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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第四幕 陰陽師試験
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第七十五話 本音の説得

綱秀が確信的な言葉を俺にぶつけてくる。


「・・・・お前何を背負っているんだ?」


言葉に詰まる。


三人に囲まれているので逃げることはできない。

当初の予定通り上手くはぐらかそうと必死に頭を回転させて口を開こうとした時、


「軽く言えないもん背負ってるんなら俺が背負っているを言ってやる。

それでどうだ?」


はぐらかせないような条件を提示してきた。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」


急いで止めに入るが綱秀はこちらを睨みつけており退く様子を見せない。

なんでそんなことになったのか理由を聞けばさらに逃げられなくなるかもしれない。


どうにかして綱秀を口を塞ぎたいところだがそれを阻むように謙太郎さんが口を開いた。


「ぜひ聞かせてもらいたいな。

前回、前々回と立て続けに起こった三道省を揺るがす事件。

その全てに龍穂、お前が絡んでいる。


千夏や純恋、桃子や楓と言った他のメンツにも話を聞いたがだんまりを貫かれてしまった。

別に龍穂が何か悪さをしているとは思っていない。

だがこれだけの出来事を起こしている理由をお前が知っているのなら

多少とはいえ巻き込まれた俺達もその理由を知る権利があると思っている。」


この二人も俺の話しを聞きにいたようで先程の話しはただの前座だったようだ。

だが責任感の強い謙太郎さんや綱秀が話しを聞けば

俺の一族の件に首を突っ込んでくることは目に見えている。


「・・・・・・・・・・・・」


黙ることでこの三人を守ることになる。俺は口を堅く閉じる。


「・・あまりこんなことを言いたくはないんだけどな。」


喋ろうとしない俺を見て伊達さんが頭を掻きながらため息をつく。


「あの事件で勅命に従って国學館を出た母さんが龍穂について探るために動いているみたいなんだ。

そして今回の事件が公に出たことで大義名分を得た公安も動いていると聞く。


校長先生に皇太子を据えたことによって直接龍穂を調べるなんてことはないだろうが

俺達に協力を仰いで調査に入ることは容易に予想できる。


相当な事情を抱えているからこそ黙っているのかもしれないが

今ここで聞くことが出来なければ次はもっと強引に話しを聞かなければならないかもしれない。」


俺が置かれている状況を冷静に語り淡々と追い込んでいく。


「謙太郎の言う通り俺達は龍穂を疑ってはいない。

ここで話すことは俺達以外に他言しないと約束する。


それは俺の母さんを含め他の生徒達が探りに来たとしてもだ。

俺達を助けると思って話してくれないか?」


そして強力な一つの選択肢を提示してきた。


逃げ道を完全に防ぎ、一つの道に背中を押されてしまった。

ここまでされては立ち止まることも後ろを振り返ることはできない。


「・・聞いたことで三人にも危険が及ぶ可能性があります。それでもいいですか?」


これだけ丁寧に誘導された上で断ってしまえば三人の信頼を無くしてしまうだろう。

聞くことにリスクがあると前置きすると三人は無言で頷く。


「俺も初めて聞いた時は信じられなかったんですが・・・・・。」


俺の先祖が犯し続けている罪とその子孫達の使命を三人に語った。


———————————————————————————————————————————————


「—————————ということなんです。」


俺の一族の使命を全て話すが三人は言葉を発さずに

腕を組んだり天井を見上げたりと各々別の姿勢で深く考えている。


「・・・・・それは本当なのか?」


このおとぎ話であってほしい使命の真偽を確認するため、口を開いたのは謙太郎さんだ。


「襲撃をかけた二人は俺の先祖である賀茂忠行の部下を自称しており

そいつが作った組織である千仞を名乗っていました。


日ノ本に多大なる貢献をしてきた仙蔵さんがこんな騒動を起こしたのは

賀茂忠行に脅されていたからだと聞いています。」


いくら説明をしても納得がいかない様子の三人。


(まあ・・当たり前だよな・・・。)


