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第四百九十三話 贖罪を求める者達

「・・まだ行けへんのか!?」


龍穂達への援軍に備えていた純恋は大声を上げる。二体の神々は打ち倒した。

後は龍穂達の元へ向かうだけ。だが、どれだけ待とうが星空は援軍に向かう気配を見せない。


「まあ待て。この人数でこのまま突っ込んだとしても、まともに戦えない。」


その原因は星空の残存勢力にあった。純恋達が合流を果たす前、

倒れない宇宙の神々相手を何とか抑えこんでいたが、かなりの被害が生まれていた。

無事な者。治療を受けてれば再度戦場に立てる者。戦場に立てないほどの傷を負っている者。

そして・・・既に命を落としている者が混在している中で、再度部隊を編成した上で

戦力を維持しつつ統率が取れる様に再度編成する必要があった。


「治療が必要な奴らはもう分かってんねんやろ!?部隊の編制なんてすぐ終わるやんか!!」


「・・純恋。そう声を荒げるな。」


焦る純恋に対し、陽菜が落ち着けと声をかける。


「敵は強大だ。中途半端な戦力では決め手に欠ける所かすぐに圧倒させる。

残された隊員の役割などを把握した上での再編成は必須———————————」


「んな事は分かってんねん!竜次先生や毛利先生がそこん所をしっかり早くしとるやろ!」


混戦且つ長丁場の戦闘経験を積んでいる竜次達が各隊員の特徴などを把握していない訳がない。

それらを考慮すればすぐにでも編成は出来る。それを把握した上での怒りだった。


「・・お気持ちは分かりますがここは一度落ち着くべき。」


竜次達と話しをしていた千夏が戻り、木星達の声をかける。


「なんでや!龍穂達を優先すべきやろ!?」


「それはそうです。ですが我々の真の優先順位をしっかりと見据えるのです。」


龍穂と共に生きる。そのためには龍穂のいる戦場に向かわなければならない。

今までの純恋であれば何も間違っていないと反論するだろうが、

過去で大切な人を失った経験が口を噤ませる。


「勝利。我々の行動の大原則です。その勝利を龍穂君とつかむことこそ我らも目標。

このままいけば敗北の可能性を高めるだけ。ここは龍穂君を信じ、

しっかりと戦える戦力を整えるべきです。」


「・・それは分かっとる。だけど戦力を増やすと言ってもそんな短時間の治療で

動けるケガ人なんておらんやろ。じっとしていても戦力は増えん。」


純恋の言い分も筋が通っている。戦力の増強など出来やしない。

その理由は単純。話しに出た通り、援軍が無ければ大きな動きなど出来やしない。


「手数が限られている以上、色々やりくりせなアカンことぐらいは分かっている。

竜次先生達ならそれが出来ることもや。」


何が出来て、何が出来ないのか。それを長達はよく理解している。

そしてそれは龍穂達にも言える事であり、消耗が激しければ打つ手も限られる。

それにあの賀茂忠行相手だ。時間をかければかけるほどリスクは高まる。

どれだけ早く動けるかで戦況は大きく変わるのにも関わらず、

こうして動かない状況に純恋は納得がいっていなかった。


「純恋さん。あなたと言っている事は何一つとして間違っていない。

ですが・・・少し回りが見えていない様ですね。」


辺りを見渡す千夏。その言葉と行動の意図が分からない純恋は、苛立ちを隠せない。


「何や。本当に増援があるとでもいうんか?」


「はい。それを証拠に・・・・・楓さんがここにいないでしょう?」


千夏と共に竜次に呼ばれた楓。未だに姿を見せず、見渡してもどこにもいない。


「・・・・・どういう事や。」


「戦場に立つ我々だけで戦っているわけではありません。これまでの道のりで

共に戦ってくれた方々がいらっしゃいます。」


「いや、それはいっぱいおるけどここに立つには実力不足や。

まさかそいつらをここに立たせようって言うんか?」


非戦闘員ではないが、賀茂忠行との戦いに巻き込むには力の劣る味方は

後方支援に回ってもらっていた。

確かに彼らを戦場に引き出せば単純な戦力が増加するかもしれない。

だが、実戦不足でもある彼らが部隊に加わることで細かい連携にズレが出てしまえば

大きな隙が生まれる。むしろ大幅に戦力を落としてしまう結果となる。


「全員を連れてくるわけではありません。後方でも戦闘が行われていると

連絡を受けており、皇太子様主導のもとこちらに連れてくる戦力の選定を行っています。」


「まあ・・・・・それしかないんか・・・。これ以上被害が増えるのは

怖いけどな・・・・・。」


「こればかりは仕方がありません。敵に粘られた。それ以外に言える事はありません。

