眼を瞑りながら悲しそうな表情を浮かべ席を立つ兼兄。
そしてちーさんとゆーさんの後ろまで歩き優しく肩を叩いた。
「気になるのは分かる。であればこそ、白の隊員との信頼を深めてほしい。
過去を語るのは白の隊員たち各々に判断を委ねてある。
もし彼らが話していいと判断できるほど龍穂達には深い信頼を築いてほしい。」
幼い彼らが何故世界を歩む決断をしたのか。かなりの事情があるようだ。
「兼兄が何度も言っているけど・・・仲良くしてくれると助かるな。
多分これからも共に戦っていく仲だしさ。」
ちーさんが改めて俺達との協力を仰いでくる。
「ええ、これからもよろしくお願いします。」
俺は深く頷き了承の証として手を差し出すとちーさんは固く握ってくれた。
「ふぅ・・・。ひとまず白との一件はこれでいいな。だがまだまだやることが山ほどある。」
千夏さんが入れてくれたコーヒーを飲み干したようでお代わりを入れ席に戻る。
「猛達が起こした事件についてはこれから調べる。
そして猛達の体から神を追い出すことが出来るかは分からんが、やれることはやってみる。
詳しいことが分かり次第報告するから待っていてくれ。」
「分かった。」
「それでだ。龍穂の精神をすり減らすような事が続いて申し訳ないが・・・涼音ちゃんが襲われた。」
「えっ・・・・?」
衝撃の報告に俺達は驚きの声を上げる。
「賀茂忠行が裏切った涼音ちゃんの存在を消そうとしたんだろう。
人気の無い所を歩いている所で襲われたようだ。
だが千仞の動きを見張っていた奴らが既に動き出しており身柄は確保、安全な所に避難させてある。」
涼音の無事を聞いて胸を撫で下ろす。俺達が八海に行っている間にそんなことがあったなんて・・・。
「精神的ダメージを考え綱秀君にも協力を仰ぎ、彼と一緒にいてもらっている。
こちらは緊急的に竜次に動いてもらったが・・・もしかすると白の動きをそちらに分散させることで
龍穂達への援軍を押さえることが狙いだったのかもしれない。」
平将通襲撃の際に涼音は情報を俺達の教えてくれた。
そのことに激怒した賀茂忠行が起こした行動なのは明らかだった。
「二人は無事だ。ひとまず安心してほしい。だが・・これからどうするかが問題になってくる。」
兼兄は純恋と桃子の方を見つめる。
「・・私らが守れっていうんか?」
「そうしてやってほしい。
一度は裏切ったとはいえ現在は同じ賀茂忠行に命を狙われる同士だ。
白の協力を得たとはいえ、ちー達も来年には国學館を卒業しなければならない。
だからこそ味方にできる者は積極的に味方にしていく。それが生き残るための方法だ。」
兼兄の説得を受けても純恋達は良い顔をしない。
涼音は確かに平将通を校内に入れ、純恋達を危機に陥れたがその行動はどこか不可解な所もある。
まるで純恋達を守ってくれと言わんばかりに俺に声をかけ、
非常ベルを押したのは自らの行動に疑念を持っていた証拠だ。
「・・兼兄は今すぐに仲良くなれなんて言っていない。
だけど・・・歩み寄ることはできるんじゃないか?」
これからの戦いを少しでもうまく立ち回るため。そして綱秀のためにも純恋達に説得の声をかける。
「まあ・・龍穂がそう言うんなら・・・・。」
俺の説得に純恋達は仕方なくだが折れてくれる。
嫌がる理由も分かるが俺の事情を知っている綱秀が近くにいる事もあり、
出来れば味方を増やしておきたい。
「うん、ありがとう。そうしてくれると助かる。次は少し早いが来年の新入生についてだ。」
兼兄が持っていたバックの中に入っている資料を取り出し机に出してくる。
「えっ・・・この子って・・・。」
「龍穂は見たことあるだろう。入学が確定している一人、”黒川茜”だ。」
新入生の経歴が書かれている資料に張られている写真には見覚えがあり、
平将通の襲撃時に図書館を襲った弟子のひとりである黒川茜の顔写真が張られていた。
「彼女が国學館に入学して来る。仲良くしてやってほしい。」
「そ、そんなことを言われても・・・・。」
敵として襲撃してきた奴と仲良くしてやってくれと言われても流石に難しい。
「・・実はオープンスクールの時、平さんと顔を合わせていてな。
当時は気付かなかったんだが寮を見張っている時、
この手紙がスーツの中に入れられている事に気付いた。」