目の前で仙蔵さんや平と対峙したからこそ使命の話しを飲み込めてはいるものの

やはり現実味の無い話だと説明しながら改めて思う。


「・・卓也、綱秀。どう思う?」


「嘘をついている顔をしてはいない。信じていいと思うが・・・・。」


伊達さんは俺の話しを信じ切れないようであり

どうしたものかと言わんばかりに小さく唸りながら大きく息を吐く。


「俺は信じる。」


一方綱秀は先ほどまで深く考えている素振りを見せていたが

まるで吹っ切れたように俺の話しを飲み込んでくれた。


「・・なぜそう簡単に受け入れられる?」


「お二人が悩むのも分かります。

龍穂の顔からも話していながら現実味が無い話だと伝わってきますし。


ですけど・・俺は涼音の話しを聞いています。

なのでお二人よりか龍穂の話しを受け入れることが出来るんです。」


ここで涼音の名前が出てきた。俺も綱秀に聞きたかった話しだ。


「業の隊員に連れていかれた話だな。尋問の時に龍穂の話しが出てきたのか?」


「ええ。」


———————————————————————————————————————————————


業の方に学校の奥の部屋に連れていかれそこにある部屋で尋問が行われました。


「・・・・・・・・」


ですが尋問を行う部屋にしてはまるで人が生活できるような家具が整った部屋で

涼音は置かれたソファーの上に腰を掛けるように指示を受け俺は業の方に別室に連れられたんです。


「綱秀君。」


そして涼音に聞こえないように小さな声で指示を受けました。


「あなたには涼音さんから平将通がなぜこのような行動を起こしたのか、

その情報を話し合いで引き抜いてもらいます。」


「・・分かりました。」


「ですがその前に一言だけ伝えておかなければならないことがあるのです。」


別室の扉に着いた小窓を覗いた業の方の顔は裏切者である涼音を何故か憐れむような表情でした。


「涼音さんの裏切りは非常に重い罪です。

これから平が起こす行動によっては国家転覆罪に相当する可能性を秘めています。


そうなれば・・・彼女は当然死刑になる。

短い間かもしれませんが国學館で共に過ごしてきたご学友の結末が

悲惨なものになるのは綱秀君も辛いでしょう。」


あの人が語った内容。

今考えれば俺に対する脅しだったのかもしれません。


「ですがそれはこのままいけばの話しです。

平が行動を起こしていない今であれば涼音さんの罪を軽くすることが出来ます。」


「・・・どうすれば軽くできるんですか。」


「先程も一体用に情報を抜き取る。それも的確であり、深い情報が必要です。


平の思惑、そしてこの行動が何を意味することなのか。

有用な情報を引き出せば引き出すほど涼音さんの罪は軽くなります。」


肩に手を置いて目を真っすぐ見つめてきたことの意味を俺は感じ取りました。


「それを出来るのはあなただけです。いいですね?」


失敗は許されない。

涼音の命はお前にかかっているその重みを言葉だけではなく表情で伝えてきたんです。


「・・入るぞ。」


その言葉に真っすぐ頷いて俺は涼音のいる部屋に入りました。

座っているソファーの対面にも同じ物が置かれていましたがあえて涼音の隣に座る事にしました。


「・・・・・・・・・・・」


項垂れるように俯く涼音は動く気配はありませんでしたが

絶対に逃がさないことを示すためとどんな小さな一言でも逃さないようにするためです。


「・・・・・・なあ。」


こういう時なんて言い出したらいいかわからず声を出したんですが涼音から返答はありません。


「・・なんでこんなことをしたんだ?」


ひとまず素直に聞いてみたんですが涼音は腿に置いた手を強く握りしめるだけで

言葉が帰ってくることはなかったです。


拳を作る音が聞こえるほど沈黙が流れる部屋の中で

涼音が起こした些細な行動が俺を拒んでいるように思えて仕方なかったんです。


「・・・・・・・・・・・」


なのでまずは拒んでいる意志を解くことから始めようと思い握られた拳を包むように手を添えました。


「さっき業の人と話した。

このままだとお前は死刑になるかもしれないって言われたよ。」


俺の言葉にやっと反応を示した涼音でしたが帰ってきた言葉は俺にとって残酷な答えでした。


「・・・それでいい。」


「何・・言ってんだ・・・・?」


「それでいいって言ってんの。私が犯した罪の重さ位重々分かってる。

だから・・・一人で死なせて。」


絞り出したように小さな声が示したのは罪をそのまま受け入れる事。


涼音は・・・死を望んでいました。


「・・本気で言ってんのか。」


「言ってる。もう疲れたの。だからこのまま死なせて。」


先程が嘘のように強くはっきりとした声で拒んで来たんですが

嘘をつく時にこういうことをするのを俺は知っていました。


「っ・・・・・・。」


本音を言えばばかやろうと引っぱたいてやりたかったですが

それをしてしまえばもうまともな話し合いは出来ない。


「・・・・生きてくれ。」


なので・・・・俺の本心をぶつけてやることにしたんです。


「はあ・・・・・?」


「生きてほしいんだ。」


「・・・綱秀のお願いでも無理。

もうこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないの。


これでやっとパパとママにまた会える。だから・・・邪魔しないで。」


