第九十一話 実力差に抱く嫉妬
深き者ども達の集団は純恋達に向かって駆けていくがそれを見た純恋は大きな太陽を作り出す。
「大日輪。」
少し前の純恋なら大きな火の玉を作り上げていたが今回は光り輝く大きな火の輪を作り上げる。
近づいてくる深き者ども達は純恋の太陽の輪を見て驚き足を止め怯えるように後ずさりを始めた。
純恋の弱点の一つである魔力消費量の多さ。
その消費量を抑えるため必要のない部分を削り取り効果のある太陽の光を
強調させた術へと変貌させたのはおそらく毛利先生の指導の甲斐あってなのだろう。
「怯むな!進め!!」
だが猛の命令が耳に入ったのか深き者ども達はまるで洗脳されたように歩み始める。
太陽に肌が焼かれ、激しい痛みが体中を襲っているはずなのに
一歩ずつ踏みしめながら純恋達の元へ突き進んでいった。
「来るか・・・。厄介やな・・・・・。」
いつもの純恋であれば自ら魔術を放つが隣にいる桃子に視線を送る。
「分かってる。行ってくるで。」
桃子も神融和を行い、完全な鎧姿の魔王に姿を変えると
歩みが遅くなった深き者ども達向かって走り切りつけ始めた。
放課後の鍛錬に俺も途中から参加し始めたが実力向上、
そして役割分担と連携を深めた二人は以前とは比べ物にならないほどの強さを誇る。
今の二人と交流会で戦ったとしたら俺達は勝ち目がなかっただろう。
「・・龍穂さん。ここはお二人のご厚意に甘えて我々で作戦を立てましょう。」
隣に移動してきた千夏さんと楓がこちらに声をかけてくる。
「こちらの人数有利で戦いが進められると思いましたが相手も対抗策を持っていましたね。
見たところあまり数は召喚できないようですが
あの口ぶりだと相当なストックを持っているのは確実。
このまま純恋さん達に奴らの相手をしてもらいつつ戦うのもありだと思いますが
燃費がよくなったとはいえ純恋さんが魔術を放つ時間にも限りがある。
そうなれば我々だけでの早期決着が求められるでしょう。」
三人で猛と戦って勝ち目はあるのかどうか。
先程の太刀筋だけでもどれだけの実力を秘めているのか
分からないと言えるほど猛の力は強大なことが伝わってきた。
「それでも・・・やるしかありませんね。」
限られた選択肢の中で勝利を掴み取る。
こんなことは戦場では日常茶飯事であり、人の手を借りながらも俺達は勝利をもぎ取ってきた。
だからこそ簡単に受け入れられたが、千夏さんが俺の背中を軽く叩いてくる。
「今までであればこの状況を受け入れなければなりませんでしたが今回は私がいます。
純恋さん達がいるといないでは大きな違いがある。
ですが例え私が欠けたとしても戦闘に大きな支障は出ないでしょう。」
確かに千夏さんは今までの戦いでなかなか活躍の場に恵まれなかった。
だがこういった冷静な判断や作戦を立ててくれる人物は俺達の中におらず、
非常に頼りになる存在だった。
「なんてことを言うんですか。千夏さんは俺達に必要ですよ。」
千夏さんの言葉を聞いて少し苛立ってしまい
声を荒げることはなかったが少し強めの声で千夏さんを否定する。
「・・ありがとうございます。ですがこれは本当ですよ。”今まで”であれば。」
千夏さんは俺の言葉を待っていたかのような切り返しをしてきた。
「あなた方には強い個性がある。
私にもありますが、なかなか出せる場面が無かった。
今この状況に置いて私は活躍できます。
ですから深き者ども達は私に任せて二人は前線に出てほしいと言っているのです。」
ネクロマンシーの事を言っているのだろうが純恋達が俺達と合流し、
あの日輪を止めた瞬間海が床を覆い出てきた深き者ども達に囲まれてしまうだろう。
「・・深き者ども達を任せするのは分かりました。ですが離れてしまっては意味が無い。
俺達の後ろについて来てきてください。」
守りに入るわけでは無いがこれではみんなを守れない。