そう言うと一枚の便箋を取り出す。そこには兼兄に向けた内容の手紙が書かれていた。
「弟子達を生かしてほしい。
彼らは自分に以上の才能を持っておりこの先に役に立つだろうと書かれていた。」
「平様も・・祖父のように脅されていた・・・という事ですか?」
「そうなんだろうな。
だが仙蔵さんのように事前に話を通してくれなかったおかげで被害が大きくなった。
それを踏まえた上で皇と稟議をもんだんだが・・・その願いを通すことにしたんだ。」
皇の意見が入った結果だと知って反論の声はぴたりと止む。
「二人の才能と技術は本物だ。
黒川茜に関してはまだ幼く国學館で腕を磨けば将来日ノ本を支えるような人物になるかもしれない。
だが龍穂達の気持ちも理解しているつもりだ。だからこうしてかなり速めに話しを通している。」
だとしても先ほどの純恋達と同様に敵をすぐに信用できはしない。
部屋には疑念の空気が漂っていた。
「黒川にはこの手紙の事については話している。
そして師匠である平さんを殺したともいえる賀茂忠行を倒すために入学すると言っていた。」
「でも・・・・・。」
「龍穂、この冬休み中に黒川と会ってやってくれ。
それで少しでも怪しいと思ったらすぐに入学を取り消す。」
なんと兼兄はこの空気を掻き消すために驚きの発言を放った。
「そんな権限俺には・・・・。」
「黒川の身柄はノエルに任せてある。近日中にノエルから段取りの連絡がくるだろう。
今回の事をノエルにも伝えておくから容赦なく判断してくれ。
これは龍穂達の今後に関わることだからな。」
無理やりと言ってもいいぐらいの強引な提案だが兼兄の強い意志がその眼からは伝わってくる。
「・・・本当にいいんだな?」
「いい。任せる。」
本人が俺達の首を狙っていればすぐにノエルさんに言うつもりだが
才能のある後輩が味方になってくれれば心強い。念を押して兼兄に確認し、俺は覚悟を決めた。
「助かる。これで龍穂達の報告は終わったが・・・純恋ちゃんと桃子ちゃん。俺と一緒に来てもらう。」
「・・なんでや?」
「お父さんから連絡が入ってな。
様々な事件に純恋ちゃん達が関わっている事を耳にしていて心配して会いたいと言っているんだ。
あの人も忙しい身だからな。
会えるのは正月ぐらいだから会いにいってやってほしいと皇からも話しをいただいている。」
純恋達のお父さん。と言うかご両親についてあまり話しを聞いたことが無い。
兼兄の話しを聞いた純恋はいかにも嫌そうな顔を浮かべ、
桃子は少し心配そうな顔で純恋をなだめていた。
「なんや・・いつも放っているくせに・・・。」
「やっと時間が取れたってことやん。会いに行こうや?」
「皇のついていくと言っている。断ってもいいが・・分かっているな?」
両親との関係はあまり良好では無い様で小言を呟きながらもため息をついて了承する。
「ああ、分かったわ。いくで。」
「大丈夫か?なんだったら俺もついていくけど・・・。」
「気持ちはありがたいけどじいちゃんが行くってことは親戚一同集まるっちゅうことや。
格式ある場に部外者は連れて来れん。気持ちだけ受け取っとくわ。」
皇がその場にいると言う事だけで全ての場が格式ある場になってしまう。
純恋の言う通り、俺がその場にいるだけでも迷惑が掛かってしまうだろう。
「そうか・・分かった。」
「少し離れたところに魔導車を用意してある。
すぐにでも出れるが・・・前に楓と千夏ちゃんに少し話しをしたい。
これからについての話しだ。二人と・・・青さん。そして・・・・イタカ。こっちに来てほしい。」
二人と俺の式神二人を連れてリビングを去っていく。
「・・兼定さんってイタカを使役している事知らんよな・・・。」
何故イタカを知っていて指名したかは分からないがこれも俺を思っての行動だろう。
今は待つしかないと天井を見上げると、扉の奥からどこかの部屋に入ったドアの音が聞こえた。
———————————————————————————————————————————————
「さて・・二人にはある提案があって呼び出した。」
千夏さんと龍穂さんの式神であるお二人と主に応接室に入る。
あえて私達だけを呼んでの提案と言うのは一体何なのだろうか?