増援自体はかなり限られるでしょう。決して戦力が元に戻るなど期待はしていない。

ですがそれは戦線加わる方々の数が限られているだけであり、

回復に長けた方々もこちらに向かって来ているとの情報が入っています。

時間が経てば戦力が戻ってくる。そして・・・・・その時間を稼げる人材を

楓さんが迎えに行っています。」


賀茂忠行相手に時間を稼ぐというのは、同等な力を持っていなければならない。

それほどの力が無ければ簡単に追い込まれるだろうが、

そんな奴がいればすぐさま戦線に投入されているはず。


「そんな奴・・・・・。」


いる訳がない。猫の手でも借りたい状況下でそんな都合の良い味方が・・・・・。


「・・・・・あっ。」


そう思っていた純恋の頭の中に二人の人物が思い浮かぶ。

いや、二柱と言った方が正しい。とてつもない戦力。あの二柱であれば

必ず龍穂の力になってくれる。


「・・・・・戻りました。」


そして絶妙なタイミングで千夏の影から楓の声が聞こえる。

戻ってきた楓は、自らの影から二人の助っ人を呼び出す。


「出てきてください。もう、あなた方を拒む人はいませんから・・・・。」


治療の時間を稼げる。いや、戦況を変えられるほどの力を持った二柱。

資料の中ではクトゥルフの代わりに主神として扱われることもあるほどの力を持つ

ダゴンを体に宿した猛と、その妻であるハイドラの力を有した真奈美。


「彼らを戦線に投入出来れば流れを変えることができる。

彼らを説得した上でここに連れてくる時間が必要だった・・・。ご理解いただけましたか?」


この戦場において誰もが欲していた戦力。一度敵対した身とは言え、堕とし子達を

完全に封じ込めていた実績は全員の信頼を得ていた。


「・・・・・・・・・・・。」


だが、それは純恋達視点の話しであり、八海での事件を起こした罪悪感は

二人の心身を縛り上げている。星空の一員としてこの戦線に加わる事さえも

彼らを苦しめており、それを証拠に誰一人として目を合わせようとはしない。


「・・連れては来ました。後はお二人と皆さん次第かと。」


その心境を把握していた竜次達は接点のある楓をあえて向かわせていた。

あまり接点のない長達のいずれかが行けば、あまり気を使わず説得を行えただろう。

だが、二人が犯した罪をよく知るか楓が説得することで心に抱える蟠りから

開放させようと皇太子は考えた。

目線の合わない二人を見て、純恋達は口を開くことは無い。

それは決して謝罪を求めているわけではなく、どのような言葉が彼らの心の呪縛を

解き放ち、戦線に加えるのか見当が付かなかった。


「・・・・・すまなかった。」


誰も口を開くことなく、沈黙が流れていた空間を引き裂いたのは猛の言葉。

深々と頭を下げ、今までの非礼を詫びるための謝罪を申し出る。

続いた真奈美と二人の頭を見下ろした純恋達。簡単には朽ちは開かない。


「・・・・・・・許すことは出来へん。」


そして・・・開口一番放たれたのは受け入れ慣れないと言う厳しい言葉。

それを放ったのは純恋だった。


「あの事件で一番の被害にあったのは私達やない。それを私達が勝手に許す事なんて

出来へん。」


罪の重さ。それはたった一度の謝罪では到底に拭えないほどの重量を猛達に背負わせている。

それを自分達が勝手に許すことはできない。仮に許せば払拭できない罪を

自分達が背負う羽目になる。あの事件の悲惨さを体感している純恋には、

軽はずみな行動はとれなかった。


「それはアンタらが一生かけて背負っていく罪や。背負う事は出来へん。

やけど、それはこの日ノ本があり続ける前提での贖罪。

その贖罪に手を貸すことなら出来る。」


代わりに背負うではない。その罪を償う事を手助けする事なら出来る。

たったそれだけ。だが、二人にとってしてみれば龍穂を助けるための戦いを

共に歩める喜びは喉から手が出るほどに望んだ機会だった。


「・・・・・・・・ありがとう。」


頭を下げたまま、二人は感謝を伝える。そして、言葉を交わす事なく竜次達の元へ

向かって行った。

各々が特別な事情を抱える戦場。猛と真奈美が参戦したことにより、、それはより複雑に

絡み合う形となった。

未来を望む者。過去への決別をつける者。各々が見つめる視点は違えど歩む先は同じ。


「・・・・・よし!!全員聞いてくれ!!!」


猛達を迎えた竜次達は準備が整ったと声を上げる。決戦後に向かう再編成が行われようとしていた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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