千夏さんは俺に反論しようとしたが楓が止めに入ってくれる。
「龍穂さんにも考えがあるんだと思います。
それに・・・こうなってしまうという事を聞いてくれません。
ですからここは千夏さんが折れてくださると助かります。」
ここだけは譲れないと言う気持ちを楓が汲んでくれた。
千夏ンさんは俺の方をじっと見つめてきたが分かりましたと一言だけつぶやき俺の意見を飲んでくれた。
「私の術は魔力を切らなければ永続的に術が残ります。
ですので詠唱を続けることはありませんが指示を出す時はどうしても詠唱が必要です。
ですからその時は大きな隙が出来てしまうのでカバーをお願いします。」
千夏さんが得物を掲げ号令をかける。
「前を進め!!」
その言葉が体育館に鳴り響くと空いていた出入り口から何者かが侵入してきて
桃子が戦っている深き者ども達に襲い掛かる。
「亡くなった彼らには申し訳ないですが命を落とす原因を作った者への復讐をしていただきましょう。」
ここまでの道中、廊下などで亡くなって人達に向かってネクロマンシーを使い、
少しでも安堵の表情へと変えていた。
本心は少しでも安らかに眠ってほしいと願っていたのだろうが
状況に応じてその体を借りられように魔力を込めて回っていたのだろう。
「前の二人に合流して前線を押し上げましょう。純恋さん達の援護しつつ海の範囲を狭めるのです。」
的確な指示をくれる千夏さんはやはり近くにいてもらわないと困る。
純恋に大声を出し、縮地で距離を詰めて合流するが
日光の熱さを全く感じさせない見事な魔力操作を体で感じる。
「純恋さん、このまま前線を押し上げます。龍穂君は桃子さんと共に前に出てください。
楓さんと私は後ろで援護をしましょう。
まだ水はこちらに来ていないので深き者ども達の脅威は無いですが何が起こるか分かりません。
全方位への警戒を最大限にお願いします。」
猛達とは真反対の信頼のある統率の取れた攻撃に深き者ども達は圧倒されていく。
亡くなった彼らが作った隙を俺と桃子がついていき、次々と死体の山が作り上げられていった。
「・・・・・・・・・・・。」
その姿を立ち尽くしたままじっと見つめている猛。
俺を倒せると息巻いて出てきたのに思わぬ展開に唖然としているのだろうか?
どれだけ強い力を持っていたとしても実戦経験が乏しいとどうしてもとっさの判断、
そして流れを読めずに劣勢に追い込まれてしまう。
力が強く無限と言っていいほどの戦力を持つ猛の大きな弱点の一つが露わになった。
「・・・・ふふっ。」
水の面積を狭くしていけばこのまま追い込める。
そう思ったその時、猛は息を吐くように笑い始める。
「こうでなくっちゃなあ・・・!!!」
目の前の光景に目を背けるように狂いだし俺に向かって走ってくる。
縮地も使わない隙が大きい無謀と言える突進に近くにいた桃子が身構えるが手を出しだし六華を構える。
猛との決着は俺自身が付けなければならない。
このまま猛の突進を受け止めようとしたが後ろから飛んでくる無数の魔術や神術が猛を襲う。
「頼れる仲間・・・クソッ!!!」
最短での援護なので威力は弱く強化された猛の皮膚を貫くことはないが
その光景を見た猛は明らかにイラつき顔をしかめている。
猛は気が狂っているとばかり思っていたが
そうであれば何も考えることなく突っ込んでくるだろう。
イラつきはまだ正常な精神がある証拠だ。
それは授かったと言っていた神に精神を完全に乗っ取られていないと言う証拠でもある。
引き剥がす方法は分からないがどうにかして猛を救い出せる可能性があるという事だ。
「俺は・・・俺は!!!」
俺に向かってイラつきを乗せた一撃を放つため刀を大きく振りかぶる。
大きすぎる隙に自然と体が反応し、兎歩で駆けだす。
「・・!?」
猛と俺は純恋の太陽と直線的に並んでいた。
そして眩しすぎる太陽から目を守るために俺を壁にしてこちらに突っ込んできており