「龍穂の実力もかなり上がってきた。
それに合わせて周りにいる人達の実力も当然上がってきているが・・・
これからの戦いはさらに厳しいものになる。」
兼定さんは白の部隊に所属しクトゥルフ教団を破壊して回っているので
クトゥルフの配下について非常によく知っている。
「・・・・・・・・。」
その言葉は戦いについていけていない私に実力不足を指摘しているように聞こえた。
「だからこそ二人を呼ばせてもらった。そして・・後ろのお二人もな。」
イタカと青さんは私達の後ろに立っている。
「久々だな。少し見ないうちに大きくなったものだ。」
「まだ小さかった私を覚えてくださっていたんですね。嬉しい限りです。」
「挨拶はそこまでにしておけ。兼定、お前の言いたいことはよくわかる。
イタカと先ほど話しておった。概ね賛成じゃ。人選もまずはこの二人でいいだろう。」
中身が見えてこない会話が続く。
「あの・・・一体何をする気なんですか?」
あまりにも気になってしまい思わず話しを遮り兼定さんに尋ねた。
「これはあくまで提案だ。楓は依然結んでいたが・・・龍穂と式神契約を結ばないか?」
兼定さんは私達に式神契約を持ちかけてきた。
「私は・・大丈夫ですけど・・・千夏さんはいかがですか?」
男女が式神契約を結んでいるという事は特別な関係を持っている証であり、
それを複数持っていると周りからあまり良い眼では見られない。
「やらせていただきます。」
だが江ノ島での宣言通り千夏さんは迷いなく兼定さんの提案を受け入れる。
「意気込みは大変うれしい。だが俺が提案しているのは少し特別な契約だ。
通常より深い契約をすることによって龍穂の力を扱えるようになったり、
鍛錬すれば式神を共有できるようになったりできる。」
式神契約に種類があるのは初耳だ。
どういう契約なのか気になるが深い契約は私にとって不利益はない。
「・・私自身、一番得意な魔術が限定された場面でしか力を発揮できず、
力になれていない自覚はあります。ですからその申し出、ぜひお受けしたいです。」
千夏さんも私と同じように契約を望んでいる様だった。
「そうか、それはありがたい。」
兼定さんは鞄から手に取り資料を机に置く。
「これが契約の儀式の方法だ。一対一でやるか二対一でやるかは二人の判断に任せる。
もし分からない所があれば後ろの二人に聞くと良い。」
そう言うと兼定さんは部屋を出ようとする。
「えっ?兼定さんが教えてくれるんじゃないんですか?」
「・・俺が教えることはないよ。龍穂と一緒に手探りで色々試してみると良い。」
そう言うとぶっきらぼうに部屋を出ていった。
「・・見て見ますか。」
千夏さんと共に用意された資料を開く。
「・・・・・・・・・・。」
「あ~そういう・・・・。」
中に書かれていた儀式の方法。なるほど。これは確かに兼定さんが何も言ってこないはずだ。
「・・どうします?二人でやりますか?」
慣れている・・・とは言えないがこういう役目は私だろうと千夏さんに尋ねる。
手で顔を覆いながら深く考えている千夏さん。
指の隙間から見える顔は真っ赤に染まっている様だった。
深く深呼吸をして覚悟を決める。
龍穂さんに追いつく、それには必要な事でありさらに寄り添うことが出来る格好の機会だ。
千夏さんの様子を確認しながら、姉へアドバイスをもらうために携帯を取り出した。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると
励みになりますのでよろしくお願いします!