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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第五幕 八海事変
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第九十話 八海の英雄

加治に連れられ藤野の影から出るとそこは幼い頃よく遊んだ八海の山中だった。


「ぐっ・・・・・!!!」


実家とは違う景色を見た事自体は予想出来ていた。真奈美に襲われた親父を藤野が逃がすために

立ち回ってくれていたみたいだが逃げきれずに劣勢に陥っていた。


「・・・・っ!!」


その光景を見た風太がすぐに動き出し、

真奈美の持つ大太刀に藤野が切られそうになっている所の間に入り刀で受け止める。


「あら、小蠅がわいたのね。」


少し前の真奈美であれば片手で風太と鍔迫り合いなどできないほどの非力であり、

得物も大太刀ではなく普通の刀を使っていた。

龍穂の言っていた通り真奈美の身に何かが起きたことは明白だった。


「定明!お前は影定さんの元へ行け!!」


少し離れた草むらに倒れている親父の姿があり、額からは血を流れている。


藤野のおかげで軽傷で済んでいるようだがこのままではマズイと

親父の前に立ち式神の烏を出して刀を構えた。


「親父、大丈夫か?」


「・・ああ、彼のおかげで何とかな。」


意識はあったようだが足に怪我を負っており素早い移動は困難な状態だった。


恐らくここまでの距離が離れていたのは足に怪我を負った親父を背負って逃げていた藤野が

攻撃を受けてしまい、ここまで吹き飛ばされてしまったのだろう。


「・・よく見たら役者がそろったのね。私の家、そして本来の主を陥れたこの地の癌である親子。

早くこの手で殺したいところだけど・・・小蠅達を潰してからでも遅くないわね。」


なんと片手の状態で風太を押し込み始める。


一体何が起きているのかと額から焦りの汗が流れるが、しっかりと観察すると

真奈美の体には黒い神力が流れており薄くだが体に何か巻き付いているように見えた。


「・・山祇!!」


もう少し観察して真奈美の異変の正体を掴みたいところだったがこのままだと風太がやられてしまう。


式神である山祇を呼び出し地面に生えている草や周りの木々を総動員して

真奈美の体に巻き付かせ動きを止める。


八海の山中であり山祇本来の力を引き出せる場であるのにも関わらず

真奈美の力を少しだけしか抑える事しかできなかったが

その隙を突いた風太は無詠唱の風の魔術を唱え起こした爆風を利用し、

距離を離しながら藤野を抱えこちらに縮地で飛んできた。


「すまん、手助けが遅れた。」


「いい。それより真奈美に巻き付いている奴・・・見えたか?」


「ああ、少しだけだが見えた。」


恐らく自らの力以上の神を使役している事で完全な姿の顕現を出来ていないのだろうが

それでもあれほどの力を出している奴をこのまま放っておくわけにはいかない。


「合流されたか・・・。じゃあまとめて叩き潰すしかないわね。」


大太刀を片手で持ち、こちらに歩いていく。このまま接近を許せば勝ち目はない。


「・・少し聞きたいことがある。」


どんな手を使ってでも時間を稼がなければならないと覚悟を決め真奈美に話しかけた。


「アンタ達と話している暇はないよ。早く潰さなきゃ。」


「お前が何故八海上杉家の人間に対して急に恨みを持ったのかが気になる。

俺達は良好な関係を築いていたはずだ。

その関係性が崩れてしまうほどの何かがお前の中で起きた。それは一体何なんだ?」


易々殺される気はないが真奈美が俺達を殺そうとしている理由を聞かなければ戦う気にはなれない。


「・・・いいわよ、話してあげる。」


こちらに進める足を止め、口を開く真奈美。


「元々この地を治めていたのは直江家。それはあんたも知っているわね?」


八海上杉家がこの地を任せされたのは戦国時代に直江家の当主が

水難事故で亡くなった後だと聞いている。


「アンタらがこの地の守護に就いたけど、直江家の血筋自体は残っていた。

だけどアンタらは・・・上から力で抑えて直江家の出世を妨げるどころか、

その血筋を断絶させたのよ・・・!!」


怒りがこもった声をぶつけるように親父に剣先を向ける。


「そこにいるクソジジイがね!!