俺が少しでも足を動かせば目くらましになる。
「一兎流・・・。」
これも毛利先生との鍛錬の中で生み出した連携だが考案してきたのは純恋だ。
その戦闘スタイルから後衛での遠距離を主戦場としている純恋だからこそ見える視点が
敵の一瞬の隙を意図的に作り出せる技を作り出した。
あまりの眩しさに手で光を遮りながら薄めで突っ込んでくる猛は俺の兎歩の動きに対応できていない。
がら空きとなった腹に刃を突き立て流れるように鱗の隙間を切りつけると手には
肉が割ける感触が伝わってきた。
「月蝕。」
太陽が月と重なる時、闇夜に隠れ姿を消す。
「おおおおぉぉぉ!!!!」
ここで勝負を決めようと力を入れて、刀身を押し付ける。
勝機に戻る方法が分からない以上戦闘不能に追い込まなければならない。
今の強大な力を持つ猛を止めるのであればそれ相応の傷を負わせなければならない。
だがどれだけ力を込めても一定の深さまでは全く進まずむしろ押し返されてしまう。
それはまるで体の中から誰かが押しているような感覚だった。
「ぐっ・・・クソッ!!!」
このままでは浅い傷のまま距離を詰められ何をされるかわからない。
刀を振るい、猛を吹き飛ばし体育館の壁に吹き飛ばした。
打ち付けられた猛は木製の壁を破壊し砂埃を巻き上げる。
純恋がその隙を逃すことなく残りを水を蒸発させるため太陽の輪を動かし、
猛が吹き飛ばされたことに動揺した深き者ども達を桃子や生徒達が対処した。
ひとまずこれで深き者ども達の召喚を防ぎ、体育館を広く優位に取ることが出来た。
今から水を出し召喚を試みたとしても囲うように追い詰めれば猛は倒せる。
そう踏んでいた俺たちがゆっくりと足を踏み出そうとすると頭の中に言葉が響く。
『侮るな。奴はクトゥルフに代われるほどの力を持っている。』
そう頭に響いた瞬間、吹き飛ばした位置からすさまじい魔力が溢れてくる。
それは俺達の体に危機と報せるには十分であり進めるはずの足で後ろに跳ね距離を取った。
「フフッ・・・フハハハハハ!!!!!」
砂埃の中から笑い声が響く。
だがその声はそこにいるはずの猛の声でではなく低く、成熟した男性のような声。
そしてその声が邪悪だとすぐに分かるようなどす黒い狂気の存在が現れたことをはっきりと示していた。
「礼を言うぞ。こやつの”欲”を引き出してくれてな。」
砂煙の中に影が映る。その姿は猛と同じ大きさだったが纏う力が段違いだった。
「清水瀬猛と言ったか。
こやつはな、お前の実力、そして活躍を賞賛する共に恨めしく思っておった。
近づこうと努力するも決して届かないような位置まで既に辿りついているお前を・・・羨んだ。」
影の主が足を踏み出し砂煙の中から姿を現す。
薄紫の鱗、そして肌。額には何やら魔法陣が書かれた姿はもう猛とは言えなかった。
「そんなこやつにつけこもうとしたがなかなか強情でな。
だがお前や仲間たちの実力を目の前でまざまざと見せつけられてしまい、
とうとう心が折れ俺の意識が全面に押し出されてきた。
すなわち我、密教の王である”ダゴン”に体を預けたという事だ。」
歓喜するその姿は自らを王と称するにふさわしいと言えるほどの立ち振る舞いと力を秘めており
俺達人間と全くの別種族、神であることをまざまざと示している。
「さあ始めようぞ名状しがたい者の眷属よ。未熟なお前がどれだけこのダゴンを楽しませられるかな?」
俺を煽るような言葉の後、両手を叩くと再び体から水が流れ出すが
透明なはずの色の水が黒く染まっている。
猛の中にいる神が正体を現した。この時点で既に助けることはほぼ不可能と言っていいだろう。
だが生き残るには戦うしかないと六華を強く握ると込めていないはずなのに
神力が徐々に増していることに気が付いた。
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