涼音の両親が不慮の事故で他界していることは聞いていましたが事故の内容が公開されず、

両親のお葬式で最後の別れを直接言えなかったそうです。

推薦を受けた涼音は地元に残る選択肢もあったそうですが

神道省に入り両親が巻き込まれた事故の真相を暴くために国學館に入学したんです。


酷いいじめにあったとしても耐え抜く強靭な精神力を持つ涼音がこんな簡単に折れることはない。

間近で見て共に戦った俺に対してそんな嘘をつく涼音を見た瞬間、

なんとも表現できない悲しみが心に流れ込んできました。


「頼む・・・・・。」


言い争いもしたくない。だけど涼音を殺したくない。

そんな思いが交差している俺から出た言葉は・・・祈りでした。


添えている手に額を乗せ、まるで子供みたいに駄々をこねて

涼音に訴えかける事しかできない俺を見て涼音がどう思ったのかわかりません。


「・・・・・・・・・・・」


少し時間が経ち、涼音がもう片方の手で俺の背中を擦ってくれた後、


「・・・・・バカね。」


観念したような一言が耳に伝わってきて思わず顔を上げると

同じように目を腫らした涼音とやっと目を合わせることが出来ました。



——————————————————————————————————————————————


「そこから涼音は知っている事を話してくれました。


平将通は両親亡き後涼音を引き取ってくれた恩人であり

厳しくも優しく、人格者であった人が高校在学中に突然龍穂を狙うと言い出したこと。


だけど弟子や私を巻き込む気ではなく単独でやるつもりだった所を無理やり参加したこと。

そして密かに調べたところ、龍穂が言っていた賀茂忠行と

千仞と言う組織の名前が分かった事を教えてくれました。」


俺達とは違う場所で綱秀も戦っており今まで勝ち取った信頼と素直な本心により

強情で氷のように固い涼音な心を溶かすことに成功したようだ。


「大変だったみたいだな。」


労いの言葉をかける謙太郎さんに対し綱秀は首を横に振る。


「いえ、実際に被害にあった龍穂の方が大変だったでしょう。

それに・・・まだ涼音は帰って来てません。


今回の襲撃の罪で捕まっているとは聞いていませんが

もし帰ってくるのなら・・・全員が涼音と距離を取るはずです。」


敵をこの国學館に侵入させた事実は警戒する理由としては十分すぎる。


「それは当然だとは思いますが・・・・

帰ってくるように仕向けた俺にも責任はありますから

ここからが本当の戦いだと思っています。」


大変なのはむしろここからだと綱秀は思っているようだが

一番被害にあった俺は涼音が完全に悪だとは思っていない。


襲われている純恋達を助けられたのは間違いなく涼音のおかげだ。

俺に意味深な一言をかけてくれなかったら純恋達は下手をすれば殺されていたかもしれない。

涼音の中の良心がそうさせたのかはわからないが思う所があったのなら涼音はまだやり直せるはずだ。


「なるほど・・・。その話があったから龍穂の話しを飲み込めたのか。

であれば俺達も納得せざるおえないな。」


綱秀の説明を聞いた二人も俺が背負う使命を理解してくれたようだ。


「じゃあ他の人達には・・・・。」


「ああ、他言無用だ。聞かれたとしても何も答えない。俺達の口は堅いぞ?安心しろ!」


笑顔で俺の肩を痛い位に何度も叩いてくる謙太郎さん。

二人からの信頼を勝ち取れて本当に良かった。


(これも・・・綱秀のおかげだな。)


涼音への説得は綱秀にとって他人に聞かれたくないような赤裸々な

場面だったと思うが素直に話してくれたおかげで二人も俺を信じてくれた。


お礼を言おうと綱秀の方を見るが、三年生二人とは違い厳しい表情を解いておらず

こちらをじっと見つめていた。


「・・じゃあ俺の話しをさせてもらう。」


「・・?もう話したじゃないか。」


「今のは龍穂の話しに信憑性を持たせるためだけの話しです。

それに龍穂も自分の命を狙う奴の部下だった涼音の話しは気になっていたでしょうからね。」


気になっていたのは事実だ。

だが今の話しは綱秀が聞かれたくないと思っても仕方の無いような内容だったはず。

綱秀にはこれ以上に何かを背負っているというのか?


「龍穂と同じく他言無用でお願いします。

まあ俺の話しは他人に被害が出るようなやつじゃないんですけどね。」


そう言うと綱秀は静かに語り始めた。


「龍穂の話しを飲み込めたのは涼音の話しを聞いたこともありますがそれだけじゃないんです。

実は俺も・・・・似たようなもんでしてね。」


「似たようなもん?」


そう言うと綱秀は右腕をまくりこちらに見せてくる。


「これ・・・見えるか?」


右腕には大きな青いあざが出来ているが大浴場で一緒に湯船に入っていた時にはなかったはずだ。


青いあざは何かぶつけたというには不自然なほど奇妙の模様を浮かべており

遠目から見たら何か叫んでいるような人の顔が浮かび上がってくるように見えた。


「うちの一族は・・・呪われているんだ。」


痣からは綱秀とは別の神力が感じ取ることが出来、話しの信憑性が増す。

北条家に伝わる呪いについて綱秀は語り始めた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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