この地を守ってきた方々を陥れ、その力で成り上がったアンタらを私は許さない・・・!!」


確かに真奈美の言う通り、かつてこの地を治めた直江家は日ノ本から姿を消した。


そのことに対して怒りを覚えているのは分かったが

それでも佐渡家は長年八海上杉家を支えてきてくれた。

直江家からうちに主君を変えたのは何百年も前、何故今頃恨みを晴らそうしているのか

理解できなかった。


「な、なんで・・・・。」


「真奈美の中にいる神に気を狂わされている。言葉での説得は無理だ。」


怪我をしているはずの親父は立ち上がり、

俺の使役している山祇の契約を無理やり奪い去り自らの使役下に置いてしまう。


「だが・・・・そんな上っ面の情報に踊らされている小娘にはお灸を据えてやらんとな。」


親父が得物である天地てんちを取り出し腰に差す。

それを見た真奈美は先ほどまでとは比較にならない警戒と殺気を放ち、親父に対して構えをとった。


「直江家の血は残っている。歴史上からあえて自ら姿を隠しこの日ノ本のために働いてくれている。

深く調べればわかるはずだ。だがお前は自分の早とちりで多くの被害を出した。


この愚行、八海上杉家当主である俺には裁く義務がある。」


これだけの殺気を放っている親父は見たことない。

それどころか戦う親父を見るのさえ片手で数えるほどだった。


龍穂は成人する前に実力で陰陽師試験を取った。

護国人柱など特殊な例を除けば歴代でもかなり速い取得記録だろう。

だが陰陽師が正式に資格として定められた後、最短記録を保持している天才がいる。


それが俺達の親父、上杉影定。

若干十二歳での陰陽師資格の取得に加え日ノ本を揺るがすほどの大事件を一人で止めた英雄。


その功績を称えられ神道省を上り詰めた後は基本的には机から動くことはなく、

後世のために人材の育成をしていたが俺の憧れた英雄がその手腕を振るおうとしている。


「またお主と共に戦えるとはな。」


普段滅多にしゃべることが無い山祇が自ら親父に語りかける。


「・・迷惑だったか?」


「いや、嬉しいと思ってな。わしを息子に託した時、

もうあのような日々を過ごすことはないと思っていた。」


親父は何体か式神を使役しているが一番の相棒はこの山祇であり、

その力の全て引き出せる唯一の存在だと神道省の職員から聞いていた。


「影定、見る限り奴は手ごわそうだ。本気を出さねばならんようだぞ?」


「そう急かすな。こんな窮地はいくらでも超えてきただろう。」


怪我している方の足を引き、ゆっくりと中腰に構えながら片手で鍔に親指を掛ける。


「これまでの乾いた日々に、お前の望み通り水を差すぞ。」


「簡単に終わらせてはつまらん。ゆっくりといこうか。」


二人は呼吸を合わせ、足を踏み出す。八海上杉家の存亡を賭けた戦いが始まった。


——————————————————————————————————————————————


「くっ・・・・・・!!!」


猛との鍔迫り合いはほぼ互角に終わり距離を取るため切り払う。


「どうだ?強くなっただろう。」


以前の記憶では俺と鍔迫り合いなんてありえなかった。


「そんなんを実力なんて言えるはずねぇだろ・・!!」


一応猛の指導みたいなことをしていたので成長したと心の底から褒めてやりたい所だったが

今の姿の猛にはそんな思いが微塵も出なかった。


「そうか・・・。なら無理やり認めさせるまでだ。」


猛の鱗の隙間から水が滴ってきたかと思うとまるで蛇口と捻ったように水が出てきて

体育館の床を埋めていく。


(龍穂、水の魔術は使うな。)


その様子を見た青さんが俺に注意をくれる。


(あの水には強い魔力が込められておる。

わしらでは絶対に操作を奪う事は出来んから気を付けよ。)


それほどまでに強い魔術。仙蔵さんの時の事を思い出す。


(・・青さんはひとまず俺の体の中にいてください。

いざという時には出てきてもらいますのでそのつもりでお願いします。)


魔帯刀を振るった時に水が出る事から青さんの最も強い魔力の属性は水だ。


龍である青さんの魔力を上回る者なんて数えるほどだろうが

牽制や攻撃、全ての行動に水魔術を用いる青さんはほぼ無効化されたと言ってもいいだろう。


だが青さんには木の魔術がある。

本来一番得意な魔術であり、強力な一撃を放つことが出来るが

どうしても時間がかかるのでひとまず俺の中にいてもらい

最期の詰めなど難しい場面で出てきてもらうのが一番だと判断した。


「水か・・・。じゃあ私の出番やな。」


後ろに純恋が前に出る。


「簡単な相手には見えんけど・・・どうにか突破口を探ってみる。

その間に隊列と作戦を整えておいてや。」


冷静な指示を送ると玉藻との神融和を行うがその神々しい見た目がさらに洗礼されており

九つの大きな尻尾からは青い炎をまとっていた。

周りの水分を蒸発させているのか近くからバチバチと音が鳴っている。


無言で桃子が純恋の横まで歩くが火傷している様子はない。


今までなら近づく桃子の体に火がついていてもおかしくなかったが

毛利先生の指導により魔術操作や式神術がさらなる向上を見せていた。


「炎・・・狐・・・・九尾の狐か?すごい仲間を連れているんだな。」


純恋を見た猛は俺の方を恨めしそうに睨む。


「ただの九尾の狐や無いで。玉藻の前や。アンタの水なんてすぐに蒸発させることが出来るで。」


宣言通り俺達の近づいている水は純恋から少し離れた一定の範囲から蒸発を始め、

こちらに届くことはない。

有言実行と言える純恋の言葉を聞いた猛は俯き小さく何かを呟いている。


「俺もそれくらい出来たら・・・・。」


口の動きからして何かを唱えている様には見えなかった。


「・・そうか。じゃあこうしようか。」


こちらを向き、鱗で覆われた両手を叩く。

すると床に覆いつくした海水に影が出来その中から大量の深き者ども達が現れた。


「俺にも仲間がいる。

龍穂の仲間のように頼りになるわけじゃないが全世界に散らばったこいつらを

いくらでも召喚できるんだ。」


召喚された深き者ども達はただ立ち尽くしていたが

それはまるで猛の指示を待っているかのように見えた。


「こいつらを・・・・殺せ!!!」


猛の指示を聞いた深き者ども達は一斉に走り出し手に備わる爪を見せこちらに向かってくる。


俺達はここまでの道中、嫌と言うほど同じような光景を目にしてきた。

その原因が猛と言う事実は俺の心に刺さったが覚悟は決めている。


こいつに罪をこれ以上重ねさせないため倒すための手段を巡らせ始めた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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